第19話 洞窟の魔物
虫型の魔物が多く生息するのは、洞窟っぽくなっている暗くてジメッとした場所。
ゴミを探しに入口付近を捜索した時は見なかったため、今回は森の奥を目指そうか。
森の奥は危険な魔物が増えてくるため、くれぐれも会敵しないよう慎重な行動を心掛ける。
巣に戻って準備を整え、俺は森の奥を目指して歩を進めた。
巣の付近は平和なため鳥のさえずりや木々が擦れる音が聞こえる平和な場所だが、少しでも離れると一気に雰囲気が変わる。
あちらこちらから獣の唸り声のようなものや、何かが何かにぶつかったような激しい衝突音のようなものが聞こえてくる。
人間の時は多少は周囲の気配を感じ取れていたが、ゴブリンになってからは何も感じ取れなくなったのが非常に痛い。
五感でしか敵を感知する術がなく、今一番欲しい能力は何かと問われたら間違いなく索敵能力だ。
神経をすり減らしながら、音を聞き分けて何者とも接触しないように森を進むこと約三時間。
慎重に慎重を重ねて歩いているお陰で、今のところは一度も会敵はしていないのだが、体から滝のように流れる汗から分かるように疲労は半端ではない。
本当に様々な生物が跋扈しているようで、入口付近を歩くよりも何倍も神経を使う。
そろそろ引き返す選択が頭を過り始めた時、正面に比較的大きな泉が見え――その奥に自然にできた洞窟を発見した。
泉が近くあるからか湿った感じの洞窟で、あの洞窟なら虫型の魔物が巣にしている可能性が非常に高い。
挟み撃ちになるようなことがないよう、入口付近を入念に確認してから俺は洞窟の中に足を踏み入れた。
中は真っ暗で印象通り、かなり湿気の高い洞窟。
どれくらいの広さかまでは分からないが地下に続いている地下洞のようで、思っていたよりも広いかもしれない。
持参してきた松明に火をつけ、その灯りを頼りに洞窟の奥に進んで行く。
松明を使っているというのに見える範囲は非常に狭く、奥から無数の羽音だけが聞こえてくるためめちゃくちゃに怖い。
ここからの動きとしては、洞窟内では決して戦闘は行わずに虫型の魔物を誘き出すことを考える。
全力で洞窟の外まで逃げた俺を追ってきた魔物がいたら、その時に初めて戦うつもりだ。
帰り道をしっかりと確認しながら一歩ずつ奥に進んで行くと、とある地点に踏み込んだ瞬間にあちこちから聞こえていた羽音が急に消えた。
俺は未だに羽音の正体を確認できていないが、この急な音の変化に全身が鳥肌が立つのが分かる。
何も見えていなければ感じ取れていない状態だが、俺の勘が全力で逃げろと叫んだため――松明を洞窟の奥にぶん投げてから、入念に確認した帰り道の記憶と外の明かりを頼りに全力で走り出す。
そして俺が走り出したと同時に、俺の背後から一切に何かが追いかけてきた。
向こうからは明かりが見えたため、俺の存在を先に感知したのだろう。
迫り来る羽音を耳で感じ取りながら、コボルトから得た【四足歩行】を駆使して洞窟の外に飛び出た。
そのまま来た道を全力で戻ながら、ここでようやく振り返って追ってきた羽音の正体を確認する。
真っ赤な目に、無数の毛が生えた黒い体。
顎をガジガジと噛みながら向かってきているのは、蝙蝠くらいの大きさの蠅の魔物である――パラサイトフライ。
その名の通り、魔物に寄生して数を増やす魔物で、魔物自体で考えるなら決して強くはないが、その気持ち悪さから冒険者だったころは避けていた。
今は幼体の時に蛆を食って生き長らえた経験もあって嫌悪感はほぼないが、それでも気持ち悪いと思えるほど不気味な姿。
数も数十匹は俺を追ってきており、更にパラサイトフライだけでなく地を這うように一匹の魔物が地上から俺を追ってきている。
これまた黒光りした光沢のある体で、真っ赤な頭からは二メートルほどの長い触覚が蠢いている。
それよりも特徴的なのは無数にある足で、パラサイトフライよりも凶悪な顎を兼ね備えているこの魔物は――ブラッドセンチピード。
三メートルくらいの長さのムカデの魔物。
血を吸って捕食するのが特徴的であり、冒険者だった頃でも倒すのはギリギリだったぐらいの強さの魔物。
パラサイトフライはルーキー級で、ブラッドセンチピードはアイアン級。
パラサイトフライならまだしも、ブラッドセンチピードは今の俺が倒せる魔物ではないため全力で逃げる。
上手いこと弱い魔物だけ誘き出せるとは思ってなかったが、夜行性であるはずのブラッドセンチピードが洞窟の入口付近にいるとは運が悪い。
高低差を駆使しながら、とにかくブラッドセンチピードを撒くことだけを考える。
飛行しながら俺を追ってきているパラサイトフライとは距離を詰められているが、急に高くなる場所で足が止まるブラッドセンチピードとは距離を取ることができており、距離が開いた瞬間を狙って木々の間を蛇行したことで撒くことに成功。
背後にピッタリとパラサイトフライがついてきているが、囲まれない場所で戦うことができれば何とかなるはず。
……というよりも、パラサイトフライも魔物のため、上位種には手出しできないという本能があるはず。
それでも追ってきているということは、単体では弱いと思っていたパラサイトフライよりも俺は序列が下ということか。
まぁ追ってこずに逃げられていたら倒す術はない訳だし、軽くショックではあるが良い事だと思うことにしよう。
気持ちを切り替え、俺は帰るための目印として大きな樹まで全力で逃げた。
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