第93話 NPC、戸惑う
ある程度魔物の討伐が終わる頃には町にいた冒険者や勇者もやってきた。
ぐったりした精霊達を解放すると、すぐに精霊達は勇者の方へ帰っていく。
しかし、勇者達は精霊よりも気になったことがあるのか、俺の方に近づいてきた。
「これで私達もヴァイト様のものよ!」
「強く縛ってくれ!」
ん?
これはどういうことだろうか。
勇者達は精霊達を結びつけていた紐を自身の体に巻きつけていた。
一部編み目のような特殊な縛り方をしているが、何がしたいのだろうか。
「まぁ、あいつらは気にせず魔物を倒すことに集中すればいいぞ」
ユーマは仲間であるはずの勇者達を、無視しておけば良いと言っていた。
そんな雑な扱いで良いのか?
「ああん、無視されているわ」
「これは放置プレイかしらね」
ほら、なんかおかしなことをまた言い出したぞ。
「ほらほら、ヴァイトはムカデ野郎を倒してくれ」
「俺一人で?」
ユーマ達の顔を見ると頷いていた。
確かに勇者の中で強い方だと言われている。
そんなユーマ達ですら、一体倒すのに時間がかかってしまう。
効率を考えると俺が倒したほうが良いのは妥当だ。
一方、シュリンプローチは調合した香水を舐め回すように群がっている。
香水の影響か、どこか酔っ払いのように脚をジタバタとしている。
そう……。
千鳥足ではなく、見せつけるようにジタバタしているのだ。
そんなやつらを相手するのは、同じく酒好きの冒険者達だ。
「ふえええ、お前は酒のつまみだ」
「ほーら、こっちにおいで」
「おじさん達は怖くないぞー」
俺から見ても怪しいおじさん達にしか見えない。
完全にシュリンプローチも怯えてこっちを見ている。
いや、あれは脚を俺達に見せつけているのだろう。
助けを求める時も独特だ。
「じゃあ、俺が倒せば良いんだな?」
迫り来るムカデの大群達。
あれを食い止めれば町の安全は確保されるだろう。
「ああ、いいぜ!」
「なら、あの甲殻は俺の素材だからな」
ボギーに持っていったら喜ばれるだろう。
俺は短剣を構えて近づいていく。
弓矢だと貫通して、近くの森を破壊するからな。
すでに隣町との間は弓矢の影響でボコボコになっている。
「うっ……気持ち悪いな」
「全部で10匹ぐらいか」
さっきまでは数匹だったから問題なかったが、今回は倒し切れるだろうか。
甲殻は硬く、体が大きいためユーマは倒さなかった。
貫通には弱いとわかってはいるが、どれぐらい硬いのかもわからない。
「とりあえず殴ってみるか」
俺は向かってくるムカデに軽い一撃をお見舞いした。
――ボゴン!
ん?
硬いと聞いていた甲殻こんなに柔らかかったのか?
俺のSTRってまだ4桁になった程度で、そこまで強くないと思っている。
きっとユーマも手加減していたのだろう。
俺は隣にいる違うムカデに目を向ける。
何かに怯えているのか、ムカデはそのまま後ろに下がった。
あいつらって後ろに歩くこともできるのか。
もう一歩近づくと、勢いよく下がっていく。
「おい、逃げるなよ! お前達は俺の素材なんだからな!」
『キシェェェェェェ!』
叫びながら逃げていくムカデ達。
「おい、俺が気色悪いってどういうことだ!」
『キシェェェェェェ!』
「俺は社畜だああああああ!」
俺はムカデを一匹ずつ捕まえては放り投げる。
ちゃんとした教育的指導が必要だからな。
倒すのはその後からだ。
『キシェェェェェェ!』
空中を舞うムカデからは助けを求める叫び声が鳴り響いていた。
「ねぇ、ヴァイトってムカデと遊んでない?」
「あれは何のステータスが上がるんだ?」
「本当にユーマって脳筋だね……。それでラブは……?」
「あれも視聴率良さそうだわ! ムカデと戯れるイケメンってサムネにしようかな」
「うん……絶対視聴率悪いよ?」
ユーマ達は何か話しながら、俺の活躍を見ているようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます