第137話 NPC、幼女に出会う

「うっ……ありがとうございます」

「もう一生目が見えないのかと思いました」


 目の治療をするとすごく喜ばれた。


 緑のやつと犬はどうやらゴブリンとコボルトらしい。


 まさか魔物が目の前で土下座をするとは思いもしなかった。


 それよりも魔物の中でも話す個体がいることに驚いた。


 キシャは鳴き声しか発しないが、何か違いがあるのだろう。


 あいつも話せるようになると、意図が伝わりやすいのにな。


「ちゃちく、これもってかえりゅのいい?」


 一方、ヴァイルはスライムとラットンが気に入ったのだろう。


 頭にスライムを乗せて、ラットンを抱きかかえている。


「魔物は町の中には入れられないから、置いて行きなさい」


 それに残されたゴブリンとコボルトが俺のことをキラキラした目で見つめてくる。


 きっとヴァイルが連れて行くなら、俺もゴブリンとコボルトを連れていけということだろう。


 そんなに魔物を従わせる予定もないしな。


 今はキシャだけで十分だ。


【おい、お前ら何をサボっている!】


 突然、声が聞こえてきた。


 俺は構えてすぐに幽霊であるレイスを倒す準備をする。


 だが、反応しているのは俺だけだった。


 みんなは怖くないのだろうか。


 いや、俺も怖いわけではないからな?


「マスターが怒っているな」

「あいつめんどくさいからな」


「幽霊のことを知ってるのか?」


 ゴブリンとコボルトは首を傾げていた。


「「幽霊?」」


「今さっきの声のやつだ」


 俺は上に向けて指をさすと頷いていた。


 どうやら幽霊の居場所を知っているらしい。


 これで幽霊の退治ができそうだな。


 そもそもなぜ幽霊退治に来たのかも覚えていない。


 ヴァイルが洞窟に行きたいと言っていたが、幽霊を退治しなくても良いんじゃないのか。


 少し遊べたから帰った方が良さそうな気がする。


 時間は無限ではないからな。


 決して幽霊が怖いわけではない。


【お前達今すぐに集合だ!】


「はぁー、めんどくさいなー」

「一緒に来ませんか? いや、来ますよね? どこにいるか聞いてきたぐらいですもんね?」


 面倒ごとに巻き込まれる前に帰ろうとしたら、ゴブリンとコボルトは俺の服を掴んでいた。


 まるで帰さないようにしているようだ。


「ちゃちく、いくよー」


 どうしようか迷っていると、すでにヴァイルはスライム達と奥に歩いていた。


 さすがに弟一人では残しておけないからな。


「付いていけばいいのか?」


「いいんですか?」

「これで面倒ごとが減る――」


 俺はゴブリンの目を押さえて、聖職者スキルを発動させた。


 ちょっとこのコボルトには躾が必要そうだと、俺の社畜の勘が言っている。


「ぐわあああああ! また目がやられだぞ!」


 そして、何事もなかったかのようにすぐに回復する。


 聖職者って思ったよりも残酷な職業だよな。


「じゃあ、行くか」


 俺はヴァイルを追いかけるように、一緒について行くことにした。


「おい、なんかあいつやばくないか? マスターよりやばい気がするぞ?」

「いやいや、それよりもオレ様病気か? さっきから目がすぐチカチカする」

「お前はまず勉強した方が良いじゃないのか?」

「ゴブリンに言われたくないぞ!」

「絶対あいつの――」


「お前達早くしろよー!」


 道を教えてくれるあいつらが遅いと、俺が幽霊のところまで辿り着けるかわからないからな。


 少しでも聖職者スキルをチラつかせるとすぐに走ってきた。


 むしろ辿り着けない方がちょうどよかったのか……。



「ここにあいつがいるのか……」


「「はい!」」


 ゴブリンとコボルトに道案内をさせると、大きな扉の前に立っていた。


 とうとうここまできてしまったのか。


 禍々しい雰囲気を外にいても感じるほどだ。


「お前達開けないのか?」


 なぜかお互いに扉を開けずにチラチラと見つめ合っている。


 まるでどちらが開けるかを押し付けているような気がする。


 俺は聖職者スキルを――。


 発動させる前にすぐに気づいたのか、ゴブリンとコボルトが一緒に扉を開けた。


 いや、別に躾をするつもりで開けろとは言っていないからな。


 まだ幽霊に会う心の準備すらできていないぞ……。


「お前らはなにをやってるんだああああ!」


 そんな俺の気持ちを無視するかのように、幽霊は飛び出してきた。


 ヴァイルやルーよりも少し大きい幼女が現れた。


「ゆう……れい……?」


 ただ、右手には鞭を持っていた。


 明らかに関わってはいけない人のような気がする。


 しかし、社畜の勘が仲良くできそうな気がすると言っている。


「早く敵を倒さないでどうする! 強さを誇示させないと友達ができないではないか!」


 ああ、幽霊から少し社畜バイトニストの魂を感じるぞ。


 ゴブリンとコボルトはサッと俺の後ろに隠れて、前に押し出そうとしている。


 また躾が必要なようだな。


 それよりも目の前にいる変わったやつをどうにかしないといけないだろう。


 まさか幽霊がパンツが見えそうな際どいセーラー服に鞭を持った幼女だとは思いもしなかった。


 ヴァイルにはまだ刺激が強いからな。


 すぐにヴァイルに駆け寄り目を隠す。


「おい、どこにいくんだ!」

「オレ様にまたピカッと――」


 俺は聖職者スキルを力一杯発動させた。


「「「ギィヤアアアアアアアアアア!」」」


 部屋だけではなく、洞窟の中でも苦痛な悲鳴が響いていた。

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