放課後のピアニスト 凝り性のなんでも極める大学生が今度はピアノをやるようです。
マリブコーク
第一章
第1話 入学式
今日は大学の入学式。
地元を離れて都会に出てきた私は新しい趣味を探すことをとても楽しみにしている。
まぁ、なんでこんな話をしているのかというと、入学式の偉い人の話が長すぎるのです。
入学式会場は有楽町にある東京国際フォーラム。
知らねえよそんな建物。
こんな立派な建物初めて来たよ。
やばい。そろそろ寝てしまう。
隣のやつはもう眠りこくってる。
舟を漕ぐなんて、そんなちゃちなものじゃねぇ。爆睡だ。
しかしいびきは全く聞こえないので、そういう技術を持っているんだろう。
なんとも羨ましい限りだ。
そうこうしているうちにやっと終わりがみえてきて、締めの挨拶に入り始めた。
「終わった・・・。」
思わず口から言葉がこぼれてしまう。
話を聞いているとどうやら学部ごとに集まって、ガイダンスというものを経て、解散するようだ。
ガイダンスでは
「なんの授業を取ると、どんなことができるのか」
や、「教員免許はとれるのか」
などなどを微に入り細に入り教えてくれるようなのでしっかり参加することとしよう。
〜〜〜〜〜〜数日後〜〜〜〜〜〜
小さな頃から続けている英会話をさらにブラッシュアップするために
私は本学の外国語学部に入学した。
私自身、英語はそこそこ極めている自負はある。
英語系の資格は軒並み持っており、特に、英語検定は一級、TOEICスコアは満点の990、ノリで受けた通訳案内士の資格も持っている。高校時代はアメリカに留学したりもした。
私の通う大学の外国語学部は、国立の某外国語大学と関東の双璧をなしており、名実ともに大学の看板学部だ。
最近は同じキリスト教系の某大学に追い越されているという評判もあるが
どちらも素晴らしい大学であることは変わりない。
合コンで大学名と学部名を晒せば瞬く間に人気者になれることだろう。
入学式の日、他の学部生とともにガイダンスに参加し、これからの授業を受ける方向性を決めた。
今日は大学での授業の開始日。
ガイダンスのお陰で、おぼろげながら取る授業は決めることができたものの、やはり目移りした。
どうせなら色々受けてみてから決めたいね。
今後の予定を考えながら履修科目の組み合わせを迷う私はキャンパス内のカフェで手帳と修学案内とパソコンを開いていた。
「この手帳も使い始めて長いな。」
お母さんからもらった黒革の手帳は既に相当に使い込まれている。
もらった時はもう少し綺麗だったが、
中のリフィルを交換してずっと使っていると
やはりくたびれてくる。
逆にそれが愛着を生み、味のある雰囲気を醸している。
おかげで今だにアナログの、というよりもこの紙の手帳が手放せない。
「とりあえず大学三年生で長めの留学をすることにしましょうかね…
受ける授業は高校の教員免許を取れるようにして……
他の学部の授業も受けてみるか…。」
これからの方針を決めながら、独り言をつぶやいている真っ最中、周りから声が聞こえてきた。
「1時間後から音楽研究会がコンサートします!
