第79話 無駄な動き


 アモンの試し撃ちを待つこと約三十分。

 ようやく全ての能力を試すことができたようで、自信満々な表情で俺の前までやってきた。


「シルヴァ、待たせて悪かったな! 俺の方の準備は整ったぜ!」

「やっとか。待ちくたびれて帰ろうかと思っていたところだった」

「待たせた分の期待には答えられるはず! シルヴァの驚く顔を見るのが今から楽しみだ!」


 アモンは早く試したいという表情を見せており、ここは受け身をとってアモンの能力を見させてもらうとしよう。

 互いに木剣を構えて向かい合った。


「シルヴァ、準備できたか?」

「ああ。いつでもかかってこい」

「それじゃ遠慮なく――【フルバースト】」


 聞いたことのない能力を使用し、一気に距離を詰めてきた。

 黄色いオーラのようなものを発しており、見るからに危険な状態なのが窺える。


「シルヴァ、防げなきゃ一気に終わるぜ!」


 そんなことを俺に言いながら、木剣を振り回しまくってきたアモン。

 動きは雑になっているのだが、その雑さを凌駕するぐらい動きが速い。


 構えから先読みして何とか防げてはいるが……予想以上だ。

 鬼人族になったことで単純な身体能力が上がった上で、能力によって身体強化されている。

 一発一発も重いし、気を抜くと防いでいる剣が吹っ飛ばされそうになる。

 

「……防いでくるのヤバいな! なら、次の能力だ! 【鬼化】」


 纏っていた黄色いオーラが消え去り、次はアモンの体自体が変化し始めた。

 体全体が一回り大きくなり、筋肉量もこの一瞬で見違えるくらい増えている。


 最終的に赤いオーガっぽさがあるような姿に変わり、ニヤリと笑ってから小さく見える木剣を振ってきた。

 ……あれ。一撃の威力が上がった代わりに、動きが鈍くなったことで対応しやすい。


 ドヤっていた割に微妙な能力だな。

 この状態で、さっきの【フルバースト】とやらを使ってきたら凶悪なんだが、【鬼化】単体では明らかに対処しやすくなった。


「あれ……。攻撃が当たらない!」

「動きが大雑把すぎる。受けに徹しようと思っていたが――とりあえず一本」


 巨体化したアモンの攻撃をかわし、隙だらけの脇腹に剣を叩き込んだ。

 やはりこうして対峙すると、通常種ゴブリンのままであれだけ戦えるニコの異常さがよく分かる。


「ああー、くっそ! 駄目だ。次の能力! 【炎熱操作】」


 【鬼化】のスキルを解いたアモンの体は、一瞬にして元の状態に戻った。

 そして、次に発動させたのが【炎熱操作】という能力。


 能力名から察するなら、炎を操って攻撃する能力。

 アモンは木剣を右手だけで握り、左手はフリーの状態にさせるという明らかな行動を取っているため間違いないはず。


 さっきアモンの家に入った時に感じた熱気は、炎を操る能力を得たことによるものだったのか。

 俺が【毒針】を放つときのように、親指を立てて標準を合わせ、向けてきた人差し指から火の玉を飛ばしてきたアモン。


 使い方の下手さに思わず笑ってしまうが、まぁこれも経験だな。

 俺は飛んできた炎の弾を楽々かわし、アモンの懐目掛けて突っ込んでいく。


「ちょっ――速いッ!」


 炎で攻撃するのか、それとも木剣で防ぐのか。

 慣れていないこともあり、一瞬の判断に迷いが生じたアモン。

 結果、中途半端に右手の手のひらから出た炎は上に向かって無駄に舞い上がり、その隙に無防備となった頭に木剣を叩き込んだ。


「はい。また一本」


 能力の扱いがあまりにも下手すぎる。

 【速脚】とかシンプルな能力ならもっと使いこなせていただけに、進化したメリットを一切活かせていない。


「くっそ……本当に強い。……次の一撃だけは決める!」


 そう宣言すると【炎熱操作】の能力を解除させ、剣を下で構えて固まった。

 この構えだけで、何をしてこようとしているのは分かってしまうのが悲しい。


 恐らくではあるが、赤いオーガを倒した時の能力を使うのだろう。

 昨日の祝勝会で散々聞いた能力であり、一切情報がない状態で使われていたら防ぐのは難しいだろうが……来ると分かっていた何も怖くない。


 アモンが固まっている隙に、俺も立ち止まって能力を発動——【鬼の憤怒】。

 力が漲る代わりに、頭がムカムカとして思考しづらくなっている。


 メリットとデメリットがハッキリした能力だが、使いどころを多いであろう能力だ。

 【鬼の憤怒】だけを発動させた状態で、ゆっくりとアモンに近づいていく。


 一歩進むごとに警戒。一歩進むごとに警戒を繰り返し、どのタイミングで攻撃を仕掛けてこようとも対処できるように移動していると――。

 普段の間合いよりも少し早いタイミングでアモンが動き出した。


「――【一閃両断】」


 アモンの必殺の一撃が飛び出し、おの首元目掛けて木剣が飛んでくる。

 攻撃は想像していたよりも速かったが、攻撃自体が想像通り。


 俺は楽々受け流してから、大技を使用し無防備となった背中側から【鬼の憤怒】による一発をお見舞いする。


「いっだアアアアい!」


 後頭部を思い切り叩いたため、アモンは木剣を落として倒れ込んだ。

 色々な能力を見れて俺としては楽しかったが、無駄が多すぎてモヤモヤする展開でもあった。

 まぁアモンはこれから期待ということで……模擬戦は俺の圧勝で幕を閉じたのだった。


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