第102話 NPC、感動して涙が止まらない

 早速町の中を歩いていくと、まだ見たことないお店をちらほらと見つけた。


「あそこは菓子屋にお茶屋か……」


「かち? おちゃ?」


「ああ、甘いものと飲み物だ……痛っ!?」


 ヴァイルは俺の髪を引っ張って、菓子屋の方に連れて行こうとする。


 だが、今はお昼ご飯を食べる方が先だろう。


「んっ……弁当屋もあるのか!?」


 この世界に来て弁当という概念がないと思っていたが、町によっては存在しているらしい。


 その中でも一際大きなレストランのような店を見つけた。


 中に入ると憧れていたあの世界が広がっていた。


「兄ちゃん、うちの中華料理はピカイチだぞ!」

「いやいや、俺の洋食の方がうまいに決まっている」

「何を言ってるんだ! 和食に決まってるだろ」


 まさかご飯が食べられなかった俺に神様がご褒美を与えてくれたのだろうか。


「フッ……フードコートがあるよ……」


 その場で地面に膝をついて泣き崩れてしまった。


「ちゃちく、よちよち!」


 そんな俺を慰めるように頭を撫でていた。


 感覚的に近いのはフードコートだが、内装でしっかり分けられているため、大きな箱に店が三つある感じだ。


 中華、洋食、和食の店が一つになっているって聞いただけで、店としてはパーフェクトだろう。


 あとはイタリアンや多国籍料理もあったら、さらに舞い上がっていた。


「和食なんて味がないだろ!」

「はぁん!? 中華が濃すぎるだけだ」

「ふっ、どっちもどっちだな」

「「品数が少ないお前に言われたくねーよ!」」


 店員同士の仲はあまり良くなさそう。


 だが、俺にとったらどこも同じだ。


「「「なぁ、兄ちゃんはどこで食べるんだ?」」」


「全部食べます!」


 だって今まで食べられなかったものが、一気に食べられるからな。


「「「はぁん!?」」」


 声が揃って返ってきた。


 結局、仲が良いのか悪いのかどっちなんだろう。


 これだけ楽しめる町なら定期的に通うのも良さそう。


 しばらくはこの町の滞在許可をバビットにもらっているからな。


「なら俺の店のオススメを持ってこよう」

「中華には負けないからな!」

「やっぱり一番は洋食だ!」


 三人とも厨房に戻るとすぐに準備を始めた。


「ちゃちく、どこにしゅわる?」


 中で店舗が区切られているため、どこに座ればいいのかわからない。


 それに昼過ぎではあるものの店内にあまり人がいないのは何か理由が……いや、きっとあの店主達が問題なんだろう。


 店に入った瞬間にあれだけ勧誘されたら、どこに入るのかも迷うし圧倒される気がする。


 とりあえず一番近くにあった和食のお店の席に座る。


「なあなあ、掘りごたつに座れるのもいいな」


 バビットの店はテーブルが当たり前だったが、和食のお店だからか掘りごたつになっていた。


 以前は車椅子に乗っていたから、掘りごたつに座ることもなかった。


 移乗も介助が必要だし、長時間座るのもバランスを崩して倒れてしまう。


 それだけ今の体に生まれ変わって恵まれているってことだな。


「あー、本当にこの世界って最高だよ」


 テーブルに顔を伏せ、手を大きく伸ばす。


 まるでテーブルに抱きついているみたいだが、こんなことができるとは思わなかったな。


 掘りごたつ最高!


「ちゃちく、おもちろいね」


 そんな俺を見て、ヴァイルは楽しそうに笑っていた。


「よし、できたぞ!」

「こっちもだ!」

「洋食はもう少し時間がかかるからな」

「「やっぱり洋食は一番ダメだな」」

「おい、聞こえてるぞ!」


 先に出てきたのは和食と中華のようだ。


「中華はこの店一番の代表料理、麻婆豆腐だ」

「和食と言ったらこれだろ? 握り寿司だ」


 あまりにもキラキラと輝いている料理に再び俺の涙腺は爆発していた。


 もう食べられないと思っていた料理が目の前にあるからな。


「待たせたな! 洋食からはハンバーグだ!」


「あっ! オラのしゅきなやちゅ!」


 そういえば、ハンバーグは肉をミンチにして固めるだけだからバビットの店でも提案して作っていたな。


 ヴァイルはハンバーグが好きでよく食べている。


「なっ、お前達洋食を食べたことがあるのか?」


「んー、あるって言ったら全部あるけどな……」


「「「はぁん!?」」」


 そんなに驚くことなんだろうか。


 前世では当たり前に食べていたけどな。


「自然あふれるシンプルでヘルシーな和食は妖精族の料理だ」

「スパイスや香辛料を使う中華は魔族の料理だ」

「肉料理や濃厚なソースでボリュームがある洋食は小人族の料理だ」


 どうやら種族によって食べられているものが分かれているらしい。


「それならイタリアンや多国籍料理ってあったりしますか?」


「イタリアンが何かは知らないが、多国籍料理は獣人族で食べられているな」


 本当に種族で分けられているとはな……。


 獣人族の料理人に会うことがあれば、多国籍料理も食べる機会があるのだろう。


 イタリアンを探すのも今後の楽しみだ。


「それよりも早く食べたらどうだ?」


「ちゃちく、おにゃかへったよ」


 目の前にいるヴァイルもお腹を空かせているようだ。


 俺達は手を合わせて、早速一品ずつ食べることにした。


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【あとがき】


「ねえねえ、オラにもあれほちい」


 ヴァイルが話しかけてきた。

 指をさしているのは画面下の関連情報のところのようだ。


「おほちちゃまとれびー!」


「ん? それって★とレビューってことか?」


「うん! オラにもちょーだい!」


 どうやらヴァイルは★★★とレビューが欲しいようだ。


 ぜひ、ヴァイルにプレゼントしてあげよう!



 なろうでランキングに入りました!

 少しでも注目される機会が増えるといいなー。

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