6 赫眼、剣、竜


 空を仰ぐルキアは、降りて来る影に目を見張る。


 頭上にあるのはルキアはもちろんのこと、城までも覆う。

 空を窺う巨影は、竜の怪物ビッグ過ぎるドラゴンであった。

 城の尖塔、数メートルの上にある風の魔法障壁と赤褐色の腹はこすれ合う。


「ふ、すげえデケェ」


 ルキアは真上で留まる物体に恐怖するではなく、心躍らせている。


「大きさが確実に怪物級、ふ。いいね実にいい」


 大きな翼が動くたびに突風が畝り、大地は地響きを起こす。

 目を凝らし、下で待ち構えるルキアは取り巻く風が全て大きな両翼に巻き込まれ無力化され始めていることに気付く。

 防壁として張った風魔法が持たないと感じたルキアは突如、雷を振るう。


雷網ボルネット

月下雷鳴ブルームーンサンダー

『……ボルト?』


 ルキアは落ちてくる巨体に、思いつく限りの雷系の防御魔法をくれてやる。

 次を詮索思案し、首を捻った。

 納得いかないのか「う〜ん」と、顎に手を添え語散り始めるルキア。

 竜の腹はルキアのはるか頭上、城の真上で雷に縛られ留まる。防壁シールドとせめぎ合う赫い腹を見て、違和感を覚える。


「……何だろう……」


 上空に浮く護りの壁と競り合い、五分五分に至ることに満足している筈のルキアだが何かが腑に落ちない。

 首を傾げるルキアに、ライが駆け寄る。 


「ルキア!」

「おう、ライ」


 ライはルキアの正面に立つと、もの凄くやる気が削がれてしまう。

 その理由はルキアの、表情と態度だ。

 ルキアは明らかに、物見客のようである。


「ルキア、腕組んでる場合?」

「いやぁあ、結界はこれで良いかと。な」

「余裕だね。ちち様は焦ってたよ」

「そうか、じゃあオレも焦ろうか」

「そういう問題?」

「ふ、違うよな」


 ルキアは背にある剣をすらり抜き、応戦の構えを取る。ライもルキアの横で鉤爪を手にはめ、足は軽やかに。

 いつでも戦える準備をすると、ルキアに合図を求める。


「降りて来そう? それとも去るかな?」

「それが読めんのだ」

「え?」

「魔壁結界はきちんと効いている。でもな? 何かがある」

「杞憂では?」

「違う。よくわからんが、試されてるような……そうでないような」


 ルキアは手に、嫌な汗が滲むのを感じ取った。


可怪おかしい、赫く燃える大きな躯体にある尾は立派だ。城なんていとも簡単に。なのに……)


 動こうともしない。


 ルキアは唾をごくり。

 息と一緒に怖気も飲むと、ライに命令する。


「ライ、ありったけの力でオレを放れ!」

「え!?」

「ヤツに顔を見せてくる」

「ええ?」

「出来るな」


 ルキアはライの上で宙返りをする。

 ライは両手を組み、落ちて来るルキアの足先を手肉で受け止め有りっ丈の力を開放。

 彼の重み身体を上空へと、流す。

 投げられたルキアはその瞬間。「空鼓タンバ」と風魔法を唱えるや足に、載せてやった。

 軽々と空に舞うルキアは自身が張った障壁を越え、怪物の眼前で息を殺す。


 そこには明々照照な、赫色が──。


 目を合わす相手にルキアは、鳥肌を立たす。下から見た時に、予測しえなかった膨大な魔力の質量もだが……。

 今、はっきりと捉える全貌。

 全長何メートルあるだろう。ルキアの体どころか城も、優に越す大きな躯体。

 思った通り、やはり──。

 城を、潰す。

 緋色を通り越す見事な赤褐色の色付きある鱗。頑丈な表皮は、簡単に斬れてくれそうにない。


(もしこいつが本気を出したら。オレと叔父の防御なんて……)


 幸い、竜の方からは何も仕掛けて来ない。

 それどころか、あたかも待ってましたと言わんばかりに、ルキアにニヤリと牙を出す。

 凝視する眼力さえも、ルキアを圧倒する。

 

(なんだ? 観察? それとも……?)


