第三章 新しい仲間達
第97話 NPC、新しい交通手段
「ヴァイト、隣町までパンの仕入れに行ってくれ」
「わかった!」
「これも持っていけ!」
俺はバビットから料理を渡されると、そのまま外に向かう。
店を出ようとしたところで、キラキラした目でヴァイルが服を掴んでいた。
「ちゃちく……」
「ヴァイルも行くか?」
「うん!」
俺はヴァイルを連れて隣町に行くことにした。
最近は隣町に行くことも増えて、その度にヴァイルは一緒に付いて行こうとする。
その理由はあいつがいるからだ。
「よっ、キシャ!」
『キシャ……』
町の入り口で寝ているムカデを起こす。
少し眠たそうにしているが、俺の顔を見ると飛び起きてくる。
あれからムカデの名前をどうしようかと悩んでいたら、いつのまにかヴァイルが汽車と呼んでいた。
小さい子って電車とかが好きだからな。
それに返事も〝キシャ〟だから問題はないだろう。
「キチャ、まんまだよ!」
『キシャ! キシャ!』
キシャは嬉しそうにヴァイルからご飯をもらっていた。
バビットが作った料理を試しに食べさせたら、これまた餌付けされたかのように好物になっていた。
今じゃ自分で狩りにも行かないし、バビットの料理を待つようになった。
魔物としてどうなのかと思ったが、安全に美味しいものが食べられるなら、本人は良いのだろう。
見た目とは異なり温厚な性格のようだ。
「それを食べたら隣町に連れてってくれ」
『キシャー……』
まるでいやーって拒否しているような感じだ。
こうなったら意地でも行かないから、矢をちらつかせないといけないな。
「キチャだめなの?」
俺が矢を取り出そうとしたら、ヴァイルはキシャをキラキラした目で見つめていた。
『キシャ……』
「だめ?」
だんだんとヴァイルの笑顔がなくなってくる。
俺の可愛い弟をいじめたらただじゃすまないからな。
『キシャ! キシャ!』
ヴァイルの悲しい顔を見たら、キシャも焦ったのかヴァイルを背中に乗せようと伏せていた。
決して俺が先に何かやったわけではないからな?
「ありあと!」
ヴァイルは嬉しそうにキシャの上に登っていく。
子どもは無邪気だから、キシャから見ても可愛いのだろう。
もちろんヴァイルはどこの子どもより可愛いからな。
それにしてもヴァイルは魔物であるキシャは怖くないのだろうか?
「ヴァイルはキシャが怖くないのか?」
「ちゃちくがいる」
「ん? 俺がいる?」
「ちゃちくあんぜん!」
その言葉に俺はヴァイルを抱きしめる。
魔物が危ないかどうかというよりは、俺がいるから安全という認識なんだろう。
兄ちゃんは弟を守るのが仕事だからな!
俺もキシャの上に乗ると、キシャが大きな声を上げた。
『キシャー!』
これが走る時の合図だ。
まるでキシャの汽笛みたいだろ?
だが、汽車とはかけ離れている。
「アバババババ!」
「ひゃひゃひゃひゃ!」
ヴァイルは楽しそうに笑っているが、俺は息をするのも必死だ。
名前はキシャでも新幹線並みに走るスピードが速かった。
なぜあの時に逃げなかったのかと疑問に思うほど、キシャは足が速い。
俺が隣町に一時間で着くところをキシャだと15分程度で着いてしまう。
馬車だと半日程度はかかるのにな。
新幹線の上でずっと座っていたら、そりゃー息もできないよな?
それに周囲から見たら砂煙を巻き上げて、何かが近づいてくるように見えるため、恐怖を感じてしまうだろう。
現に初めてキシャで隣町に行った時は、門に冒険者や勇者が集まっていたからな。
だが、あいつら俺だと知ったらすぐに去っていった。
まるで俺が問題児のようだ。
問題なのは走るスピードが速いキシャだからな?
「おっ、勇者が走っているぞ」
『キシャー』
めんどくさいなーという顔でキシャは俺を見てくる。
勇者の一部ではキシャと鬼ごっこしようとする者も出てきた。
潰されないように走ると強くなるらしい。
相変わらずよくわからないトレーニング方法だが、それだけキシャが生活の一部にもなってきている。
避けるキシャはキシャで大変そうだ。
「おっ、隣町が見えてきたな」
「えー、もうおわりゅの?」
「また帰りも乗るから良いんじゃないか?」
「もっとのりたい!」
ヴァイルは駄々をこねてキシャの頭をポカポカと叩いていた。
キシャも困り果てた顔をしている。
「なら別の町にも行ってみるか?」
「へっ!?」
「なんかここよりも遠いところに別の町があるらしいからな」
「へへへ、ちゃちくありあと!」
可愛い弟にお礼を言われたら俺もつい嬉しくなってしまう。
『キシャ……』
だがキシャはどこか浮かない顔をしていた。
まるで運ぶのは俺だぞと言いたいような顔だ。
「まぁ、美味しいものがあるかもしれないぞ?」
『キシャアアアア!』
ひょっとしてキシャは食いしん坊なんじゃないか?
嬉しそうにキシャは走っていく。
ただ、走っていく方向が隣町から外れている。
「おいおい、まずはパンを買わないとダメだぞ!」
『キシャ……』
どうやら食べ物に釣られてしまったようだ。
──────────
【あとがき】
「ねえねえ、オラにもあれほちい」
ヴァイルが話しかけてきた。
指をさしているのは画面下の関連情報のところのようだ。
「おほちちゃまとれびー!」
「ん? それって★とレビューってことか?」
「うん! オラにもちょーだい!」
どうやらヴァイルは★★★とレビューが欲しいようだ。
ぜひ、ヴァイルにプレゼントしてあげよう!
第三章開始しましたー!
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