第105話 一時帰国1
ときは少しさかのぼって、アメリカに来てまだ3か月くかそこらくらいという頃。
別に何があると言うわけでもないのだが、やっとアメリカでの生活に慣れた頃、キャンパスクローズということで、大学が数日間休みとなった。
そうなるとやることは一つ。
そう、一時帰国である。
日本の家に帰って、少しゆっくりしよう。
部屋は週一でハウスキーパーさんを入れているのですぐ泊まれるはずだ。
これまでもかなりの短期スパンで弾丸で日本に帰ってたりはするのだけども。
日本行きの航空券は、キャンパスクローズの日程が分かった段階で即予約した。
先生にくっついてヨーロッパなど様々な国に行ったことと、地道なマイル修行によって溜まりに溜まったマイルで、ビジネスクラスを。
いつも通り青い方の飛行機会社なのだが、なぜ青い方かと言うと羽田ニューヨーク便はビジネスクラスの席数が赤い方より多いので予約が取りやすいのだ。
ニューヨークから羽田の機内は約13時間、その間暇なのでマリア先生から出された課題をひたすらこなす。
ぶっちゃけマリア先生の仕事みたいな課題が多いのだが、売れる恩は売っておこう。
ところで、最近は私がお金を払うわけではないので、ビジネスクラス以上の席種になることが多いのだが、これに慣れると本当にエコノミーに乗れなくなる。
エコノミー乗るくらいなら乗らなくて良いやと。
私も早く先生のように航空会社から大事にされるお客さんになりたいものである。
マリア先生の仕事をこなすこと数刻。
そろそろ消灯時間らしい。
ビジネスではファーストクラスと違い自分でベットメイクをするのだけど、
青い方はビジネスからシートがフルフラットになるのが良いよね。
寝やすさが全然違うもん。
本当に油断すると寝過ぎちゃうので目覚ましをかけて就寝。
就寝。
就寝…?
あれ、寝られないな。
やばい、全然眠くない。
機内の散歩でもするか。
なんでも、最近飛行機が新しくなったので散歩しても結構楽しい。
新しい飛行機ではビジネスクラスがほぼ個室になってくれたのでとても嬉しい。
「藤原様、眠れませんか?」
「!?」
突然話しかけられてめちゃくちゃびっくりした。
誰かと思えば担当のCAさんでした。
「ふふっ、驚かせちゃってすいません。」
「まさかこんなところで突然名前を呼ばれるとはびっくりしました。」
「驚かせちゃいましたね。
でも、藤原様には私の方から一方的に親近感を感じておりまして。」
「と、いいますと?」
「実は機内でお会いするの5回目くらいなんですよ。」
「えっ、そんなに!?」
「そんなに、です。」
目の前の美しいCAさんははにかみながら笑っていた。
なんでも、CAさんの勤務体系は国際線の場合、乗務で日本を出て、現地空港について近くのホテルで休みがあって、また翌日日本に戻って1日か2日の休みがあってまた国際線ということが多いのだとか。
たしかに、私が日本に帰る時も通常なら滞在は1〜2日なのでサイクルが合っている。
「そう言うことなんですね。」
「はい、そういうことです。」
「でもよく覚えてましたね。早坂さん」
自分だけ名前を知られているというのも具合が悪いので自己紹介してもらった。
早坂さんというらしく、国際線に乗り始めて2年目らしい。
「初めてお見かけした時は、若い方がいらっしゃるなぁ。と。
二度目にお見かけした時は、あれ、見たことあるぞ。と。
三度目からはお馴染みのお客様として。」
「じゃあ六度目からはお友達としてとかどうですか?」
「え!良いんですか?」
「もちろん。私今回の日本滞在は少し余裕があるんでご飯でもどうですか?」
「ぜひ予定が合えば!」
「やった!これ個人連絡先なんでどうぞ。」
めっちゃゴリゴリのナンパしてるな、私。
深夜テンションってやつか?
海外で日本人見つけると親近感がわくやつかもしれない。
「ありがとうございます。
日本について落ち着いたら連絡させていただきますね!」
「お待ちしております。」
久々に日本語をしっかり話せてスッキリした。
やっぱり日本語話者なんだなぁと思うよ。
そのあとは難なく寝られて、あっという間に朝。
朝食?はもちろんラーメン。
空ラーは本当にうまい。
高高度で供されるご飯ということもあり味は少し濃いめなのだが、ラーメンは濃けりゃ濃いほどうまいんじゃ。
朝食を持ってきてくれる早坂さんとも少し目があってアイコンタクトみたいなことしてきてキュン。
みんなに秘密の関係みたいで高校時代を思い出す。
程なくしてなんの問題もなく羽田に到着した。
飛行機を降りる時、早坂さんがウインクしてたのが印象的だった。
今回は小さいカバン一つなのでほぼ手ぶらみたいなもので日本に帰ってきたが、なんかモノレールや電車で家に帰るのが煩わしい。
よって少し贅沢にタクシーで家まで帰ることとする。
大きくて、高級感のあるミニバンタイプのタクシーを選んで目的地を告げ家に帰る。
マンションについたが、ここからまたもう一踏ん張り。
コンシェルジュさんにお帰りなさいと言われて少しほっとしてエレベーターに乗り我が家を目指す。
無駄に広い我が家を恨めしく思う。
「あーーーーー。
つかれたぁーーーー!!!!」
家のリビングに入るなりそう叫んで倒れ込む。
お風呂に入って軽く汗を流し、さっぱりしたのでピアノ室へ。
グランドは空輸済みのためないが、電子ピアノはある。
電子はしばらく弾かなくてもほとんど劣化しないから置きっぱなしにしておいたのだ。
こんな時にはいい気晴らしになる。
しばらくピアノを弾き倒してから、だんだんと頭の中の靄が晴れてきたのを感じた。
よし、すっきりしてきた。
おなかも減ったしせっかくなのでお買い物でも行こうか。
家からすぐ近くにあるヒルズに、散歩がてらお買い物へ。
2キロ弱だからすぐだよね。
ミッドタウンの方が多分近いんだけど、好きなお店が少ないのでいつもヒルズに行っちゃう。
手ぶらで財布だけ持って家を出て向かったお店は六本木ヒルズのセレクトショップ。
こっちに引っ越してきてからファッション系のお買い物はだいたいそこだ。
欲しいものが一つのお店で完結するのはありがたいね。
ジャストシーズン物が運良くセールになってたので、何点かまとめてお買い上げ。
私は背が無駄に高いので、パンツなどはジャストでピタッと合う服が少ないから見つけた時に買っとかないと。
ヨーロッパサイズだと見つかりやすいが、身幅が余るのが難点だ。
なので筋肉をつけて見栄えがするヨーロッパ体型に近づけているというのは公然の秘密である。
荷物を持って移動するのがめんどくさいので、極力小さくまとめてもらった。
そのあともヒルズをぶーらぶら。
疲れたので家に帰る。
そして寝ようかと思って支度をしてベッドに入ると飛行機で一緒だった早坂さんからメッセージが。
「まさかメッセージ頂けるとは。」
早速返信。
明日お休みとのことなので、明日の夜にご飯に行くことになった。
「ウキウキだぜ!!!」
ぐっすり寝られた。
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