第64話 食の改善


 アモンの表情は鬼気迫るものがあり、そんなアモンをゴブリンビレッジャーは羨望の眼差しで見つめている。

 俺も完全にあっけに取られており、そんな中アモンが深く息を吐いてから大声を上げた。


「アモン、よくやったな。ちゃんとフォレストウルフを倒すことができたぞ」

「あ、アリがとウ! シルヴぁがサポートしてクれたカラだ!」

「俺のサポートもあったが、ここまでずっとトドメを刺せずにいただろ? ここでフォレストウルフを倒すことができたのは紛れもなくアモン自身の力だ。よく踏ん切りをつけることができたな」

「とっさニたすけナきゃって……カラダがカッテにウゴいた!」

「その感覚を忘れないでほしい。それからゴブリンビレッジャー。……あれほど俺の前に出るなと言ったのに飛び出したな」


 俺が語気を強めてそう言うと、アモンの背中に隠れるように下がった。

 アモンも責めないでやってくれと言わんばかりに前に立っており、構図的に俺が悪者のようになっている。


「す、スイませン……!」

「勝手に飛び出されたら、俺も守ることができなくなる。アモンを心配して飛び出したんだろうが、却って危険な目に合わせることになるんだぞ」

「うぅ……ゴメんなさイ」


 目には涙を溜めており、今にも泣き出しそうなゴブリンビレッジャー。

 もう反省したみたいだし……早い気もするが説教はこれぐらいにしておくか。


 理由はどうあれ、ゴブリンビレッジャーのお陰でアモンがトドメを刺すことができた訳だしな。

 叱りはしたものの、ゴブリンビレッジャー達には後で褒美の料理を振舞うとしよう。


「俺がいる時はもう二度とやらないでくれ。アモンからもよろしく言ってくれよ」

「ハイ。オレのほウからもイッテおく。……それヨリも、このフォレすトウルフはドウするンだ?」

「もちろん、狩ったからには食べる。食べないと強くなれないのがゴブリンだ。流石に二匹は食べられないだろうし、もう一匹は――」


 俺はちらりと先ほどのゴブリンビレッジャーに視線を落とす。

 首を横にブンブンと振っており、トドメは刺すことはできないと全力でアピールしている。


「なら、俺がトドメを刺すしかないか。後方で待機していた組も無理だもんな」

「まずはオレかラつよくナラないと、こいつラはツイテこない! あのフォレストウルふはシるヴァがタオしてクレ」

「なら、そうさせてもらう。二人で調理して食べるとしよう」

「タベる……タベるか。オレはタベることガできるのか?」

「頑張るしかない。口に詰めてでも食べろ」


 吹っ切れたようにも見えたが、ニコと同じように不安がっているアモン。

 ただ喰うということに関しては、何とかさせる自信が俺にはある。


 解体をしっかりと行い、肉として調理して食欲をそそることができれば、食べたいという本能で打ち消すことができることはニコで実証済み。

 そうと決まれば、早速もう一匹のフォレストウルフにもトドメを刺して、解体からの調理を行うとしよう。



 二匹のフォレストウルフの死体を担ぎ、集落へと戻ってきた。

 バエルにも手伝ってもらって解体を終わらせ、今日狩りに向かったゴブリンビレッジャー達も交えて調理を開始する。


 まぁ調理といっても、焼いた肉に特製調味料を振っただけの簡単すぎるものだが。

 これだけでも倍は美味くなるし、そろそろ他の調味料も作りたいと思っている。


 喰うことが強くなるゴブリンにとっては、食事を豊かにすることは最重要だからな。

 まずはオーガが優先だが、オーガへの下剋上後は食事に力を入れてもいいかもしれない。


 そんなことを考えていると、肉が焼けて美味しい匂いが漂い始めた。

 俺の調理を険しい表情で見ていたゴブリンビレッジャーだが、美味い匂いが広がってきた今では食べたくてしょうがないといった顔になっている。


「美味そうな匂いだろ? ゴブリンビレッジャーも食べたかったら食べていいぞ」

「た、タベたくは……ナイです」

「そうか? アモンはどうだ?」

「オレはショウジキ、たべたいキモチがマサッテきている!」


 アモンも本能が拒否していた感じではあったが、料理を見るなり態度が一変。

 口からよだれを垂らしているところを見る限り、食べることができそうだ。


 まずは美味そうな焼き目のついた肉をアモンに渡し、続いて俺も手に取って、まずは俺から肉にかぶりついた。

 ――美味い!本当に美味いな。


 丁寧に調理しただけあって、肉汁が溢れ出て旨味が際立っている。

 調味料のバランスも最高で、フォレストウルフの独特の臭みも消え去っている。


「オレもタベていいか!?」

「もちろん。アモンが狩った獲物だからな」


 俺に許可を取った後、生唾を飲みこんでから肉にかぶりついたアモン。

 トドメを刺させることには苦労したが、喰わせることは本当に楽だな。


 一口いったらもう心の壁は決壊。

 アモンは夢中になってフォレストウルフの肉を美味しそうに食べている。


「……食べたくなったら食べてもいいぞ」

「…………た、タベまス!」

「オ、オれも!」


 ゴブリンビレッジャーもアモンを見て踏ん切りがついたようで、俺が調理したフォレストウルフの肉を食べ始めた。

 トドメは俺が刺したため能力を得ることはできないのだが、少しずつ食べ物として認識するようになるし、食べ物と認識したら狩ることだってできるはず。

 俺は密かにそんなことを考えながら、美味しそうに食べているアモン達をほほ笑みながら見守った。

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