第123話 NPC、怒られる
そのまま俺は冒険者ギルドにある別の部屋に連れて行かれた。
「それでお前は反省しているのか?」
「反省? それはちゃんと指導できなかったギルドマスターじゃなくてですか?」
「ぐっ……」
「そもそも冒険者ギルド内での争いは個人の判断に任せることになっている。戦意がないアランや冒険者ではないルーに手を出そうとしたことの方が問題のはずだ」
「それを言ったらお前は冒険者――」
きっと俺が冒険者ではないと思っているのだろう。
これでも冒険者ギルドと商業ギルドに所属しているからな。
俺は持っているカードを取り出す。
「見習いから卒業したばかりのEランクだって!? ウェイターではないのか?」
一応ランクは低いが冒険者に変わりない。
「
ギルドマスターは頭を抱えて考えているようだ。
「魔石を割るウェイターだと思ったのに、冒険者だったとは……。俺の面倒ごとが増えるじゃないか……」
小さな声でぶつぶつと呟いていた。
きっと低ランクで尚且つ、お店のウェイターに自分が手を焼いていた冒険者がやられたのが影響しているのだろう。
それだけここの冒険者は実力が足りないと感じた。
「ここの冒険者って弱いやつらばかりなのか?」
「ん? いや、ヴァイトが相手したやつらはCランクの冒険者だ。問題児でも実力はあるし、メキメキ力をつけていた段階だ」
「天狗の鼻を折り曲げたってやつか」
確かそんなような言葉があったはず。
「鼻を……折り曲げた!? あの短時間でそんなこともしていたのか」
どこか伝わっているような、伝わっていないのかわからない。
これで三兄弟が冒険者ギルド内で絡まれることはないだろう。
気にかける相手はできれば少ない方が良いからな。
その後もあまり暴れるなと、注意を受けて解放された。
ただ、やり過ぎない程度であれば冒険者を鍛えてほしいとも言っていた。
教職者への転職のためには、指導する必要があるからちょうど良さそうだ。
部屋から出ると視線が一気に集まってくる。
「あっ、ちゃちく!」
ヴァイルが俺に気づいて近寄ってくる。
その後ろには三兄弟が立っていた。
「ケガはないか?」
「ああ、助かった」
アランはどこか気まずいのか、頭を掻きながら笑っていた。
冒険者でも荷物持ちだったことが、家族だけではなく俺達にもバレたからな。
別にそれが恥ずかしいことではない。
だって――。
「荷物持ちに特化した職業ってあったりするのか?」
「あー、ポーターっていう魔物を回収する職業なら――」
俺はすぐにアランの手を握る。
まさかそんな職業が存在しているとは思わなかった。
「なぁ、俺にそれを教えてくれないか?」
「何言ってるんだ? ポーターなんて教えること――」
「俺も戦い方を教えるから良いだろ?」
これで俺にもポーターという新しい職業のデイリークエストが出現するかもしれない。
それを考えるとワクワクしてくる。
荷物持ちは結構していたが、運ぶ量が足りなかったのだろうか?
それとも速さか?
足の速さには自信があったのにな。
「ははは、気を使ってくれてありがとう」
どうやらいつものアランに戻ったようだ。
「こちらこそよろしく頼む」
「よろしくお願いします」
「おねがいします」
三兄弟は俺に向かって頭を下げた。
訓練に対してのやる気は十分あるようだ。
昼の営業まではまだまだ時間はある。
「早速訓練をするか」
「えっ? あんなことがあったのに今からか?」
「時間は無限じゃないからな」
アランに案内されて訓練場に向かう。
やはり誰も訓練をしている人はおらず、ガラリと空いている。
これなら場所の確保はできているから、なんでもできそうだな。
「とりあえず走るか!」
「えっ?」
「まずは効率重視で移動時間を短縮できないと何も始まらないからな」
指を鳴らして軽くその場でジャンプをする。
これで準備運動は完了だ。
「捕まったら一発殴るから頑張って走れよ」
床に向かって軽く拳を叩きつける。
――ドガーン!
思ったよりも大きな音が響いたようだ。
床に大きな穴が空いてしまった。
音に驚いてかギルドからも、人がゾロゾロと出てきた。
そこにはギルドマスターもいる。
様子を見に来たのだろう。
別に悪いことをするわけでもないため、軽く手を振っておいた。
呆れた顔をしているが、俺は
「にげりゅぞー!」
「きゃー!」
ヴァイルとルーは楽しそうに走っていく。
小さい子は追いかけっこが好きだからな。
もちろん二人にも手加減をすることはない。
「じゃあ、逃げろよ」
アランとベンもすぐに走り出す。
小さな訓練場と言っても体育館ぐらいの大きさは確保されている。
その場で20秒を数えるとすぐに追いかける。
まずは手始めに兄のアランからだな。
兄は弟達のお手本にならないといけない。
足に力を込めて一気に速度を上げる。
「逃げるって言ってもそんなにすぐには――」
土埃を巻き上げて、30メートル先のアランの元へ一瞬で駆け寄る。
「足を止めると捕まるぞ」
アランの足元に向かって拳を振り下ろす。
「うぇ!?」
アランはそのまま姿勢を崩して、その場に座り込んでいた。
追いかけっこは足を止めるとすぐに捕まってしまう。
ずっと逃げ続けながら、体力を温存するのがコツだ。
魔物はどんな動きをするかわからないからな。
それに息が苦しくて倒れそうになったタイミングで、回復スキルを使えば再び走ることができる。
これを繰り返せば、VITとAGIは自然と変化するだろう。
「まだいけるよな?」
「いや……」
俺はアランの肩を強く握る。
ミシミシと音が響き、アランの顔に苦痛の表情が浮かぶ。
「いけるだろ?」
「イエッサアアァァァ!」
アランは立ち上がると再び走り出した。
時折、他の三人を追いかけたりして有意義な朝の運動ができた。
ただ、周囲にいた冒険者達は引き攣った顔をして見つめていた。
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