頼むから! オレの好きにさせてくれ。 ~卑屈?な少年を竜と魔女と天使は笑う?~
珀武真由
プロローグ
0 創
大地に根をはる大きな樹がある。
でもその一本以外は何もない。
土の上にあるはずの水も緑も生命も。
どの足跡も何ひとつ。
「私以外が存在しない……」
空と下界を見渡す大樹はこれで良いのかと杞憂する。
そして涙した。
初めて世界に。
水が生まれた。
生命の芽吹きが起きるのか?
樹は胸躍らす。
そんな或る日。
黒いマントを纏う少女が一人。
ひたひた。ひたひた。
歩く足は重く。
彼女の吹くものは冷たい息。
その涙声。
足音は死を冬を産む。
ひたひた。ひたひた。
冷たい音の中に在る悲壮。
少女が哭きながら引きずる影は。
この世のものと思えない。
呻き、悲鳴、嗚咽がどよめくどす黒く。
この世の最後を思わす死が何故かそこにだけ響く。
少女は振り返る。
そこにあるのは息なき……。
恐れるあまり誰も少女に寄り添わない。
手を握らない。
いつも独り。
その苦しみは……。
また或る日。
白いマントを纏う少女が一人。
ぴーひゃら。ぴひゃらら。
歩く足は軽やかに。
彼女の吹くものは温かい息と笛。
その音色。
足音は春を産む。
ぴーひゃら。ぴーひー。
温かい音の中にあるのは悲愴。
少女が泣いても引きずる影は。
この世のものと思えない。
明々、綻び、歓喜が色彩よく豊かに白く。
この世の最後とは思わせない音色を響かせる。
少女は振り返る。
そこにあるのは芽吹き……。
尊いあまり誰も少女に寄り添わない。
手を握らない。
気付くと孤独。
その儚さは……。
そんなまた或る日。
二人の少女は出会う。
真逆の性質が引力に導かれ手を取り合う。
「おまえの名は?」
「あなたの名は?」
名を呼び合う二人。
黒い少女の悲しみ。
白い少女の哀しみ。
二人は胸に秘めた過ちを語り合う。
黒い少女は『死』を散らし過ぎたこと……。
白い少女は『生』を散らし過ぎたこと……。
相反し合う悲哀は寄り添う。
でもそれは見事な調和を運んだ。
生み出される生命に終わらせられる死。
『生』と『死』は楽しく過ごす。
『生』は名の通り幾つもの生きものを。
たくさんの種族を創くらせる。
『死』は名の通り幾つもの死を。
たくさんの種族を終わらせる。
全ては円滑に。
全ては円満に。
やがてこの二つは女神として崇められ生きとし生けるモノ達の糧となる。
大樹も喜び葉を揺らせ地上に舞わす。
生命と死は廻る。
でも。
その輪環を紡ぐ二神は或る日を境に……。
それを境に寛大な大樹も。
心を閉ざした。
その先は――……と或る今に紡がれる。
昔から伝わる古いお話。
そのお話はたくさんの種族たくさんの土地。
あらゆる処にばら撒かれる。
どれが正しくどれが間違いかは分からない。
ただそれを間近に視たものだけはそれを知っている。
古えを知る者の瞳は緋く。
大きな赫い巨躯には大きな翼。
強い爪。
長い顎に鋭い牙――。
古の大樹と伴に今をもっとも永く生きる大きな
――でも。
その大いなる存在はただ諦観を極めることにした。
静かに息を潜め静かに動き静かに。
全てを見護ることにした。
間違いも正しさも放置したままに……。
何があったのかは胸に秘めたままに。
そしてそんなまた或る日。
龍は出会ってしまう。
―――とある少年に。
それは人間だが白くも黒くもある。
産み出すことも終わらせることも出来る。
『生』と『死』を合わせ持つ不思議な少年。
赫い龍は悩んでしまう。
この少年をどうしてやろう。
二人の女神が一つになって成し遂げる力。
それをたった一人の人間が持ち合わせている。
……悩んだ末に。
龍は。
動くことにした。
この少年の生き様の真偽を確かめよう。
この人間は自分が慕い敬うあの女神たちの。
その神秘に見合う者なのか。
それとも――……。
嘘か真かわからない物語に無理矢理引き込まれる少年がいる。
少年は……――。
赫い龍は……。
新たな輪環は――どう紡がれて行くのか。
物語は。
まだ始まったばかり……。
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