第60話 力の差


 まず戦闘を開始したのはゴブリン希少種vsバエル。

 互いに礼儀正しく頭を下げた後、剣を抜いて構えた。


 ゴブリン希少種の構えもゴブリンにしてはなっているが、バエルは俺が徹底的剣術を教え込んできたからな。

 もう構えた段階からバエルの圧勝という雰囲気を、俺だけでなくこの場にいる全員が感じたはず。


「それでは行かせて頂きますね」

「はい。いつでも大丈夫ですよ」


 バエルがそう返事をしてからすぐ、ゴブリン希少種が動き出した。

 斬りかかったようだが動きに鋭さがなく、バエルは悠々と攻撃を避けていく。


 ゴブリンバロンの能力である【読心術】を使わずとも楽に攻撃を躱しており、バエルはどう傷つけないように倒すかにシフトしているようにさえ思える。

 このまま一方的に終わるかと思ったその時、ゴブリン希少種は剣を握る手を片手に替え、空いた手をバエルに向かって突き出した。


「油断しましたね。【ファイアーボール】」


 ゴブリン希少種の右手から火の球が発射され、バエルに向かって襲いかかっていった。

 俺も魔法を扱えるゴブリンなんて見たことがなかったし、それはゴブリン希少種も同じだったのだろう。


 まさに使えば必ず勝てる必勝の攻撃方法。

 ――が、残念ながらバエルも進化してからは魔法を使うことができる。


 向かってくる【ファイアーボール】をバエルは【ファイアーボール】で相殺させ、懐に潜り込むと腹部に掌底を叩き込んだ。

 容赦ない一撃に思わず笑ってしまうが、力の差を見せつけるという目的は達成されたし完璧な試合運び。


「バエルの勝ちだな。ゴブリン希少種もよく戦えていたと思う」

「……うぐ、強かったです。まさか魔法まで使えるとは思ってませんでした」

「俺達の中でも特別だからな。バエルだけが魔法を使うことができる」

「そうだったのですか……。一番相手が悪かったんですね」

「いや、それはどうかな」


 バエルとゴブリン希少種の試合が終わったと同時に、ホブゴブリンvsニコの準備が整ったらしい。

 ホブゴブリンは長槍で、ニコは無手。


 普段は剣やら短剣やらを使っているのだが、無手を選んでいることから完全に舐めている。

 まぁ無手だとしても、ニコは絶対に勝つだろうから構わないが。


「やはりあのゴブリンは強いゴブリンでしたね。魔法の攻防が見られるとはワクワクできました」

「うがー? ウガガッ!」

「あー、すいません。私達も始めましょうか。勝てないと思ったらすぐに降参してくださいね。うっかり大怪我を負わせてしまいますので」

「うがが、うがが! うがが、うがが!」


 ホブゴブリンの忠告なんて気にしていない様子で小躍りしているニコ。

 あの小躍りをすっかり気に入ったのか、最近はよく多様している。


「通常種ゴブリンで武器もなし。いや、なしというか武器を使えないと言ったところですかね? それじゃ一瞬で終わらせて頂きますよ。――うおらああああ!」


 そんな雄叫びを上げながらニコに突きを仕掛けたホブゴブリン。

 知識系っぽいところがあったが、動き自体は思っていたよりも悪くない。


 ただ……思っていたよりも良いってだけであり、ニコを捉えるのには圧倒的に速度が足らない。

 コープスキャットから得た【快脚】の能力と、フォレストウルフから得た【縮地】のスキルを同時に使い、ホブゴブリンの槍を避けながら奇妙な動きで翻弄し始めたニコ。

 

 地面を滑っているようにしか見えないのだが、物凄い速さで動いている。

 タイミングが非常に掴みづらく、どのタイミングでも進行方向を切り替えられるから、動きの気味悪さとは違って戦い難いんだよな。


 ニコの読めない動きに翻弄され、必死に槍で足を突こうとしているが全て躱されている。

 遊びに入ろうと始めたのが分かり、流石の俺もその行為は止めに入った。


「ニコ、もうおふざけはいらない。全力で戦え!」

「――ウガ!」


 俺の声に即座に反応した後、コボルトキングから得た【疾速】のスキルを使い、一気に勝負を決めにかかった。

 動きが完全にゴブリンのそれではなく、傍から見ている俺ですら目で追うのが大変なほど。


 独特のリズムで一気に近づき、懐に潜り込むなり顎先をスピードそのままに殴り飛ばした。

 【快脚】と【縮地】の時点で勝負は決まっていたが、今のパンチで完全にKO。


 ホブゴブリンも降参の声を出そうとしていたが、声を出すよりもニコの動きの方が速かった。

 バエルも完勝。弱いと思われていたニコも完勝。

 これでホブゴブリンもゴブリン希少種もノーとは言いづらくなっただろうし、オーガへの下克上も勝機があることを理解してくれたはず。

 

「す、スゴい! アッというマにタオしてシマっタ! ……コノにひきよりモ、オマえのホウがツヨいのか?」


 倒れている二匹の下に向かおうとした俺に声を掛けてきたのはゴブリンソルジャー。

 生意気な視線はなく、目をキラキラと輝かせて尋ねて来た。


「俺がリーダーだから当たり前だろ。ゴブリンソルジャーも俺についてくれば強くなれる。せっかくこの世に生まれたからには、弱者のまま終わるのは嫌じゃないか?」

「――イヤだ! ツヨくなれルなら、オレはオマエについテいく!」

「お前じゃなくてシルヴァだ。これからはシルヴァと呼べ」

「わかっタ。シルヴァ!」


 なぜか戦っていないゴブリンソルジャーが一番最初に従うと言って来たが、まぁオーガへの下克上も一匹だけ乗り気だったしな。

 今度こそ倒れている二匹に近づき、考えが変わったかを尋ねるとしよう。


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