第69話 決行日
作戦会議と言う名の決起集会を終えた翌日。
今日はいよいよオーガを襲撃する日。
ゴブリンを支配するオーガを初めて見た時から、この日を頭に思い描きながら過ごしてきた。
脳内でのシュミレーションでは全戦全勝。
一切の憂いなく、オーガに挑むことができる。
「みんな、準備はできているな」
「バッチリです! いつでもいけますよ」
「キョウまでにジュンビはしてきました! いつでもイケます!」
「ええ。サブリーダーに就任してから、成長した自分を試すことのできる最高の舞台ですね。準備はとうの昔に出来ていますよ」
頼もしい声が返ってきて、俺は思わずニヤり笑ってしまう。
今回の目標は、苦戦することなくオーガを殲滅すること。
一つ頬を叩いて気合いを入れてから、いつもの広場に向かった。
木陰に隠れながら、オーガ達の様子を窺う。
今日は食料納品日であり、広場ではいつものようにオーガ達が忙しなく動いていた。
オーガの集落に襲撃するかも迷ったのだが、この広場なら俺達も土地勘があるし、一気に殲滅するならここの方が向いていると判断した。
多くのゴブリンを集めるための場所であり、広い場所のお陰でオーガ達は分散している。
唯一の懸念点は、ジルーガ、青いオーガ、そしてボスである赤いオーガが高台に集まっているところ。
この三匹の内の一匹でも離れた瞬間が好機であり、それまではこの場で見つからないようにひたすら待機する。
ニコやアモンが痺れを切らさないかが唯一心配だったのだが、流石に大一番ということもあって、集中を切らすことなく潜伏してくれている。
そして、俺達が広場にやってきてから約二時間が経過したタイミングで――とうとう上の三匹に動きが見えた。
青いオーガが立ち上がり、ジルーガと何やら会話をしてから下へと降りてきた。
隣で待機しているバエルが動き出そうとしたが、片手を突き出して制止し落ち着かせる。
離れたといっても、すぐに合流されてしまったら意味がない。
ギリギリまで引き付けて完全に離れたのを見てから、俺は先陣を務めるストラスに合図を送った。
「いよいよですね。それでは先陣を切らせて頂きますよ」
そんな言葉と同時に木陰から飛び出し、一番近い場所にいた二匹のオーガの下へと突っ込んでいった。
オーガ達は急に現れたストラスに驚いた様子を見せたものの、まさかゴブリンが攻撃を仕掛けてきたなんて考えもしなかったらしい。
そんな狼狽えているオーガに対し、ストラスは綺麗な構えから剣を振り――風の乗った斬撃によって、あまりにもあっさりと斬り殺してみせた。
ウィンドホークから得た【風撃】の能力と、サブを見て会得した動きを合わせた一撃。
威力は申し分なく、【風刃】と呼ぶべき斬撃によって幸先の良いスタートを切ってくれた。
そんなストラスの攻撃で、ようやく襲撃だと気づいたオーガ達が動きだしたが、もう既にストラスの前にはイチが立っており、陣形が整えられている。
イチが盾役を務め、前衛がストラス、後衛がサブ。
ストラスも【風撃】、【風刃】によって、遠距離攻撃も可能ということが分かった今、もはや何の心配もいらない。
三匹に注意が向いている間に俺達も飛び出し、ターゲットの下へと向かう。
「それではシルヴァさん! 必ず青いオーガを仕留めています! どうぞご無事で!」
「ああ。バエル、シトリー。そっちは頼んだぞ」
「はい。私達に任せてください」
バエルとシトリーとは早々に分かれて、二匹は青いオーガの下へと向かっていった。
俺はニコ、アモンと共に高台へと目指し、道中で攻撃してきたオーガを蹴散らしつつ、あっという間に赤いオーガの下にたどり着いた。
ここにたどり着くまでにもっと手こずると想定していたのだが、完璧に混乱を招くことに成功したお陰で楽に辿り着くことができた。
最低限の会話ができると言っても、所詮は魔物。
不意を突くことができたら、こんなものなのだろう。
……ただ、問題はここからであり、実力で負けたら全てが終わる。
舐めた真似は一切せず、全力でオーガ共をぶっ潰す。
「……オイ、これはイッタイどういうコトだ? ゴブリンども、このセツメイできるんだヨな?」
「この光景を見て、まだ理解できないのか? 下剋上を果たしに来たんだよ。お前らオーガの天下は今日で終わりだ」
「テメぇ……! リーダーにニンメイしてヤッたオンをワスれやがったのか!!」
「恩? ふざけるな。搾取され続けて恩なんか感じるか。初めて見た時から、いつかこの手でぶっ殺してやるとしか思っていなかった」
「ゴブリンゴトキがちょうしにノリやがって……!」
赤いオーガの体色は更に赤くなり始めており、怒りの限界値を超えたように見える。
ただし、ジルーガだけは冷静に俺のことを見ており、やはりオーガの中で一番厄介なのはこいつだろう。
「やはり最初から裏切る予定だったのか。お前の目は最初から気に食わなかった。ただまぁ……私にとっては裏切ってくれて良かった。こうして誰にも止められることなく、お前をぶちのめすことができるんだからな」
「裏切ったとかでもないと言っているだろ。最初からお前達を利用することしか考えていなかったし、従ったフリをしていただけだからな。ただ、最後の意見には賛同できる。ようやくジルーガ、お前をこの手でぶち殺すことができることに心からワクワクしている」
俺の言葉でジルーガの目にも火が点き、見下した視線から敵を見るような視線に変わった。
大きく息を吐き、ゆっくりと剣を構える。
赤いオーガはニコとアモンに任せるとして、俺は全力でジルーガをぶち殺すことだけを考えるとしよう。
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