コンサート後は先輩たちが単位取得のアドバイスもしてくれますよー!!!」
どうやら音楽ホールでコンサートがあるらしい。
私はこれでも今までの数年間、音楽においては、日本のアマチュア学生の中でトップクラスを走り続けてきた。
終わりのない音楽の道を極めたとは言えないものの、技術や耳にはもちろん自信がある。
中学時代、新しいことに挑戦しようと思って吹奏楽部に入部した。
新しく始めた「音楽」は別の言語を使っているような気分がしてとても新鮮な気持ちでぶつかることができた。
周りは音楽経験者が多くて最初は苦労したけど、これまで培ってきた独自の攻略練習メソッド「効率×膨大な練習量の物理で殴る作戦」を存分にぶつけて周りのみんなを追い越そうと頑張った。
その甲斐あってか、私の担当していたアルトサックスの腕はめきめき上達してきて、顧問の先生の勧めで出場したアルトサックスのソロコンテストでは、全国大会で金賞をいただくことができた。
でも金賞を取ったことよりも、周りのみんながとても喜んでくれたことが金賞を受賞したことよりも嬉しかったな。
高校でももちろん吹奏楽部に入部した。
高校に入っても三年間ソロコンテストに出続けて、全国金賞を取り続けた。
高校三年生の時はとても運がいいことに同年代のピアニストと東京のとある交響楽団と共演を果たすことができた。
そのとき出会った人がかっこよくてね・・・。
口調なんか真似しちゃったりしてね・・・。 もう抜けないけどね、この口調・・・。
それは置いといて。
そんな私が音楽と聴いていてもたってもいられるわけがない。
キリが良いところで作業を切り上げ、迷わず行くことにした。
音楽ホールには割とすぐついた。
歩くと15分くらいだったか、私の通う大学は結構広いのでもう少しかかるかと思ったが案外妥当だった。
ホールに着くと、まずその立派さにびっくりした。
一大学の音楽ホールとは思えないほど立派で、そのホールの大きさに圧倒されて棒立ちになっていると
「こんにちは!新入生の方ですか!?」
そんな明るい声が隣から聞こえてきた。
「はい、そうです。さっきカフェで今からコンサートがあると聞いたので。」
「わぁ!ありがとうございます!じゃ中までご案内しますね!」
先輩らしき人が田舎者に見兼ねて助け舟を出してくれて、中まで案内してくれることになった。
しかし、この先輩は背が低い。
人混みの中に紛れ込むと見えなくなる。
「ごめんね、私背が低いから見つけにくいと思うけど、頑張ってついてきてね!」
心でも読まれたのだろうか…
「いえ、そんなことないですよ!
ちゃんとついていきます!」
「お世辞はいいよ。
だって149cmしかないのは自分でもわかってるから…
そういえば君名前教えてよ!」
「あ、あー、えーと
藤原吉弘って言います!外国語学部の一回生です!」
「困らせちゃってごめんね?
外国語学部なんだね!私と同じだよ!
私は三回生の柳井実季。気軽に実季さんとか実季先輩とか呼んでくれたまえ。」
「じゃあ実季先輩ですね!よろしくお願いします!」
「お?君もしかして吹奏楽部?」
「え、なんでわかったんですか?」
「高校卒業したばっかりの男の子で、女の先輩を、なんのためらいもなく下の名前で呼べるのは吹奏楽部くらいしかいないよ。
女慣れしてるねぇー。」
実季先輩は悪い顔をしてニヤニヤと笑いながらいじってくる。
「あー、そういえばそうですね。
中高と吹奏楽部でアルトサックスやってました」
びっくりした。
まさか初見で部活を当てられるとは思わなかった。自分で言うのもなんだが、私は吹奏楽部らしくない見た目だ。
小さい頃からスポーツ系の習い事をしていたため何処と無く体育会系の匂いがするらしい。
「背も高いし、筋肉質そうだけどゴツくはないから、なんかスマートなスポーツでもやってるのかな?とは思ったけどねー。もしかしてと思ったのが当たっちゃったね。」
そう言って実季先輩は笑っていた。
「私は小さい頃からピアノやってて、今は教育学部主催の音楽研究会でピアノ講習もうけてるんだよ。
ピアノにも興味があったら見においで!」
そう言われると好奇心がむくむくと首をもたげてくる。
「いいんですか?」
「うん!
教育学部キャンパスの音楽棟には防音室がいっぱいあって、全部の部屋にピアノが置いてあるんだよ。うちの学部生ならどの学部の学生でも24時間弾き放題!
国際的なコンクール出る人とかもいるから24時間オープンなのはありがたいよねー。」
実季先輩はたくさんの話をしてくれて、私はその話の1つ1つを心のノートに刻み込んで行った。
先輩の話は、この大学のことを知らない私にとって、とてもありがたい。
「ついたよ!
このホールの特性上、ここの席が一番よく聞こえると思うから、しっかり聞いててね!
私は一番最後のプログラムのピアノソロで出るから!
あと、これプログラム!
あ、ラインも交換しとこ!」
怒涛のようなスピードで大事なことを色々と言われた気がしたが、私の手元にはプログラムと実季先輩の連絡先が残った。
着席してほどなくするとホールが暗くなってざわめきが落ち着いてくる。
しばらくすると細いワイヤーがぴんと張ったような緊張感が満ちてくる。
しんと張り詰めたホールの空気が私は好きだ。
中学の時、吹奏楽部でホールの空気感というものを初めて感じた時から大好きだった。
これから何かが始まる期待と緊張。
演奏者と同じように聴衆も緊張している。
さぁ、これからどんな世界に行けるのだろうか。
私はワクワクしていた。
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