第44話 ジャンケン


 イノシシを見るなり、バエルとイチが同時に手を上げた。

 俺も立候補したい気持ちはあったが、流石にここは二人に譲っていいだろう。


 ちなみにサブは高見の見物に入っており、俺達が手をこまねいている間に狩った三羽の鳥の横で足を伸ばして座っている。

 余裕そうな態度が少々腹立つが、結果を出しているため何も言えない。


「俺も行きたいところだが、二人のどちらかが行った方がいいか」

「僕に任せてください! 一人で狩ってきます!」

「いや、オレがいキます! マカせてくださイ!」


 二人とも譲る気がないようで、手を高く上げながら迫って来た。

 積極的になってくれたのはいいが、獲物を狙って奪い合いにまで発展するとそれはそれで面倒くさい。

 適当にジャンケンで決めさせるとしよう。


「俺はどっちでもいいから、ジャンケンで決めろ。ジャンケンのルールは教えてあるよな?」

「はい! グーとチョキとパーを出すだけですよね? イチ、勝負だ」

「ノゾむとこロ! オレがイノシシとタタかう!」


 二人とも気合いを入れ、掛け声と共にジャンケンを始めた。

 互いの気合いの入れようとは打って変わり、勝負は一発で決まった。


「ヨシッ! オレのカチでまちがイないナ!」

「く、ぐぬぬ。ジャンケンの練習をしておくべきでした」

「運のゲームだからジャンケンに練習はいらないぞ。それじゃイチがイノシシを狩ってくれ」

「マカせてくだサい!」

 

 イチは力強く胸を叩くと、盾を構えたままイノシシの下へと向かって行った。

 どう狩るのかが見物だが、イノシシもゴブリンだと甘くみて逃げていないことから、真正面から戦う感じになりそうだな。


 イチが隠れる様子もなく堂々と向かって行ったことで、すぐにイチの存在に気付いたイノシシ。

 前足で土を蹴りながら、近づいてくるイチに狙いを定めると――猛スピードで突進してきた。


 低い位置からの突き上げるような突進。

 以前までのイチなら、俺が危なすぎて割り込んで助けていたところだが、今のイチなら気負わずに見ることができる。


 盾で上から押さえつけるようにイノシシの突進を楽々受け止めると、脇腹目掛けて蹴りを放った。

 八十キロ以上あるイノシシの体は宙を浮き、そのまま地面を転がっていった。


 動きに鈍さはあるものの、やはり単純なパワーがついている。

 正直イチに関しては、オーガと比べても遜色のない体格をしており、広場で見かけた目をつけていたゴブリン達よりも力を持っている気さえする。

 

 俺が殴ったゴブリンソルジャーも同じように人間を喰ったゴブリンだと思うのだが、明らかに俺達の方が成長の幅が大きいよな。

 何に原因があるのかは見当もついていないが、ここまで一気に力がついたことは素直に喜ばしい。


「ヨシっ、もうウゴけないダロ! あとはシるヴァさんにマカセていいですカ?」

「ああ。放血と解体は俺がやる」


 イチの強烈な蹴りをモロに食らい、動けなくなっているイノシシの下に向かって解体作業を行う。

 一発KOは予想していなかっただけに、ここは素直に褒めてあげよう。


「ここまで簡単に狩るとは本当に成長したな」

「ぜんぶシるヴァさんのオカゲです! オレはシるヴァさんがタオしたニンゲンをタベただけですカら!」

「罠の制作やトドメを刺したのはイチだろ。それに力をつけてからどうするかが重要だ。慢心をして怠け、俺をガッカリさせないでくれよ」

「マカセてくださイ! まだまだツヨくなりまス!」


 イチの意気込みを聞いている間に、あっさりとイノシシの解体作業が終わった。

 何頭も狩って慣れたというのもあるが、力がついたことで今までの何倍も楽に捌くことができたのが大きい。


 木に吊るす作業も本当に大変だったが、今は労することなく簡単に八十キロあるイノシシを持ち上げることができたからな。

 皮を剥いだりは巣に戻ってからやるとして、鳥を計四羽にイノシシを一頭。


 半日ほどの狩りで、これだけの成果をあげることができたのは嬉しいな。

 俺とバエルは消化不良感は否めないが、これ以上狩っても処理し切れない。


 まさかこんなに変化があると思っていなかっただけに、危険を冒してでも冒険者と戦ったのは大正解だったと言える。

 これでオーガへの献上する食料については一切考えなくてよくなり、明日からはニコを連れてニコの強化に励んで良さそうだ。


 強い魔物を狙い、俺自身の強化に当てたい気持ちももちろんあるが、流石に一匹だけ通常のゴブリンのままというのは可哀想。

 それに俺が長いこと眠っていたせいで、オーガの納品をする日が迫ってきている。


 納品する食料は集まっているものの処理などを行わくてはいけないし、俺が俺自身のために魔物を狩るのは次の納品日後からでいいだろう。

 そんなこれからのことを考えつつ、俺達は狩った獲物を持って巣へと戻ったのだった。


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