第29話 森巫覡《ドルイド》

 雑木林での戦闘は、襲撃者側有利に進んでいた。


 無論、剣士も手が出ないと言うわけではなかったが、夜から始まる試練本番に向けて、体力も薬も消耗するわけにはいかず、その迷いが両者の距離となって立ち塞がっていた。



(逃げると言う選択肢はない。なら、前に行くしかない! だが、援護もなしに、この光弾の連射を捌き切れるか!?)



 距離が空いているからこそ、飛んで来る光弾を剣で弾いたり、あるいは回避する事が出来ている。


 距離を詰めるために踏み込むと言う事は、それだけ被弾の確率が上がる。


 あるいは、相手の息切れ、魔力切れを待つと言う選択肢もあるが、相手の力量が分からないため、それも危険だ。


 なにより、自分の体力の心配もある。


 いつまでも防御と回避ではジリ貧だ。



(ならば、やはり!)



 剣士は腰に下げていた道具袋から、薬を一本取り出した。


 飛び交う光弾をかわしながら約瓶の中身を飲み干し、そして、その効果はすぐに現れた。


 飲んだ中身は“脚力増強の薬”で、脚の速さが強化されたのだ。


 薬による増強分がすぐに体と感覚のズレが馴染み、攻撃へと転じた。


 相手の術士は構わず光弾を飛ばし続けるが、先程よりかは余裕をもってかわす事が出来た。


 ステップを踏みながら蛇行し、いよいよ飛び込んで攻撃できる間合いまで詰まった。



(今だ! 死んでくれるなよ!)



 剣士は剣を持つ右手を突き出し、相手の肩を狙って突きを放った。


 狙い違わず相手の左肩目がけて剣は一直線に突っ込んでいったが、相手もタダでやられはしなかった。


 逆に指を突き出し、剣先と指先が激突した。衝突点に琥珀色の壁が生じ、剣士の放った突きを止めてしまった。



(指先一点に防御魔法だと!? 器用な真似を!)



 仕留めれると考えただけに、突きを防がれた点は剣士も驚嘆した。


 だが、即座に次の行動に移った。考えるよりも先に、身体は反応したと言ってもよい程の速さで、腰に帯びていた剣の鞘を逆手に掴んだ。


 そして、横薙ぎ一閃。相手が反応する前に払われた鞘打ちで、相手の右肘を痛打した。


 グニャリと右腕が曲がってはいけない方向に曲がり、その勢いのままに相手を吹き飛ばした。


 思った以上に勢いよく飛び、相手は木の幹に激突した。


 剣士はさらなる追撃のために踏み込もうとしたが、すぐに足を止めた。


 そして、轟音と衝撃。


 剣士の鼻先に巨木が倒れ込み、危うく圧殺されかけた。



「…………! おいおい、マジかよ!?」



 剣士は勘で止まったのは正解であったが、状況が悪化したことにすぐに気付いた。


 何しろ、周囲に木々が一斉に動き出し、まるで根っこが足に変わったかのように、次々と立ち上がったのだ。


 さながら樹の巨人と言ったところだ。



樹木人ウッドマンだと!? クッソ、こいつ森巫覡ドルイドか!」



 術師に切り込む道を樹木人ウッドマンに塞がれた上に、次々と丸太同然の拳が打ち付けられた。


 剣士は一旦距離を取ったが、動き始める樹木は次々と増え、その数は七体まで増えていた。


 術師と剣士の間に立って、壁役となる者もいれば、剣士の側面に動き、いつでも攻撃に移れる体勢を取る者など、理に適った動きであった。


 この時点で一対八と、数の上でも圧倒的に不利となった。



(やってくれるな! 木々を自在に操る森の守護者“ドルイド”。こいつと森林地帯で戦うハメになるとは、少々どころか、かなりきついぜ!)



 森巫覡ドルイドは森の神に仕える神官であり、森の中での活動では圧倒的な優位性アドバンテージがある。


 相手が神官であることはなんとなしに分かっていたが、よりにもよって“この場もりのなか”においては、一番戦いたくないタイプの神官に当たってしまった。


 一応、右腕はへし折ったが、代わりに現れたのは七体もの樹木の巨人だ。



(今までのは小手調べで、いよいよ本気になったって事か!?)



 随分と舐められたものだと、剣士は若干不機嫌にはなったが、状況が好転するでもない。


 すでに半包囲状態にあり、一斉に襲い掛かられたらかなり危ない。


 だが、その時、剣士はピンと閃いた。



(半包囲……!? 完全に取り囲まずに、半包囲だと!?)



 なにしろ、一対八の状況だ。その気になれば完全に取り囲むことができる。


 なのにそれをやらない。


 できないのではなく、やらないのだ。


 それはなぜか? 剣士に逃げて欲しいからだ。



(そうだ! 俺に逃げて欲しいんだ! つまり、これもまた試されている! 勇者を目指す者が四度目の逃亡を図るように……、そう仕組まれているってところか!)



 結局のところ、誰の差し金かは不明であるが、試練はなおも継続していると剣士は判断した。



夫人サキュバスの話を信じるのであれば、この聖域は魔族に制圧されている。現に俺は襲われた。そして、その大元は魔王と思しき・・・・・・あの領主。さりとて、木こりの爺さんは本物の勇者。あるいは陰ながらせめぎ合っている、のか!?)



 推察に過ぎないが、その可能性も捨てきれない。


 ならば、目の前にいるのは、勇者側の差し金で、こちらを試している。そういう式が成り立つのだと、剣士は判断した。



(なら、なおの事、下がることはできないな!)



 剣士は踏ん切りがついた。


 戦力を小出しにして、それで敗れたら元も子もない。


 どのみち、全力を出さねば、目の前の樹木の巨人は突破できない。


 覚悟を決めた剣士は、天に向かって剣を掲げた。



「天空に散らばりし、天翔ける雷の精霊よ、我が声を聞け! 集え! 参陣せよ! 刃となり、我が歩みと共に突き進め!」



 剣士の叫ぶ声が周囲にこだまし、それに応えるかのごとく、上空に雨雲が集まってきた。


 そして、閃光。


 強烈な稲光と共に天空より稲妻が降り注ぎ、剣の切っ先に命中した。


 電光を得た剣は輝きを増し、発する電流は渦となりて剣と、剣士にまとわりついた。


 電撃を自在に呼び出せる剣『雷鳴剣アブラ・カタブラ』。これこそ少年剣士が『電光の剣士』の二つ名で呼ばれる所以である。



「さあ、第二幕と行こうか、顔を見せない試験官さんよ!」



 さながら自身が稲妻になったかのごとく、剣士は真正面から斬り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る