第124話 NPC、魔法を教える

 冒険者ギルドで訓練をした俺達はすぐに店に戻っていく。


「あんなに動いていたのに疲れないって違和感があるな」


「ヴァイトさんはすごいですからね!」


「ルーはたのしかったよ!」


 あれから走り込みと回復スキルのループにアランは戸惑っていた。


 疲れたタイミングで回復するから、いくらでも動ける気がするもんな。


 一方、ベンは特に気にしていないし、ルーはすぐに馴染んでいた。


 子どもの適応能力って高いって言うからな。


 ちなみに三兄弟の中で一番逃げ足が早かったのはルーだった。


 ヴァイルと同じように動きが細やかでトリッキーな動きをする。


 本人は遊んでいるつもりなんだろうが、アランとベンは驚いていた。


 そして訓練が終わった時にルーは駄々をこねていた。


 ヴァイルが営業後に遊ぶ約束をしたから落ち着いたが、その辺はまだまだ小さな子どもだね。


 弟はやっぱり心優しい子だ。


「戻りました」


「おう! 朝飯も食べずに頑張ってきたな」


 店に着くとテーブルにはいっぱい朝食の準備がしてあった。


 帰ってくるのを待っていたのだろう。


「食べたらすぐに準備するからな」

「たくさん食えよ!」


 山のように置かれた朝食に三兄弟のお腹が鳴っている。


 いや、それは俺とヴァイルも変わらないか。


「あさからたくさんだね!」

「ちゃちく、はやく!」


 急いで席に座り朝食を食べていく。


 アランに食事事情を聞くと、今まで1日1食を目安に食べていたらしい。


 依頼によっては報酬がなく、何も食べられずに過ごす日もあったと。


 ベンとルーの姿を見ると心苦しくなるが、それはアランが一番思っていることだ。


「仕事内容に合わせて次は魔石を使えるようになってもらうからな」


「ん? そんなことができるのか?」


「僕も魔力はないと思いますよ」


「びょくもー!」


「こら! 食べながら話さないの!」


 ルーは口元からご飯粒が飛んでいた。


 それだけおいしいご飯に夢中になっているのだろう。


 ヴァイルが布でルーの口元を拭いていた。


「ありがと!」


「うん!」


 本当に良い友達ができてよかったね。


「魔力を感じることができればいけると思う。魔法はそのあとだから……」


 魔法という言葉に三人は目を輝かせていた。


 そういえば、魔力を感じたり増やすのは精神統一をするしかなかった。


 ただ、魔法が発動できないと魔力があるのかもわかりづらい。


 それを魔石を使って魔力の使い方を学べば時間短縮にもなりそうだな。


「それって俺達にもできるのか?」

「火力調整とか中華には大事だからな」


 料理人達も興味津々のようだ。


 基本的に職業は一つのことが多い。


 ただ、エリックみたいに二つ得ることは可能性としてはなくはないだろう。


 そこに才能があるかどうかにもよりそうだしな。


「一度やってみましょうか」


 その言葉に食べる速度が増していく。


 すぐに朝食を腹の中に入れて、洗い場まで皿を片付ければ準備は完了だ。


 あとでユーマが来るから、その時に洗わせるつもりなんだろう。


 いつもユーマだけ仕事が少ないもんな。


「一度手を握ってください」


 俺が手を差し出すと、一斉に手に触れた。


 左手に三兄弟、右手に店主達だ。


 みんなで顔を見合わせて、どうするか考えているようだ。


「おい、俺が一番だ」

「洋食にそこまで火力はいらないだろう!」

「和食も同じだろ!」

「やっぱりここは中華の俺だろ!」


 大人達の姿を見て三兄弟は呆然としていた。


「るーがさきでもいい?」


 そんな中、首を傾げてルーが俺に聞いてきた。


 一番小さな子どもに言われたら、大人達や兄達は断るわけにはいかないようだ。


 すぐに下がってその光景を見ている。


「じゃあ、ルーは手をここに置いて」


「うん!」


 俺の手に小さなルーの手が重ねられる。


 いつものように精神統一をしながら、魔力を手の方へ流していく。


「手がポカポカするね」


「それをお腹の方まで持っていけるからな?」


「んー、たべすぎたからむずかしい」


 やはり魔力をコントロールするのは難しいようだ。


 チェリーやヴァイルができたのは珍しいのだろうか。


 それとも社長バイトニストの適性が高かったのか?


 ただ、ルーは足をソワソワとさせていた。


「どうしたんだ?」


「ポカポカしておしっこしたくなってきた」


「行っておいで」


 ルーは急いでトイレに向かっていく。


 食べたばかりは消化しやすいからな。


 ひょっとしたら魔力で消化が促される……ことはさすがにないか。


 久しぶりに朝食を食べて、お腹がびっくりしたのだろう。


「次は僕でいいですか?」


 同じようにベンも繰り返していく。


「これをお腹にまで持っていって、グルグル回せば大丈夫ですか?」


 ベンは言われた通りに魔力を感知して操作し始めた。


 魔法の特性が高いのか、それともINTが高いのかわからない。


 ただ、魔力が何かコツを掴んだような気がする。


「魔石を持って魔力を流してみてくれ」


「わかりました」


 魔石を手渡すと、ゆっくりと魔力を魔法石に流していく。


 わずかに小さく輝きを放った。


 どうやらベンは魔法の適性が高いようだ。


 その後もアランや店主達で試してみるが、なぜかアランだけが感覚的に魔力を感知することができなかった。


 これも何かが関係しているのだろう。


 まだ、始めたばかりだから少しずつ変化を見ていけば変化は出てくるだろう。


「どうせ、俺はバカだから魔法が使えないさ。弟達のこともわかってなかったしな……」


 ただ、しばらくアランはぶつぶつと独り言を呟いていた。


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