第14話 エルフ、不正行為に触れる
「君、ここの従業員さんだよね。悪いんだけど、店長さん呼んでくれるかな?」
それは唐突に訪れた。
新装開店の翌日。
平日ということもあって日中の稼働推移は緩やかで、あまりにも暇だった俺はホールをラピスに任せて店舗外周の清掃なんかを行っていた。
すると、裏口あたりで声をかけられた。
見ると、うっかり背筋が伸びてしまいそうな青い制服を着込んだ同い年かちょっと上くらいの男性二人組がいら。
「少々お待ち下さい」
警察が何の用だ?
どうにも用件が読めない俺は、もやもやした感情を抱えながら、とりあえず彼らの要求通り事務所で働いている梨好瑠さんを呼びに行く。
「警察が梨好瑠さんご指名でいらしてるんですけど」
「……そう。八雲野くん、後のことはよろしくね」
「あ、はい。それは大丈夫っすけど」
「うん?」
「梨好瑠さん……」
警察という単語を聞いた梨好瑠さんは、覚悟を決めたようにため息をついた。
その顔は、今まで見たことがないくらい綺麗で。
ちょっと浮世離れした雰囲気さえ感じた。
それと、うっかり目を離したらいなくなってしまいそうな。
そんな、危うさもはらんでいた。
梨好瑠さんと警察官との話し合いは、秘密裏に行われた。
この時、俺は詳しい内容を知らなかった。
しばらくして俺の前に戻った梨好瑠さんは、表情こそ笑みを浮かべていたけれど、どこか悄然としていた。
結局この後梨好瑠さんは、何も言わず帰宅した。
帰り際、どこかに電話をして、ぺこぺこと頭を下げていたのが印象的だった。
「……マジかよ」
そして、梨好瑠さんの代わりに残務をこなした俺の目に、ようやく彼女に覚えた違和感の正体を知らせる社内メールが飛んできた。
そこには。
『那賀押店長 設定漏洩の件について』
信じがたい表題が、記載されていた。
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「のう。設定漏洩とは、もしかしなくても、まずいよのお?」
「激マズだな。普通に法律違反だよ。下手すりゃ逮捕だし、店だって営業許可取り消しすらあり得た。……始末書で止まったのが、不幸中の幸いだな」
バイトの子たちが帰って静まり返った事務所。
俺とラピスは、柄にもなく沈んだ声で会話をしていた。
店舗として初犯ということで、今回は始末書で済んだ。
だけど、事の重大さは『ラッキー』で済ませていいものじゃない。
一店舗をあずかる人が、独断で設定漏洩なんてしたら、どうなるか。
賢明な梨好瑠さんが想像できなかったわけがない。
きっと、わかった上でもやらなければならない理由があったんだろう。
「しかし、どうして露見したんじゃ?」
「なんでも、通報者が梨好瑠さんとの会話を録音してたみたいだ。それが物証になって、今回警察が踏み込んできた」
つーことは、犯人はうちの客。しかもそこそこ常連の可能性が濃厚だ。
新規の何でもない客にあの梨好瑠さんがあっさり設定を教えるわけないからな。
「つって、常連だからって設定教える人でもないんだけどよ」
「責任感の亡霊みたいな女じゃからのう。なんぞ、我らには言えぬ事情でもあったのじゃろうか」
「事情、ね」
設定漏洩してでもなしたかったこと。
直近一年間の店舗実績を見れば、大体察しはつく。
「何馬鹿なことやってんだよ、あんた」
ため息をつく。
いや、違うな。馬鹿みたいに真面目だから、周りが見えなくなっちまったのか。
俺は、異常に自分の機嫌が悪くなるのを感じた。
でも、どうやって発散すればいいのかわからず、しばらく経ってからラピスの水魔法を顔面に喰らうまで、事務所でストレスを溜め続けたのだった。
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※お知らせ※
5月3日から投稿ペースを上げます。
3日→3話、4日~6日→2話、となり、6日の投稿をもって完結となります。
せっかくのGWなので、期間中に全て投稿することにしました。
また、3日以降の投稿時間も19時→18時5分に変更します。
以上、ご周知くださいm(_ _)m
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【あとがき】
こんにちは、はじめまして。
拙作をお読みくださりありがとうございます。
毎日18時5分に更新していきます。
執筆自体は完了しており、全21話となっています。
よろしければ最後までお付き合いくださいm(_ _)m
※※※フォロー、☆☆☆レビュー、コメントなどいただけると超絶嬉しいです※※※
※※※本日は短いため2話まとめて更新※※※
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