第78話 ボコボコ


 オーガ達に食糧を納めていた広場に着くと、先に来ていたアモンが俺を手招きして呼んでいた。

 今にも力を試したいようで、遠くからでも分かるくらい跳び跳ねて俺を呼んでいる。


「シルヴァ、早く! 遅すぎるぞ!」

「色々と話していたら遅くなった。どうだ? もう力の方は試したのか?」

「いや、まだだ! シルヴァが来てから試そうと思ってたから! それで……どうやって試したらいいんだ?」

「簡単なのは素振りか簡単な模擬戦だな。……相手をするがどうする?」

「いいのか? ぶっ倒してしまうかもしれないぞ?」

「俺の心配なんて随分と変わったな。ボッコボコにやられてから、ビビり散らかしていたのに」

「それは言うな! 前とは全然違うし、今の俺ならシルヴァとだってやりあえる!」


 赤いオーガを倒したことで自信がついたのか、それとも進化したことで自信がついたのか。

 何にせよ単純なアモンは、無駄に自信満々な方が実力を発揮できるだろうし、良い傾向と言えるだろう。


「それじゃ模擬戦を行うか。俺も進化したアモン相手だ。全力でいかせてもらうぞ」

「望むところ! ……だが、殺さないようには気をつけてくれよ!」

「木剣でやるから死ぬことはない。それじゃ準備ができたら言ってくれ」


 互いに距離を取り、木剣を構えて向かい合う。

 緊張しているのか、アモンの木剣の剣先は僅かに揺れている。


 この状態のアモンに対し能力を使ったら、死ぬことはないにせよ大怪我してしまう可能性がある。

 一つ気合いを入れさせるためにも、隙を突いて勝負を決めるとしよう。


「準備できたぞ! いつでもかかってこ――って早い!」

「いつでもいいって言ったろ。遠慮なく打ち込ませてもらうぞ」


 準備できたという声を聞いた瞬間に、俺は飛び込んでアモンに斬りかかった。

 そんな俺の不意打ち気味の攻撃に対して、何とか身体能力だけで防いだアモン。


 ただ、体勢を立て直せないように一気に攻撃を畳み掛け――あっという間にアモンの剣を弾き飛ばして試合終了。

 進化して強くなったみたいだが、内面は対して変わっていないな。


「初戦は俺の勝ちだな」

「ちょっと待て! いきなり速い攻撃をするのはズルだろ!」

「殺しに来ている敵に対してもズルいって言うのか? そんな精神でよく赤いオーガを倒せたな」

「あれはニコさんが……。いや、もう一回やらせてくれ! 何にも試せなかったし、今のは俺の気の緩みもあった」

「力を試すって言っても、本気でやらなきゃ意味ないからな。それじゃ二戦目行くぞ」


 ゆるゆるだったアモンの気を無理やり引き締め直し、もう一度互いに剣を構えて向き合う。

 今度はしっかりと集中できているようで、顔もニヤついていない。


 この状態なら、能力を使って攻撃してもしっかり対応してくれるだろう。

 まずは――【速脚】の能力を使用。


 間合いを詰めつつ、ジルーガから得た能力を追加で発動させる。

 【魔力解放】。そして【魔力闘気】。


 【魔力解放】は自分の魔力を外に放出させ、【魔力闘気】は放出させた魔力を身にまとわせることで戦闘能力を上昇させる能力。

 珍しい二つで一つの能力であり、その分他の能力よりも効果も使い勝手の幅も広い。


 まだジルーガか使っていたのを見ていただけであり、使うのは今回が初めてだが……。

 ジルーガが使っているのを見たときから、自分ならどう使うかを思考していた。


「うわっ! 何かシルヴァの体から変なのがでてる!」


 面を食らっているアモンに対し、魔力の闘気によって中距離から攻撃を開始。

 八本に分断させた魔力を触手のように伸ばし、自由自在に攻撃を加えながら……一気に距離を詰めて手薄になっている箇所に木剣を叩き込む。


「――はい。また俺の勝ちだな」

「ちょっと何だよ今の攻撃! ズルいだろ!」

「なんでズルいになるんだよ。魔力ではあるが魔法とかじゃなく能力だぞ」

「……なぁ、その能力ってジルーガから得た能力なのか?」

「ああ。昨日、ジルーガを食って得た能力だ」

「……俺との戦闘の前に試し打ちとかしていたのか?」

「昨日の今日で試す時間なんかなかっただろ。というか試すために、こうしてアモンを誘ったんだよ」

「……ということは、初めて使った能力であそこまで使いこなしていたってことか!? ニコさんは戦いの天才だと思ってたけど、シルヴァもかよ! 戦い以外でも凄いのに、戦いも凄いとかズルいだろ!」

「さっきから連呼しているズルいの意味が分からない」


 とは言ったものの、この点に関しては本当にズルいかもな。

 俺は戦いの天才なんかではなく、人間の時の記憶を持っているだけ。


 だからこうして初めて使う能力でも、ある程度応用して使いこなせる。

 人間の時の記憶がなければ能力を使いこなす以前の問題で、幼少期に野垂れ死んでいただろうからな。


「ズルいズルいと言っていないで、アモンも能力を使ってこい。せっかく進化したのに、進化以前の能力しか使わないんだったら意味がないぞ」

「シルヴァは馬鹿なのかよ! こんな実践形式の戦闘でいきなり使えるわけがないだろ! 一旦、模擬戦は中止! 俺には才能がないってことがよく分かったから、素振りで使わせてもらう!」

「もう止めるのか。シルヴァを倒しちゃってもいいのか? なんて心配をしていたのにな」

「む、ムカムカする! シルヴァちょっと待ってろ! 能力を試し打ちした後にリベンジするから!」


 アモンはそう言うと、俺に背を向けて能力の練習を開始した。

 ある程度試してから俺に使ってくるようで、対応できるようにアモンの動きを見ながら俺も能力の試し打ちをしよう。


 分かっている能力の中で残っているのは、【鬼の憤怒】【従う者】。

 【従う者】だけはちょっと分からない能力のため、この能力を試しながらアモンが終わるのを待とうか。


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