第70話 青いオーガ
※バエル視点です。
シルヴァさん達と分かれ、僕はシトリーと共に青いオーガの下を目指して進んでいる。
周囲はオーガだらけだけど、混乱しているからか僕達を襲ってこようとはしてきていない。
間をすり抜けるように進んでいくと、三匹のオーガに指示を出している青いオーガを視界に捉えた。
派手に暴れてくれているイチ、サブ、ストラスのお陰で、戦闘回数ゼロのまま青いオーガの下まで辿り着くことに成功。
「青いオーガを見つけましたね。どうやって倒しますか?」
「僕が前で戦うから、シトリーは後方から魔法で攻撃してほしい!」
「分かりました。メインは周囲にいるオーガ達を寄せ付けないようにすること。次に回復。余裕があれば青いオーガへの攻撃にも参加させて頂きます」
「うん。それでお願いしたい」
シトリーは頭が良いため、非常に連携が取りやすくて楽。
後ろはシトリーに全部任せて、僕は青いオーガを倒すことだけを考える。
他のオーガと比べても一回り大きく、筋肉質なトロールのような見た目をしている青いオーガ。
近づく度に圧を感じるが……近くでシルヴァさんを見ている僕にとっては何てことのない圧。
ボスを任されたニコに遅れを取らないよう、ここは苦戦せずに倒しきりたい。
向こうも近づく僕達に気づき、指示を飛ばしていてたオーガ三匹に攻撃するよう命令した様子。
明確な攻撃の意思を持って、距離を詰めてくる通常種のオーガ。
そんなオーガ達を攻撃しようと動いたのだが、僕よりも先に動いたのはシトリーだった。
「【水流連弾】」
三匹のオーガに水でできた弾丸がぶち当たり、動きが完全に止まった。
水といえど速度を上げれば相当な威力になり、オーガであろうとダメージが入っている。
これだけでも十分であり、後は僕が斬れば終わるのだけど……シトリーの魔法がこれで終わりでないことは一緒に練習してきた僕だから知っている。
再び魔力を練り込むと、動きを止めた三匹のオーガに間髪入れずに魔法を唱えた。
「【氷結爆発】」
これがこの一ヶ月、シトリーがひたすらに練習していた魔法。
水属性と風属性の複合魔法である――氷属性の魔法。
複合魔法は魔力の調整が非常に難しく、魔法の才能がないと扱えない属性魔法。
僕も一緒に練習していたけど、使えるようになる気配すらなかった。
そんな難しい魔法を、この大事な局面で完璧に使いこなしたシトリーには尊敬してしまう。
【水流連弾】で体が濡れていることも相まり、体の半分以上が凍った三匹のオーガ。
動きを完全に止めているがこれで終わりではなく、シトリーのフィンガースナップの音と同時に――オーガ達の体は粉々に砕け散った。
僕は正面を向いているせいでシトリーを見ることができていないんだけど、今の一連の魔法は鳥肌が立つくらいにカッコよかった。
ここまでお膳立てされたからには、情けないところは絶対に見せられない。
砕けた氷塊となって死んだオーガ達を飛び越え、その先にいる青いオーガ目掛けて突っ込んでいく。
今まで一番の集中力を発揮できていて、体も今まで一番軽い。
「【快脚】【跳躍力強化】」
二つの能力を発動させ、飛ぶように青いオーガの懐に潜り込んだ。
ただ、青いオーガも急に飛び込んだ僕に驚いた様子は見せておらず、叩き潰すようにこん棒を振り下ろしてきた。
ここで更に能力が使うことができれば、【読心術】で攻撃を読んでカウンターを合わせることができたんだけど……。
僕は能力を二種類までしか同時に発動させることができない。
シルヴァさんはほぼ無限に、ニコは四つ同時に使えることを考えると、ここで差が生まれてしまっている。
歯がゆい気持ちではあるが、頭を悩ませたところでどうにかなることではない。
自分にできることで、自分にしかできない倒し方を見せる。
僕はもう一段深く集中し、まずは【気功】で中距離から一方的に攻撃を行っていく。
能力を使わないと懐に潜れず、懐に潜っても対応されてしまうなら、青いオーガの方から僕に近づかせる。
やるべきことを定めた僕は、青いオーガの攻撃が届かない距離を取り続け、【気功】と魔法でダメージを積み重ねていった。
一発一発のダメージは低いかもしれないが、当てる箇所を定めたお陰で、青いオーガは早くも庇うような仕草を見せ始めた。
ただ、いくら庇おうが、角度を変えれば狙うことが可能。
嫌がることを徹底的に。
青いオーガの心が折れるまで攻撃し続ける――つもりだったのだが、早くも痺れを切らしたようで僕が飛ばしている魔法のガードを解いた。
ノーガードで突っ込み、近距離戦へと持ち込むつもりのようだけど、僕の本当の狙いは近距離戦。
すかさず【読心術】の能力を発動。
「コザカシイゴブリンガァ! シネエエエ!」
こん棒を両手に持ち、力の限り振り下ろしてきた。
当たれば一撃で死ぬ攻撃だけど、攻撃の位置が分かっていれば、こんな大振りの攻撃は格好の餌。
振り下ろしてきたこん棒に合わせ、【強撃】の能力を乗せた袈裟斬りをお見舞いする。
大ダメージ間違いなしの完璧なカウンター、そして完璧な袈裟斬り。
手に残る感触すらほとんどなく、人生で一番の手応え。
叫びたくなるほどの一撃だったが、まだ終わっていない。
僕は振り返り、大ダメージを負っているであろう青いオーガにトドメを刺しに動いたのだが――。
振り返った僕の目に飛び込んだのは、肩から腰まで斜めに両断されている青いオーガの姿。
「……一撃で両断できたのか?」
驚きの感情しかなく、体が半分となった青いオーガを見て呆然と立ち尽くしてしまう。
生まれたばかりの頃は、こんな光景を見ることになるとは想像もしていなかったな。
地面を這いつくばって、シルヴァさんの真似をして蛆虫を食べて生き長らえていた幼少期を思い出し――つい涙が溢れてしまう。
「バエルさん、泣いていないで離脱です! オーガが集まってきますので、ここから抜け出してシルヴァさん達と合流しましょう!」
立ち尽くして泣いている僕に、怒声のような声をかけてくれたシトリー。
あまりの会心の一撃に我を忘れてしまっていたが、この声のお陰で何とか冷静さを取り戻すことができた。
僕達の目標は達成したが、まだ戦いは終わっていない。
シトリーの声に頷いて返事をし、両断されている青いオーガを置き、僕達は上の高台にいるシルヴァさん達の下に急いだ。
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