第25話 アイアンランクの魔物


 洞窟に向かうまでの間に、俺達はスイートアピスとも戦闘を行った。

 さっきと同じようにわざと危険な状況に追い込まれ、バエルを試すように立ち回ったのだが……結果はさっきと全く一緒。


 小さいスイートアピスに対しても外すことはなく、完璧にパチンコを命中させたバエル。

 威力も精度も申し分なく、単純に狙撃の才能があるように思える。


 魔物の本能に関しては正直よく分からない。

 バエルが俺に勝っている部分は身長だけな訳で、俺よりは大きいというだけでゴブリンの中では低い方。


 そんなバエルが格上と認識される訳がないし、魔物の本能が機能していないと見るのが正しいかもしれない。

 それか……意識的な問題の可能性もある。


 格上なのか格下なのかを自分がどう思っているかで、攻撃できるかどうかの有無が変わる。

 互いに格下だと思い合っていれば、普通に戦闘に発展することもある。

 そう考えればバエルが攻撃できて、スイートアピスも俺を攻撃できた理由に説明がつく。

 

 まぁ実際の理由については分からないが、バエルが問題なく攻撃できるという事実は俺にとって非常に好都合。

 洞窟にも安心して連れていけるし、何かあった時はバエルがサポートしてくれるはずだ。


「ここが今日の目的地の洞窟だ」

「このナカにハイるんですネ。まっくらでスコシこわいデス」

「バエルは俺の後ろで松明を持ってくれるだけでいい」

「イシをうてナクなりますがイイんですカ?」

「大丈夫だ。いざとなったときは俺が守る」

「ワカりましタ! ボクはあかりをトモします!」


 バエルに松明を託すことで、両手が空いた状態で洞窟攻略に挑める。

 近くにフレイムセンチピードがいることを頭に叩き込んでから、俺は泉近くの洞窟に足を踏み入れた。


 中は相変わらずジメッとしていて真っ暗。

 バエルが松明を持ってくれているため、中は多少明るくなっているが十メートル先は何も見えない状態。


 この間と何ら変わらない羽音が不気味に響き渡っており、この音の正体がパラサイトフライということを俺は知っている。

 そして気をつけなければならないのは、以前襲われたブラッドセンチピード。


 今日は狩るつもりで来ているため、襲われたら逃げずに狩るつもり。

 まぁ流石に向こうが有利な洞窟内では戦わないけどな。


 羽音で大まかな位置が分かるパラサイトフライはあまり気にせず、分かりやすい音もなく近づいてくるブラッドセンチピードの索敵に注力していると――横から何かが飛んできた。

 警戒していたため攻撃を食らうことはなく、俺は何かからの攻撃を避けることに成功。


 すぐに目を凝らして飛んできた何かを見てみると、体長一メートルほどの黒いトカゲのような魔物。

 細長い舌をベロベロとさせていて、鋭い爪は濡れている。 


 これまた見たことがある魔物であり、ポイズンリザードという爪に猛毒を持つトカゲの魔物だ。

 ブラッドセンチピードを狙っていたが、ポイズンリザードでもいいどころか、味も期待できるし当たりの敵だろう。


 強さはアイアンランクであり、ブラッドセンチピードと同じ。

 爪の毒は危険だが、動きは鈍く戦いやすい部類の敵だな。


 ブラッドセンチピードよりも勝機が高いため、ポイズンリザードが現れてくれたのはツイている。

 さてここからどう戦うかだが、やはり一度洞窟の外に誘き出した方が戦いやすい。


 パラサイトフライのみを相手にするのであれば、洞窟内で戦った方が多方向から攻められることがなく戦いやすいんだがな。

 ただ、毒で濡れた爪での攻撃を食らってしまったら死もあり得る相手なため、そんな悠長なことは言っていられない。


 俺の後ろに控えていたバエルに下がるよう指示を出し、ポイズンリザードが釣られる速度で洞窟の外に向かう。

 同時に羽音も聞こえており、俺のことを感知したパラサイトフライも一緒に追いかけてきている様子。


 できればポイズンリザードとの一対一を行いたかったが、流石にそう上手くはいかない。

 今回は遠くへは逃げずに、洞窟の前で戦闘を行うことに決めた。


「バエルは飛んでいる魔物を狙ってほしい。全てを打ち落そうとは考えなくていいからな」

「ワカりましタ! マカせてくだサい!」


 松明を置き、パチンコを構えたバエル。

 先にパラサイトフライをバエルと一緒に倒し、ポイズンリザードとの一対一に持ち込みたい。

 洞窟から追いかけてきた魔物を見て、血が滾るのが分かった。


 確実に倒せる敵であり、新たに会得した能力もある。

 実戦で試すということが、これだけワクワクしたのは冒険者をやっていた時ですらなかった。


 後ろでバエルが見ているし、やられたふりとはいえ殺気は情けない姿を見せているため、ここは全力で戦うとしよう。

 まず洞窟から出てきたのは、十数匹に及ぶパラサイトフライ。


 ポイズンリザードの方が先行していたはずだが、途中でパラサイトフライが前に出たのだろう。

 元々パラサイトフライから倒す予定だったため、立ち位置が入れ替わったのは好都合。


 ポイズンリザードは毒持っているため、確か毒に対する抗体を持っていたはず。

 そのためスイートアピスから得た毒針が効かないことから、パラサイトフライ相手に惜しみなく使う。


 両手の人差し指に生やした毒針をパラサイトフライに向け、親指で標準を合わせ――撃ち込む。

 高速で飛んで行った毒針は二匹のパラサイトフライに命中。


 威力自体はそこまでではなかったようで、しばらくの間は何事もなさそうに飛行していたのだが……。

 ある一定の距離を進んだところで、急にふらふらとし始めた。

 

 刺さった毒針によって毒が回り始めたようで、ふらふらとし出してからはすぐに地面に落ち、そして足をピクつかせながら動かなくなった。

 非常に小さな魔物で戦闘能力が皆無ながらも、この強烈な毒針だけでアイアンランクに指定されることだけはある威力。


 このまま全てのパラサイトフライを毒針で打ち落したいところだが、毒針を生やすと大幅に体力を消耗するため連射はできない。

 いつか体力をつけた時は毒針の雨を降らしたいところだが、今は身の丈にあった戦い方をする。


 腰に差していた短剣を抜き、倒れた二匹の仲間を気にする素振りもなく突っ込んでくるパラサイトフライを冷静に狙う。

 攻撃を行う際の動きが直線的になることを知っているため、俺はギリギリまで引き付けてから柔らかい腹部を狙って斬った。


 体液を飛び出させながら、倒れたパラサイトフライ。

 ちゃんと死んだかどうかの確認までしたいところだが、次なるパラサイトフライが迫ってきているため、再び構え直して同じ要領で斬っていく。


 連続して四匹のパラサイトフライを斬ったところで、前回と同じように後ろにいたパラサイトフライは蜘蛛の子を散らすように逃げだした。

 もっと連続して襲ってくるかと予想していたが、バエルの射撃も相俟って勝てないと判断したのだろう。


 バエルの方は一匹も打ち落とせはしなかったが、隊列を乱してくれたし十分すぎる働き。

 ただ、大群で襲われるというのは流石に焦る要因だったようで、命中率は三割ぐらいまで落ちていたように見える。

 外したことを気にしてそうだし、慰めてあげたいところだが……パラサイトフライが逃げると同時に、洞窟の中からポイズンリザードがノソノソと歩いて出てきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る