第92話 NPC、勇者と虫退治
俺達は早速調合した香水を投げつける。
すぐに虫達が気づいたのか、こっちに向かって走ってきた。
「おい、なんだあれ」
「うわー、あれはないですね」
「気持ち悪いを超えて、生理的に無理」
あいつを見て気持ち悪いって思うのは、俺だけではないようだ。
「あれがシュリンプローチだ」
今も脚が生えている裏側を見せて走ってきている。
ジェイド達は本当にあれを食べているのだろうか。
「エビの味がしても嫌だね」
「そもそもどうやって食べるのよ」
「脚を引き抜いて食べるんじゃないか?」
「ユーマ気持ち悪い」
「さすがにないわ」
「おいおい、ヴァイトまでひどいだろ!」
さすがにユーマの考えは俺も否定的だ。
確かに見せつけている脚は立派。もし、それが本当にカニのように食べるなら……。
それはそれで気になってくる。
「その前に魔物達を倒さないと食べられないぞ」
「おい、まさかヴァイトも食べるつもりじゃ……」
「いや、食べる気はないからな」
なぜかユーマは安心した表情をしていた。ただ、安心するにはまだはやい。
近くにいたユーマの肩に優しく手を回す。
「ん? どうしたんだ?」
「よし、集まってきたからいくぞ」
ユーマは違和感に気づいたのだろう。
周囲を見渡して、アルやラブが離れていたことに気づいたようだ。
「まさかまた俺で――」
「そのまさかだな。お前で実験をするつもりだ」
「この鬼畜!」
「だから俺は社畜だって言ってるだろ」
相変わらずユーマは俺のことを鬼畜と間違える。
「ちょ……俺をどうするつもりだ!?」
「もちろん投げるに決まっているだろ! 俺は鬼畜らしいからな!」
こいつは俺のことを鬼畜って言ったからな。
ユーマの服を掴み構える。
思いっきり投げ飛ばすと、ユーマはそのまま勢いよく飛んでいく。
「〝必殺ボーリング〟作戦だ!」
ユーマはシュリンプローチ達にぶつかると、その衝撃で勢いは止まった。ただ、魔物達は押し潰されていた。
「よっ、ストライク!」
それを見ていたラブもかけ声をする。
どうやらあれがストライクってやつなんだろう。
ボーリングってやったことがないからな。
文化祭の打ち上げとかにやるって聞くが、イベントの一つを俺はすることができたようだ。
「さすがにあれをボーリングって言っていいのかな?」
「そんなの良いのよ! ゲームの中にもミニゲームってたくさんあるじゃない」
「ラブもめちゃくちゃだね」
「ふふふ、だってあの姉の妹だからね?」
ラブ達も戦う気満々なんだろう。
俺もすぐにユーマを追いかけるように戦場に飛び込んだ。
もちろん俺がいけばどうなるかわかっているだろう。
精霊達も強制参加だからな。
何か叫び声が聞こえるが、俺の耳には聞こえない。
そもそも俺の精霊じゃないからな。
働きたくないのか、ずっとボーッとしていた精霊達も魔物に囲まれたら渋々戦いだした。
火を吹いたり、体から電気を流したり戦い方は様々だ。ただ、思っていたよりも精霊って強くない気がする。
直接俺がグリーンリーパーを短剣で倒した方が速そうだ。
すでに戦っている精霊より、一振りでグリーンリーパーを倒した数の方が多い。
「強制的に戦わせるってヴァイトらしいわね。効率重視というのか」
「精霊は勇者を介して魔力を消費するから、ある意味鬼畜というか社畜だね。その場にいなくてもプレイヤーの魔力は減って働かされてるもんね……」
アルとラブはまだ遠くで俺達のことを見ていた。
「二人ともそんなところで見てないで――」
「戦いますよ!」
「はぁー、鬼畜ね」
ため息を吐きながら二人とも魔物討伐に参加していた。
しばらくするとユーマが声をかけてきた。
わざわざ、俺の背中にもたれて休憩している。
「おい、ヴァイト! ムカデみたいなやつどうやって倒すんだよ!」
「あー、あれなら矢で一撃だぞ?」
「はぁん!?」
俺は精霊達とグリーンリーパーを倒すことに精一杯になっていたが、ユーマ達はムカデと戦っていた。
中々倒せないのか距離を保つことが精一杯のようだ。
「すごい良いシーンだわね」
そんな俺達をラブはジーッと見ていた。
やっぱりラブも矢で倒せるとは思っていないのだろう。
俺がムカデに向かって矢を放つ。
大きな轟音を立てて矢は飛んでいく。
ムカデに触れた瞬間、一気に破裂した。
「うぉー! なんだその必殺技!」
「はじめて使ってみたけどかっこいいな」
最近覚えたスキルを使ってみたが中々の威力だ。
間近で見たユーマは驚きよりも興奮している。
「うわー、俺も弓使いにすればよかったなー!」
どうやらユーマも弓使いになりたいらしい。
弓使いの師匠って出かけていることが多いからな。
「俺が教えようか?」
俺でもチェリーに教えられたから、問題はないだろう。
「ぜひ、手取り足取りお願いします」
どうやらユーマもやる気だしな。
魔物の討伐が終わったら、早速訓練の準備をしよう。
「ねぇ、ラブ? 弓使いって戦闘職ランキングだと下の方じゃ――」
「はぁはぁ、手取り足取りだって! これは濃厚接触チャンス到来じゃないの! お姉ちゃんに連絡しておこう」
「はぁー、僕の周りにまともな人はいないのかな」
小さく呟いたアルヴェル・ライジング・ネビュラソード・インフェルノ・マキノの声は誰にも聞こえなかった。
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