自称魔王とやるダンジョン配信
田吾作Bが現れた
掛崎流のある一日・上
「やっぱさー掛崎ってオワコンだよねー」
「そうそう。今どきレクチャーしながらモンスター倒すとか流行んないって」
「やっぱ高校中退した奴だもんねー。あ、TERUの配信始まるー」
道行く高校生のディスる声に
「小童ごときに何を打ちひしがれているかお前は。しゃんとしろ」
「いや、だってさぁ~……」
パーカーのフードを被った少女が隣で彼をにらんで発破をかけてくるも、流は情けない声を上げるだけで結局何も言えないままただ道を歩いていく。
「まったく……私達のおかげで後進の奴らが育ったというのに、感謝の一つもせぬか。実に忌々しい」
「の、ノーラ、こ、ここ人がいるから! ね? ね!」
苛立ちを露わにしながら少女がつぶやけばどさりとカラスが何羽も落ち、道行く人や野良猫も一斉に腰を抜かして動けなくなっている。すぐさま流は彼女の愛称を呼びながらなだめるも、簡単に機嫌を直してはくれなかった。
「それだぞナガレ。お前がマトモに意見も言えぬようなヘタレだから舐められるのだ――この私に助力を申し出たのだ。私に釣り合うような振る舞いの一つもせよ。よいな?」
「ひぃっ!?……は、はいぃ……」
むしろ逆に流にその鋭い眼光を向け、圧をかけてくる始末。それを受けて流も思わず腰を抜かしそうになり、思いっきり後ずさったせいかかけていたサングラスがずり落ちそうになってしまう。
「全く、場数を相当踏んだはずだというのにまだそれか。先が思いやられるではないか」
「本気のノーラの威圧を受けて無事なのなんて、昔の部下ぐらいでしょ……」
「黙っておれ。ほれ、行くぞ。今日も配信せねばならんのだろうが」
「う、うん! ま、待ってぇ~」
呆れた様子でノーラはしばし流を見つめていたが、すぐにため息を吐きながら彼女は先へと歩いていく。流もサングラスの位置を直してから攻略予定のダンジョンへと向かっていく。
「やっぱり『瞬光』のアイナ様っしょ! あの体つきであの強さだぞ!」
「俺の推し? 箱推しだよ箱推し。今ノリに乗ってるパーティ『軍神』のな!」
(他の人達ばかりで僕らを評価してくれる人の声は聞こえないな……皆のためにって思ってたけど、やっぱり意味なんてないのかな)
そうして雑踏をかきわけながら二人は目的の場所へと歩いていたが、聞こえてくる自分達以外をほめそやす言葉に流は思わず顔を伏せてしまう。
(でも、やらないと。これが仕事なんだから)
撮影用のドローンが入ったカバンがいやに重く感じてはいたが、配信はしなければならないと気持ちを奮い立たせながら早歩きのノーラの後をついていくのであった。
◇
「――では改めて解説です。今回倒したヒュージスライムの弱点は魔法、特に炎属性が効果的です。無数に触手を生やしたり、三メートルの巨体が倒れかかってきたりと攻撃は強力かつ多彩ですのでタンクの方は動きを見極めてしっかりと防御。初心者の魔法使いの皆さんはちゃんと準備詠唱もして、周囲に魔法を使うことをアピールしてください」
目的地であるダンジョンにたどり着いた二人は受付で登録を済ませ、併設されている更衣室で着替えてからダンジョンへと潜った。流は今、先程倒した巨大なスライムの核から流れ出た溶液やそれを包むゼリーの一部を採取しながら配信を行っていた。
【知ってる】
【マンチ乙】
配信者として活動してから早二年。自動操縦で自分達を撮影してくれるドローンに向かって解説するのも既に手馴れたもので、嚙んだりどもったりすることもなくスラスラと解説を続けている。
「今回僕達が攻略している西堀ダンジョン3号ですが、ダンジョンではポピュラーな洞窟型のものです。明かりは常に携帯して、ちゃんと周囲を見て慎重に進んでください」
【わかる。マジで油断したらアウトだし】
【それ何度目だよ】
【教習所でも聞くようなこと繰り返すなカス】
そのドローンに取り付けられた六インチのディスプレイには自分達の配信を見ている人のコメントが流れてたり、配信の接続数なども表示されている。真っ当なものも皆無ではないが、大多数を占める辛辣なコメントが飛び交うのを見て流は思わず乾いた笑みを浮かべた。
【また同接減ったな】
【何せ基本のきの字を教える程度だしな】
【もっと景気よく魔物倒せや。お前らならやれるだろうが】
【この配信見てるのノーラちゃん目当ての奴ぐらいしかいねーだろjk】
「ははっ。見てくれてありがとうございます」
何せ自分達がやっているのが各地のダンジョンから出てくる魔物の倒し方の講座だ。ダンジョンが世界に出現するようになってもう二年。ダンジョンも魔物も出現当初は相当の脅威となったのだが、それも昔のこと。
【倒し方なんて最悪国のライブラリ見ればいいしな】
【それな。今更やる必要ねーんだよカス】
ダンジョンの出現と同時に全世界の人類の身体能力は高まっており、また魔法を使える人間もちらほらと見られるようになった。
その上、各国各会社の動画配信サービスによって魔物の攻略情報はあっという間に広まり、今ではあらゆるデータが全世界で共有されている。つまり二人がやっているのは今更やらずとも問題ない程度のものでしかなかったのである。
「こ奴ら……私とてこんな生ぬるいことなどやりたくなどないわ! おいナガレ! とっとと奥に行ってここら一帯を血の海に変えるぞ!」
【キターーーーーーーーーーーーーー】
【ノーラたそprpr】
【ノーラ様の本気ktkr!】
「ま、ままま、待ってってばノーラぁ!」
そのコメントを見てノーラもキレてしまい、自慢の金髪と武器の剣を振り回す。今回の趣旨である『西堀ダンジョン3号の攻略情報の提示』を無視して暴れようとしていた。
「止めるな! 私はな、前々から見世物にされるのは我慢ならなかった! 何が悲しくて時間をかけて雑魚の相手をせねばならんのだ!」
「だ、だからノーラ! 僕達のスポンサーをしてるのは――」
「知らぬ! 私は魔王だ! 私の上に立つ者など何一つとして無いわ!!」
【出たーノーラたその魔王ムーブ】
【自w称w魔w王wwwwwwwwwww】
【相変わらず痛々しくて草枯れる】
【ロリ魔王ノーラちゃん降臨】
「毎度毎度私を愚弄しおって貴様らぁーーーーーーー!!」
荒ぶる彼女を止めようと流は必死に説得するが耳を貸す気配は微塵もない。むしろ表示されるコメントのせいで余計に怒り狂い、ドローンに付いてるディスプレイをガン見しながら右手を振りかぶろうとしていた。
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