第92話 待望の望月緋奈子回
「ちょっとちょっと。私の話少なすぎませんか?
少しは私のことも書いてくださるかしら。
私だって色々あったのよ?」
まず最近の話をするわね。
ある日突然、私が恋してやまないヒロくんから突然お願い事をされたわ。
なんでもロシアに行くからロシア語話者を紹介してくれだって。
まさに渡りに船だ!と思ったわね。
なんてったって私はロシアンクオーター。
英語はそんなに得意じゃないけど、ロシア語には一家言あり!
と言ったところよ。
電話ではラチが開かないので、六本木で会って話を詰めることに。ヒロくんの話を詳しく聞いてみると、なんでも今はロシアの作曲家の曲に力を入れてるんですって。
すごいよねぇ。
さすがは私の見込んだ人!
まぁライバル多すぎワロタ状態なんですけどね。
そりゃー仕方ないよ〜。
あんだけカッコ良くて、しかも勉強もできて、ピアノは鬼ウマ!
他にもプロ級の趣味がたくさんで、高級車に乗ってて。
惚れないほうがおかしいよね、こんなの。
まぁ、私が彼にゾッコンなのはさておきまして。
ロシアに何度も行っている私には常識なのだけど、彼にその常識があるかどうか。
部屋にピアノがある部屋がいいと言うのもいい。
飛行機をいいやつにしようとしてるのもいい。
でも1番の問題はこれだ。
「ビザとった?」
やだ、ヒロくん。
鳩が豆鉄砲食らったような顔やめてよ。
笑っちゃう。
結局ヒロくんはビザを取ってなかったので、そもそもロシア渡航にはビザが必要なことも知らなかったので、
ビザ取得を代行してくれる旅行会社を間に入れてロシアに行くことになった。
そのおかげで少し出発まで時間を要することに。
ちょうどよかった。私にも心の準備が必要なんだからね!
「初デートロシアかぁ。アグレッシブだなぁ…。」
「なになに?あなた初デートでロシアに行くの?」
「ママ!?」
私のママは月に一度、私の家に泊まりに来る。
ママは純粋な日本人で、とっても綺麗な髪をしている。
「口に出てたわよ。」
「うそ!?!?そんなそんな!
まだ全然そんなんじゃないよ!」
「ふぅーん、まだ、ね。
じゃあ、どんな仲なのか聞かせて頂戴?」
ママはこうなるともう折れない。
「えぇ〜。」
「写真あるんでしょ?見せてよ。」
「うぅ…。はい…。」
二人で撮った数少ない写真をママに見せる。
私が小さい頃は写真といえばプリントされたものだったけど、今はもうスマホの画面を見せるだけだもんなぁ。
「あらやだ!イケメンじゃない!!」
「でしょー?」
「口元緩んでるわよ。」
「はっ!?!?」
いけない、彼のことを考えると口元が緩んでしまう。
「どんな子なの?」
「えっとねぇ、背が高くて〜、ピアノがびっくりするほどうまくて〜。
あとベンツに乗ってて、ゴルフがプロ級!
そんな感じかな?」
「……。それほんとに大学生?」
「もちろん!なんでもお姉ちゃんがプロゴルファーなんだって!」
「へぇ、そうなのねぇ。」
「あ、今更だけど、ロシアに行ってきていい?」
「まぁ普通ならOKしないわよね。」
「えぇ〜。」
「しかも男の子と二人でロシアよ?
サンクトペテルブルクでしょ?娘を持つ親としては不安よ。」
「うぅ…。」
「でも。」
「でも?」
「ヒロくん?だっけ。
彼の顔見たら捨てるのは惜しいわよねぇ。」
「捨てるだなんてやめてよそんな言い方!」
「まぁまぁ。
パパには私からうまく言っておくから行ってきなさい。」
「ほんとっ!?」
「そのかわり!」
「そのかわり?」
「絶対オトシてきなさいよ?」
「もちろんよ!
