第65話 最後のピース
アモンがフォレストウルフを仕留めた日から、一ヶ月が経過。
問題だったアモンも魔物を倒せるようになったことで、ここまでは非常に順調に来ている。
サブリーダーの三匹はメキメキと力をつけているし、バエル達も着実に強くなっているのだが……俺自身の成長に物足りなさを感じている。
ストラス、シトリー、アモンに加えて、その部下達も俺の傘下に加わったことで、色々とやることが増えすぎてしまっていて、自分に使う時間が本当に少なくなっている。
正直、今の状態でもボスである赤いオーガには勝てるとは思っているのだが、後もう少しだけ強くなっておきたい気持ちが強い。
そのため来月に定めていたオーガとの決戦に向け、俺は魔物狩りの遠征を行うことに決めた。
「シルヴァさん、遠征を行うって随分と急ですね!」
「バエルにもお願いして悪かったな。一日で行ける範囲の魔物じゃ物足りなくて、オーガとの決戦までに遠くにいる魔物を狩りたいんだ」
「もちろん付き合わせて頂きます。準備もしっかりと出来ていますので、いつでも向かえますよ」
バエルからそんな頼もしい言葉をかけてもらった後に、遅れて家から出てきたのはニコとアモン。
準備に手間取ったようで、大量の荷物を背負ってやってきた。
「ニコとアモンも付き合わせて悪いな。……ただ、そんな大荷物はいらないぞ。邪魔になるだけだから置いてこい」
「うがっ!? ウガガ!」
「エンセイにいくんだヨな? ニモツ、いらないノカ?」
「バエルが準備してくれている。それに二日間くらいの予定だし、大荷物は却って邪魔なんだよ」
「うがが……」
せっかく準備したのにと言いたげに落ち込んだニコだが、いらないものはいらない。
最低限の荷物だけを持ち、この四匹のみで集落を離れて森の奥地を目指して出発した。
ちなみにメンバーの選定理由だが、バエルは全てにおいて役に立つから当たり前の選出。
ニコは完全なる戦闘要員で、アモンは俺のお気に入り枠。
魔物を捕食できるようになったが、戦闘の才能がないから相変わらず俺を含めた主要八匹の中では、相変わらず一番弱いまま。
生前の俺も才能がなかったから、どこか自分に重ねてしまっている部分がある。
そんな選定理由について考えつつ、二匹に荷物を置かせてから俺達は森の奥地に向かって出発した。
四匹で楽しく談笑しながら進むこと約半日。
ライノスファイターを倒した場所までたどり着いた。
ここから先は未知の世界であり、恐らくライノスファイター以上の魔物が生息しているはず。
オーガ達の話を盗み聞きした限り、この森にはオーガと縄張り争いをしている三種の魔物がいるらしい。
その内の一種がトロールであり、トロールとはオーガと似た大きな人形の魔物。
高い再生能力を生かし、ガードせずに圧倒的なパワーでねじ伏せてくる戦闘スタイル。
冒険者だった時は本当に苦労させられた相手だったが、今のほうが力もあるし楽に倒せるのではと思っている。
得られる能力も強そうだし、狩り得な相手だと判断して俺は今回の狙いに定めた。
そんなトロールを探し、未知のエリアを彷徨うこと五時間。
日が落ち始めており、一日目は移動のみで終わりかと思いかけたその時――。
ゴブリンとは違った鮮やかな緑色の体をした、巨体のトロールを視界に捉えた。
「全員静かにしてくれ。俺が尾行を行うから、三匹は俺の後を離れてついてきてくれ」
「分かりました。見つからないように気をつけます」
「うが」
返事を聞いてから、俺は視界に捉えたトロールの尾行を開始。
本当は今すぐにでも襲いかかりたいところだが、近くに仲間がいた際はこっちがピンチになる可能性がある。
それと日も落ち始めており、戦闘を行うには向いていない時間帯。
まずはコボルトの時と同じように尾行し、巣の位置を特定。
そして、翌日に一匹となったトロールを狩ろうと考えている。
絶対に気づかれないよう慎重に尾行していると、尾行を開始して五分ほどで、トロール達の集まっている巣にたどり着いた。
懸念していたよりも近い場所に巣があり、ホッと胸を撫で下ろす。
感情のまま襲っていたら、巣にいるトロールを呼ばれていた。
そうだとしても勝てる可能性のが高いと思っているが、無駄なリスクは絶対に避けた方がいいからな。
トロールの巣から離れる前に、トロールの戦力の確認を行う。
まず別種やボスのような変わった個体はいない。
それから一匹につき一軒のボロボロの藁葺の家を使い、生活しているらしい。
家の数を数える限り、オーガの数は合計で二十一匹。
オーガよりも数は少なく、思っていたよりも少数で行動していることが分かる。
さっきのトロールが一匹で動き回っていたところから考える限り、群れて行動するということもなさそうだし、比較的簡単に一匹を誘い出して戦うことができそうだ。
……よし。これだけの情報が集まれば、もう十分だろう。
去る際もトロールに見つからないように気をつけながら、俺はバエル達の下に戻った。
「シルヴァさん、お疲れ様です。トロールはどうでしたか?」
「多分、各個撃破可能だ。ひとまず近場で安全そうな場所を探し、そこでキャンプしよう。明日の朝一にもう一度ここに来て、トロールが単独で動くのを待つ」
「タンドクでウゴいたらカルーーだな!」
「ウガガッ!」
気合の入ったアモンの言葉に頷いて返事をし、俺達は明日に向けてキャンプのできそうな場所探しを始めた。
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