第59話 馬鹿げた話


 声を掛けたゴブリン達を集めた俺は、オーガ達の聞こえない場所まで移動して話し合いを開始した。

 集めたのはホブゴブリン、ゴブリン希少種、それからゴブリンソルジャーの計三匹。


 三匹の手下にはどこかで待っていてもらい、俺はしっかりとバエル、イチ、ニコ、サブの四匹を連れてきている。

 オーガへの下克上はバエル達にも言っていなかったことのため、ここで全員初めて知ることになる。

 どんな反応を示すか分からないが、少なくともバエル達は賛成してくれるはずだ。


「わざわざ集まってもらって悪かったな」

「ワルいとオモっているなラ、アツメルな」


 俺の言葉にすぐ反応したのはゴブリンソルジャー。

 未だに反抗的な態度ではあるが、声量はかなり小さく俺にギリ聞こえる程度のもの。

 前回やられたことをやはり引きずっているらしい。


「大事な話があるから集めたんだよ。まずは一つ聞きたいんだが……三匹は今の現状にどんなことを感じている?」

「ドンなこト? ベツにナンとモおもっテなイ。アツめラれたのガむかツクってダケだ」

「何も思っていないか。ホブゴブリンはどうだ?」

「私は満足していませんね。もっと簡単に食料を集められるようにして、少しでも現状を良くしたいと思っていますよ」

「私も満足はできていません。私達の班は家畜や植物を育てていますし、ホブゴブリンさんと同じように良くしようと努力しています」


 一匹だけ何とも思っていないという回答をしたことに、少し恥ずかしさを覚えたのか目が泳いでいるゴブリンソルジャー。

 趣旨とはズレてしまうが、やはりゴブリンソルジャーは俺の中で結構お気に入りかもしれない。


「なるほど。ちなみにだが俺も現状に満足していない。ゴブリンソルジャーだけは現状に満足しているってことだが、どういったところが満足か言えるか?」

「ドうイッタ……? オ、オレも、ホンとうはマンゾクしてイナい!」

「それじゃ全員が満足していないってことでいいのか。俺も現状には満足しておらず、リーダーとなったからには変えようと思っている。何か異論がある者はいるか?」


 三匹は同時に首を横に振り、異論がないことを示してきた。

 ゴブリンソルジャーだけは話についてこられていないようだが、本題に入れば嫌でも理解することになるだろう。


「異論は一切ないのですが、具体的にどうするつもりですか?」

「それを今から伝える。俺は――オーガに下克上を仕掛けるつもりだ」


 俺がそう言った瞬間、場の空気が一気に凍った。

 ホブゴブリンとゴブリン希少種は馬鹿を見るような目に変わり、ゴブリンソルジャーだけが前のめりになった気がする。


「オーガを倒すということですよね? ……ありえません。流石に無謀すぎます。冗談だとしても面白くありません」

「ゴブリン希少種と全くの同意見です。自分で名前を名乗るだけあって、流石はぶっ飛んでますね」

「別に冗談を言ったつもりはない。本気でオーガを倒して、この奴隷のような生活から脱却しようと思っている。……ゴブリンソルジャーはどう思っているんだ?」


 先ほどとは違い、一人だけ目を輝かせていたゴブリンソルジャーに話を振る。

 バエル達は予想していた通り、俺を信じて頷いてくれているからな。

 ゴブリンソルジャーだけでも味方につけることができれば大きい。


「オレもフザけているとオモ……いや、オモシろそウだかラありだ! オーガのヤロウどもニはムカつイていたシ、いつカヤッツケてやりタいとオモってタからナ!」

「一匹でもそう言ってくれて良かった。二匹はこれからもオーガの奴隷として生きていくのか?」

「私は無謀なことをしたくないだけですよ。無駄に命を失うのは御免ですからね」

「ちなみにだが、俺は勝算があってこの提案をしている。ゴブリン希少種は知っているだろ? 俺達はコボルトキングを楽々倒した」

「確かにコボルトキングは倒していますが……直接実力を見せてもらってもいいですか? 私かホブゴブリンさんと一戦交えてください」

「もちろん構わない。俺達五匹から自由に選んでくれていい。全員が二人に勝つことが可能だからな」

「随分と強くできましたね。なら私は……そちらの通常種のゴブリンと相手させてもらいますよ」


 意地悪そうにニヤリと笑ってから、ニコを指名したホブゴブリン。

 俺を除く四匹の中では一番ハズレくじを引いた訳だが、そのことにまだ気づいていない。


「なら私はそちらのゴブリンさんと一戦交えさせてもらいます」


 ゴブリン希少種が指名したのはバエル。

 ニコと同等の強さを持つバエルを選んでくれた。


 イチは圧倒的に体が大きいし、サブは弓を装備していることから選びづらい。

 正直この二匹を選ばれると少しだけ不安ではあったのだが、バエルとニコなら何の心配もいらないな。


「どうする? ゴブリンソルジャーも一戦交えるか?」

「やるワケないダろ! タタかっテもカテないからナ!」


 口調は強いが、驚くほどに弱気な発言。

 改めて俺が試合しても良かったのだが、賛成してくれている上にやらないと言っているから今回は見学だな。

 ホブゴブリンvsニコ、ゴブリン希少種vsバエルの試合を大人しく観戦するとしよう。

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