 訝しむルキアだったが知恵あるヤツなら会話が成立すると思い、伺い立てようとした矢先のこと。

 デカ物の口から、熱い吐息が洩れ出た。

 そして鼻息と伴に滾る声が、ルキアの名を呼んだ。


「待ってたぞ、小僧ルキア

「なっ? オレを知ってる?」


 驚くルキアに、目をぎらつかせる。


「嗚呼、小僧をいつも眺めてたさ」


 ルキアは己をガン見する竜に、目線を合わせる。その覇気に気負わされる事なく、剣を振るうルキアがいる。


「生きが良い」


 赤い竜レッドドラゴンは囁く。


「何をぼやく?」

「ふはっ、覗かれるのがきらいと言いながら小僧」

「ああ、いやだ」

「ふ、笑止」


 何故か勝ち誇ると赤い胸を膨らませ、ありったけの大声で少年を嗤う。吐かれる息吹に気圧されたルキアは、身体の軸をぶらされてしまう。

 振るった剣は、すかされてしまう。


「ワシの目に気づかん奴がほざいたわ」

「お前の視線だと?」


 豪気な笑いと火を、ガァアアと吹きもする。ルキアは咄嗟に剣を盾に見立て、身体を庇う。

 風魔法で浮かす体を整え、『水泡シャボン』と水魔法を唱える。空気中の水気を集めシャボン玉のような膜を張り、熱気から身体を護る。


「ほう。忍耐力は認めよう」

「なんだよ、いったい……」


 落ち着くルキアだったが手にする剣は反対だったようだ。

 剣の鍔、そこにある緋い結晶石いしが怖がるかのようにビシッと割れ爆ぜた。

 ルキアは、剣に宿る魔力に自身の防御魔法を被せあてにしていたものだから……。


(やばっ、落ちる?)


 砕ける破片が豪炎色を上げ、散らばっていく。まつ毛の隙間から其れを覗くルキアがいる。


(散っていく石と炎がきれいだなでも。走馬灯を見た訳では……ない!)


 ルキアは目を大きく見開き、眼前の巨軀赫い体に魔法を仕掛けようと思うた瞬間だった。


 あり得ないことが起こる。


 鍔の装飾は無くなり剣はもう役に立たないであろう……と、ルキアは思っていた。

 だが!


「ほおおお」

「なー……に?」


 ルキアは片手で持つ取っ手部分を、両手で強く握り直す。

 なぜなら、割れた鍔が更に紅く膨れ、そこには新しい結晶石を覗かせ鍔がされていくのだ。


 ルキアの意思を、汲むように。


 驚く二人を除け者に、石はまた赤々爛々と輝く。結石の中央に瞳が浮くと瞳孔が開きがあると主張するや、そいつは……。


 咆哮し始めた。


 剣のいななきは龍に向けられる。

 剣の主人たるルキアは柄に、不気味な脈動を感じ驚愕するとともにしっかりと腕と手を強くすることを忘れない。

 ルキアは竜に立ち向かう。

 剣先が分厚い皮を掠めた。

 赫い鼻が付く口は、鼻息を大きく吐く次に口も大きく開く。


「ほお、剱よ。この間に進化するとは大したもんだ」

「進化だとう」

「ああ、進化だ覚醒だ。フハハ」


 目を寄せ、笑む竜がいる。

 ルキアは温い息もだがそのおしゃべりに、闘う意欲を失くしてしまう。

 剣も硬い鼻に食い込んだままであるが今は、にない。


「……よく、話しかけてくる。な?」

「ああ、だってわし。もともと戦う気は毛頭ないのだ」

「はあ?」

「わしはお前が持つ剣とお前自身を回収出来ればそれで良い」

「オレだと?」

「そうだ。それに気づかぬお前はらしくもない」

「なにを?!」

「フハハ!! そこな剣にある魔石。それはわしの同朋にして同族の竜の目!」

「!!!」

「だからして、わしの視野同然!」


 赫眼をいやらしく轟かせる竜がある。


魔眼デビルアイ!! 千里眼テレノウスィスか?!」


 竜の眼がカッと開くや、剣の瞳も見開く。


「言ったであろう! 視ていたと!」

「もっと早くに言いに来いよ」

「んん? 言ったところでお前たちの所業はかわらんじゃろうて」

「確かに、だ」

「ルキア、もう良いであろう?!」

「なにが良いのだ?」


 飛竜はルキアを、瞳の中に収めると睨みもする。


「剣は我が同胞の骸。元あった所に戻してやるべきだと思わんか?」


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