第81話 偵察
そうなってくると、この森から出る選択をしなくてはならず、土地勘もなければ道も分からない。
森を抜ければ知っている場所が見えている可能性もあるが……俺はダンジョン都市フェルミ近辺以外の場所は分からないからな。
「それなら……人間を狩る場合は森の外に行くしかないってことですね」
「そういうことだ。色々な面でリスクは高いが、その分のリターンは大きい」
「それでも僕はこの森で魔物を狩って過ごしていればいいと思ってしまうのですが……。シルヴァさんが人間を狩るべきだと言うなら、森の外へ行き魔物を狩りましょう!」
「ちなみにだが、成功確率はどんなものだと思っている?」
「四割ってところではないでしょうか?」
俺は六割くらいだと考えていたため、バエルは俺以上に厳しく考えているようだ。
「まぁそれぐらいか。……まずは俺とバエルで周辺の偵察に行こう。作戦を立てるにしても情報が少なすぎる」
「それがいいと思います。近くに別の森があるかどうか分かるだけでも、今後の動き方が全然違いますので」
「それなら早速偵察に行くか」
「分かりました。準備を整えますので、十分後に再集合で大丈夫ですか?」
「ああ。もちろんだ」
バエルと話し合い、まずはこの森の周りに何があるのかを探ることに決めた。
本当なら街や村の中に潜り込み、人から直接情報を聞き出したいんだが、一番人に近いバエルやアモンでも全然魔物だからな。
顔まで隠れるローブを身につけたとしても厳しいため、街の中に潜り込むのは現実的ではない。
そんなことを考えつつ俺も準備を整え、同じく準備を終えたバエルと再集合。
ついて行きたそうな顔をしていたニコには待機するよう伝え、俺達は初めての森の外を目指して歩を進める。
もちろんのことながら、街の入口とは別方向から無理やり抜け出るつもりだ。
「こっちは木々が生い茂っていて、進んだことがなかったです」
「俺もだ。道とは言えない場所だもんな」
適当に雑談をしつつ、剣で行く手を阻む草や枝を切りながら進むこと約半日。
昼前に出発したのだが、既に日が落ちかけている。
今日はこの辺りで野宿も考えなくてはいけない――そんな思考が頭を過ったタイミングで、俺は森の終わりを視界に捉えた。
夕日の光が木々の間から強く漏れ出ていたことで、森の外であることがはっきりと分かった。
「バエル、見えたぞ。もう少しで森から抜けられる」
「長かったですね。中で暮らしていると分からないですが、この森ってかなり深い森ですよね」
「ああ、相当深い森だと思う。俺達から探しに行かない限り、冒険者と出会うことがなかったんだからな」
先代のゴブリン達が人間から逃げるため、深い森を探して森の奥地に拠点を構えたのだろう。
結果としてオーガにこき使われることになったのだが、殺されるよりは確実に良い選択だったし、そのお陰でゴブリンに転生した俺がこうして順調に成長できている。
毒親である母ゴブリンには感謝しないが、この森の奥地に拠点を構えた先代のゴブリンには感謝をしつつ、光が差し込んでいる場所を目指して進むと……。
木の隙間から森の抜けた先が見えた。
「この先は雑草が伸びきった平原だな。人が通った形跡がないし、この平原を進むことができそうだ」
「苦労して進んだ甲斐がありましたね! ……ただ、ここから先が本番なんですよね?」
「ああ。ここまでも大変ではあったが、ここから先は全くの未知。いつ人間が現れてもおかしくない場所を進むことになる」
森の外に出た喜びもつかの間、再び俺とバエルの間で緊張が走る。
ここにニコがいたら森の外に出られたことで確実に浮かれていただろうし、慎重な性格のバエルだけを連れてきたのは正解だった。
「シルヴァさん、ここからはどうします? 夜の暗い中を進みますか?」
「暗い中進んだ方が見つかりづらいとは思うが、別に俺達も夜目が効く訳じゃないからな……」
「僕は行ってしまいたい気持ちが強いですが、シルヴァさんに判断はお任せします」
非常に迷いどころではあるが、森の中で一泊して明日の朝一から動き出すのが正解だろう。
暗い中進んでも道や周りの景色が見えないし、気配を察知できない以上に人間の方が俺達を見つける確率が高い。
迷ってしまうことも考えると……せっかく見えた森の外だが、ここは一度冷静になって留まる決断をするべきだな。
「判断を任せてくれるなら、この森で一夜を明かそう。偵察な訳で時間に追われている訳でもない。命を最優先に動こう」
「そうですね! それじゃ少し引き返して、火を焚きましょうか」
「ああ、食料も森の中で調達しようか。森の中に留まるんだし、わざわざ持ってきた食料を使う必要はない」
「はい! 僕が火を焚くので、シルヴァさんは食料集めお願いします」
サクッと役割分担を行い、バエルのこの場に残した俺は食料を集めることにした。
索敵ついでに何か獲物となる獣や魔物がいないかを探し、獲物が見当たらなければ果実を探す。
果実もなければ、朽ち木を探して久しぶりに幼虫でも食べるか。
栄養価も高いし味も美味い上に、簡単に獲ることのできる最強の食料。
見た目が最悪なのが唯一の難点ではあるが、俺もバエルももう慣れているし関係ない。
旨味の詰まった幼虫の味を鮮明に思い出してしまったことで、他の食料が取れる取れない関係なく朽ち木にいる幼虫を食べたくなってきたな。
まずは朽ち木を集め、それから獲物探しを行うか。
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