第36話 死闘の末


 おっさん戦士との戦闘が開始され、約四十分くらいが経過しただろうか。

 全身から汗が滴り落ちていてヘトヘトの状態だが、ここまで一発も攻撃を受けることなく一方的に攻撃を与えることができている。


 対するおっさん戦士はというと、まだ致命傷となる傷は与えてられていないものの、顔はバエルのパチンコによる投石によって何カ所か腫れており、白銀のフルプレートは隙間から漏れ出た血液で赤く染まっている。

 短剣に【毒液】を付着させていることもあり、動きは完全に鈍りきっていて動きを止めるのもあと少しという状態。


 ただ……もう動きが止まると思ってから、十分は既に経過していて、生の執着心からか異様な粘りを見せている。

 日は既に落ち切ってしまい、辺りは刻々と暗くなり始めているため、早いところくたばってほしいのだが、ボロボロの状態でもまだ立っているおっさん戦士。


 完全に有利な状態で焦ってはいけないことは分かっているが、ボロボロの姿を見ているともうトドメを刺せると思ってしまう。

 暗くなったら獣の魔物が動き出すし、無駄なリスクを避けるためにもこのタイミングで仕留めるしかない。


 覚悟を決めた俺は、辛うじて立っているおっさん戦士を仕留めることに決めた。

 俺が狙うは目。

 

 片目でも潰すことができれば、パチンコによる投石での攻撃がほぼ当たるようになる。

 そうなれば、俺とバエルとで遠距離から撃ち込むだけで殺すことができるようになるため、なんとか短剣を目に付き刺したい。


 呼吸を整えてから、俺は姿勢を低くして懐に飛び込でいく。

 これまでと同じようにフルプレートの隙間を突き刺すと見せかけ、意識を下に持っていったところで、【跳躍力強化】の能力を発動。


 上に飛び上がりながら、おっさん戦士の右目に短剣を突き立てた。

 防がれることも躱されることもなく、深々と右目に短剣が突き刺さり、後は距離を取るだけなのだが――。


「やっと痺れを切らしたなァ!」


 おっさん戦士は右目を潰されながらも、大きく口を開けて笑いながら、突き刺した短剣を握っていた俺の左腕を掴んできた。

 力は弱り切っているとは思えないほどに強く、腕の骨が折れるのではと思うぐらいの力で握られている。


 振りほどくのは不可能であり、スライムから得た【粘液】も使って剥がしかかったが、爪が肉に食い込んで振りほどくことはできなかった。

 そして次の瞬間――強烈な衝撃が顔面を襲う。


 腕を握られながら、反対の手でぶん殴られたのだろう。

 今の一発で鼻は完全に潰れ、前歯も何本か吹っ飛んだのが分かる。


 意識も飛びそうになるが、ここでも思い出すのは勇者の顔。

 爆発的な怒りで意識を保ったと同時に、一つの覚悟を決めた。


「左腕はくれてやる。ありがたく受け取れ。……その代わり、お前の体は喰わせてもらうッ!」


 笑っているおっさん戦士に対抗するように、俺も血だらけの顔で満面の笑みを浮かべ――【爆発】のスキルを発動。

 掴まれていた左腕ごと爆発させると同時に、強烈な痛みが左腕を襲った。


 いきなり腕ごと爆発したことで、流石に掴まれていた手が離れて左腕は自由になったが……。

 自分の腕の肉が焼け焦げた臭いが鼻を衝き、一瞬吐き気が込み上げてきたが呑みこみ、黒焦げとなっている左腕でおっさん戦士の喉元を掴む。

 

「前世も含めて一番の死闘だった。安らかに眠って――俺の糧となってくれ」

「……や、やめ、ろ」


 おっさん戦士の声を聞き入れることなく、俺はもう一度左手を【爆発】させた。

 二度目の爆発により、痛すぎて痛みが分からなくなっている状態だが、無事におっさん戦士の喉を俺の左手と共に焼き切った。

 

 残っている片目は白目を向いており、手先はピクピクと痙攣している状態。

 まだ生きているとは思うが、気道が熱傷しているため呼吸ができずにその内死ぬだろう。


 放置していてもいいのだが、念のため右目に突き刺さっている短剣を引き抜き、心臓を突き刺してトドメを刺しておく。

 顔面は拳で叩き潰され、左腕はもう一切動かせないほどの重症を負ってしまったが、何とかフルプレートのおっさん戦士を仕留めることができた。


「シるヴァさん! ダイジョウブです……か?」

「ああ、なんとか生きてはいる。完全に暗くなってしまう前に、この二人の死体を運ぶとしよう」

「シるヴァさんはウゴかないでください! イチたちをヨンデきます!」

「いや、俺は大丈夫だから早く運ぼう」


 バエルにそう提案したのだが、俺の言うことを一切聞かずに一人で戻って行ってしまった。

 夜になりかけているこんなところで放置される方が危険だと思うのだが、俺にはバエルを止める力は残されていない。


 戦闘が終わった直後はまだ力が残っていると思っていたが、数秒単位で体が重くなり始め、強烈な眠気に襲われてくる。

 ここで寝たら死ぬ、ここで寝たら死ぬ。


 自分にそう言い聞かせながら、寝ないために俺はおっさん戦士をこの場で喰うことに決めた。

 もはや頭は一切回っておらず、『喰う』ということだけを考えながら、俺はほぼ無心でおっさん戦士の死体に喰らいついたのだった。




―――――――――――――――――――

お読み頂きありがとうございました。

第36話 死闘の末にて第一章が完結致しました!

ここまで少しでも面白いと思って頂けたのであれば、ブクマ、☆☆☆によるレビューを頂けたら幸いです!

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