私だって手ぐすね引いて待ってるだけじゃないんだからね!」
「それでこそ私の娘!よく言った!」
「でしょー?」
というやりとりをママとしてから、いよいよロシア出発日。
「あれ?車大きくなってない?」
近くに来ると良くわかるのだけど、私が知ってるヒロくんの車より明らかに大きい。
聞くと色々あったのだそうだ。荷物がたくさん積めていいね!
そして快適な空の旅を経てロシアに到着。
飛行機の中では基本、寝てた。
どさくさに紛れてヒロくんに抱きついたりしまくったけど一つも嫌な顔しなくて、ずるいなーとか思ったり。
無防備すぎるんだよまったく……。
襲っちゃうぞ?
そして、泊まるホテルは血の上の救世主教会が見えるところにある、おしゃれなホテル。
後から調べてみたら五つ星なんだってね…。
しかも部屋にピアノしっかり持ち込んでるし。
ピアノを入れることができて、なおかつそれに対応してくれるようなホテルなんて五つ星のスイート以外ありえんよな。
はぁ、ため息でちゃう。
お金多めに持ってきててよかった…。
マイルが貯まるからとか言って勝手にヒロくんカード切っちゃうんだもん。
しっかり半額出そうと思ったら、マイル使ったから!とか何かと理由をつけて断ってくる。
もう、どこまでカッコつけるのよ。
だから、それに報いることができるように精一杯楽しんだ!
通訳もしっかりしてあげた!!
そして帰国した!
私なんも進展してない!!!!
なんで!!!!
楽しすぎた!!!!
「ママぁー。なんも進展しなかったー。」
帰国後すぐ、たまらずママに電話する。
「あら、進展しなかったの?」
「うん、全然。」
「ちゃんと襲った?」
「お、襲う!?」
「そう、襲う。」
「そ、そそそ、そんなのできないよ…。」
「あらやだ、あんたもしかしてまだ…」
「そうよ!悪い!?」
「仲いい子いたじゃない。」
「あぁ、あの子?いつもうちに来てた。
あの子、女の子だよ。」
「えぇ!?!?!?!?
それがいちばんの衝撃だわ…。」
確かに私は中高と6年間、ずっと1人仲のいい子がいて、彼女は髪型はベリーショートで背もすらっと高く、かなりボーイッシュ。
私服でしか家に来たことがないからわかんなかったのかな?
まーなんともジャケットのよく似合う、いわゆる「男装の麗人」といった子だった。
逆に、その子とずっと一緒にいたから男の子はやりにくかったのかな。
ちなみに、その子にヒロくんのこと教えてあげたら惚れそうって言ってたから絶対紹介しない。
ということで、ロシアでは関係を詰めることができなかったのが悔やまれる。
「で?ロシアではどんな感じだったのよ。」
「ピアノめっちゃ弾いてた!」
「動画はよ。」
ママは動画をご所望なので電話をしながらメッセージアプリで動画を送る。
電話をしながら同じ動画を見てると、離れているのに一緒にその動画を見てる気がして楽しい。
ヒロくんのピアノはほんとに綺麗な音がする。
よくわかんないけど、なんか薄い黄緑?ブルー?浅葱色とかの方がしっくりくるかも。
あ、どっかでみたことあると思ったらヒロくんの車の色だ!
ヒロくんの車の色と似てる!
初めて見る色なのだけど、たちまち彼は綺麗な色に包まれてて、浅葱がはじけて流れてくる。
そうそう、なぜか私は昔から音に色が見えるの。
自分が明確に音として認識した時だけだけどね。
一応2〜30人に1人くらいはいると聞いたことがある。
「ね?すごいでしょ!?」
「これは…。」
「ん?」
「あなたこの子は難しいわよ…。」
「やっぱり?」
「うん、難しいわこりゃ。」
「そうかぁ…。」
いざママにそういわれると落ち込んじゃう。
「でも諦めたくないんだよ…。」
「でしょうね。
彼を知っちゃったら他の男では絶対満足できないわよ。
あなたの恋が結ばれても結ばれなくても、きっといい思い出になるから思う存分わがままにやりなさい。」
「うん、ありがとうママ。」
その日はなぜか無性に実家に帰りたくなった。
私、絶対諦めないからね!
絶対ヒロくんから告白させてみせる!
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