第90話 閑話。


「お、藤原。」


「お、下田。」


よく駐車場で出会う下田。

今日は授業が終わったので帰ろうというところでまたしても出会った。



「どう?最近元気?」


「まぁまぁ、だけど。どしたの?」


なんか元気なさそうに見える車好きの下田。


「いや、なんでもない。」


「まぁ言ってみろよ、どうしたんだよ。」


「まぁ、あんまわかんないかもだけど、

俺レーシングチームに入ってて。同好会的な。」



「ほう。」

レースというと心が躍る。

これでも昔、アメ車好きな父に連れられてカートなんかに乗せられてた。



「で、来週サーキットでレースやるんだけどさ、

うちのチームに怪我で欠員が出ちゃって。

メンバーどうしようかなって悩んでる。」



「誰か適当な奴誘えばいいじゃん。」



「いや、俺も含めて全員ライセンス持ちだから、持ってない奴をそこに入れるのは流石に怖い。」



「そうなんだなぁ。」



「お前もしかしてライセンス持ってたりしないよな?なんてな。」



「国内A級ならもってる。」




「えぇ!?!?

早く言えよ!いつ取ったの?」




「高校三年で免許とって、そっからすぐ親父に連れて行かれて。

何とか大学入る直前に取得した。レースも一回だけ出たことあるぞ。」



「じゃ、来週行こうな!な?」



「いいけど車がないんだよなぁ…。」

さすがにゲレンデでサーキットに行くのはちょっとね…。



「リーダーのとこに車あるから!

今から見に行こう!!!もう授業終わったろ?」



確かに夕方で、授業もう無いけど…。


まぁ久々にサーキットで走るのも面白いかと思い付き合うことに。


そして、着いたのは港区にあるチューニングショップ。




「リーダー!お疲れ様です!

さっき連絡した友達連れてきました!」




奥からリーダーらしきワイルド系イケメンが出てきた。




「あぁ、君が!

今日はありがとう、ほんとに。


一応奥のガレージにうちのコンプリートカーを揃えてあるんだ。

乗りたい車とかあるかな?」



「いや、特にこだわりとかがあるわけではないので…。」



リーダーに連れられて奥に行くと何台も車がある。

カーレース番組で見たことがあるような派手な装飾がなされているいかにも速そうな車だ。



「普段は貸してないんだけど、藤原くんが国内Aを持ってると聞いたから、貸しても大丈夫だなと思って。好きなの選んでいいよ。


でも公道を走れるようなナンバーは取得してないからね!」



つまり、持って帰って馴らせないので、ちゃんと当日いきなり乗って動かせる車を選べよということか。



「えっ、そんないいですか!?じゃあ…。」




私が選んだのはフェラーリ488チャレンジ。




「えっ、それ?」


「藤原まじか。」


「えっ、やばい?」


「まぁみんなそれくらいの速さの車で来るとは思うけど…。」



「まぁ俺もレース仕様のポルシェで行くけど…。」


「大丈夫っしょ!なんとかなるなる!」




「「不安だ…。」」






そして1週間が過ぎ、いよいよレース当日。


昔カートのレースに出ていたときに着ていた防護服とヘルメットを実家から送ってもらって、それを持って筑波のサーキットまで行く。




私が選んだフェラーリもちゃんと積載車に乗せられて来ていた。






「お!おはよう!」


リーダーが現れた。




「おはようございます!今日はよろしくお願いします!」

ひさびさのサーキットということもあってテンションが上がっている。



「こちらこそよろしく!じゃ、早速動かしてみる?」



「お願いします!」




ということで、暖機運転や慣らしという意味で、早速車を動かす。


一度レース仕様のフェラーリ乗ってみたかったんだよなぁ。



更衣室で防護服に着替えて、ヘルメットを片手に登場すると、みんなに「こいつ只者じゃねぇな」感が漂う。




「藤原くんは昔レース出てたの?」



「はい!小さい頃はカートとかでときどき出てました!」


一応高校の時も少しだけ出たんだよね。ジムカーナとか。

でもそんなにすごい経歴でもないので言わないでおく。


「なるほど!

じゃ、藤原くんの走り、しっかりみせてもらうよ!

くれぐれも無理はしないでね!?!?」



「わかりました!」




488に乗り込むと、レースに出るぞという高揚感が身を包む。

レース仕様のシートが私の体をガッチリとホールドして心地がいい。


いい車だなぁと心から思う。でも欲しいとは思わないのがミソだ。



エンジンスターターでエンジンをかけてゆっくりと加速してコースに入る。

慣らし運転なのでゆっくりと私の感覚を車とリンクさせていく。




「あー、たまんないね、これは。」


フェラーリのレースカーに乗るのは初めてだが、これは運転しやすい。

カートに比べると天と地の差だ。

私が高校の時に乗らせてもらっていた父の車とも違う。

素直に加速するし、素直に曲がるし、素直に止まる。




あっという間に一周走り終わってピットに帰ってくるとリーダーが驚いている。




「速くない!?」


「そんなもんですよ?」


後ろからポルシェもやって来て隣に止まる。



「藤原の同乗者って、誰かプロのレーサー…って藤原!?

今のフェラーリお前!?」



「そうそう。」



「お前めちゃくちゃ速いな!」



「車がいいからね。」



「とは言ってもお前…。」




そんなこんなで時間となり、レースがスタートした。


周回数は5で、ベストのタイムを提出して順位を決めるらしい。






さて、いっちょやったりますか!






結果から言うと一位はリーダー。


二位は相手チーム。そして三位に私がいて、四位は下田だった。


順位ごとのポイントを加算して総合優勝は我々チームで、めでたしめでたしという結末だった。





「藤原すげえな!チーム入ろうぜ!」




「今回はたまたまだって。

でもたのしかった。また来たいと思うよ!」




「私としてもぜひ!

また君の走りを見せてくれ!」




みんなにまた来てくれと言われたので、また来たいと思う。

相変わらずちょろい人間だわ、私。





ちなみに後日この話を幸祐里にしたらめちゃくちゃ怒られたし、ひなちゃんにこの話をしてみたらわたしも連れてって下さいと言われた。

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