第67話 NPC、家畜と家に帰る

 再び肩車して、俺の住む町に戻っていく。


「ちゃちくのおうちはどんなの?」


「んー、ご飯が食べられるとこかな」


「ごはん!?」


 雨が降ってきたと思ったら、獣人の少年からよだれがポタポタ垂れていた。


 たしかお腹が鳴っていた子もこの子だった気がする。


 相当お腹が空いているのだろうか。


「昨日はご飯食べたの?」


「んーん、きゃちくはたべたらだめなの」


 その言葉にまた胸が締め付けられる。


 昨日はあれから逃げるようにいなくなったと聞いている。


 誰も食事を与えていなかったら、この子は何も食べずに過ごしていたことになるだろう。


「そうか。帰ったらたくさんご飯食べような」


「うん! たのちみ!」


 町に着くまで獣人の少年は楽しそうに、肩の上で静かに座ってた。


 何を食べるのか考えているのか、俺の髪の毛は家に着く時にはベタベタになっていた。



 町の中に入ると、やはり俺の頭の上にいる少年が注目された。


 いや、一部は俺の変わった行動に、また何かあったのかと聞いてくる人もいる。


 よくユーマやレックスを肩に担いでいたから、そういう風に見えるのかもしれない。


「ただいま!」


「おっ、やっと帰って……子どもでもできたんか?」


 バビットは何を言っているのだろうか。


 さすがにすぐ子どもができるはずない。


 子どもはコウノトリが運んできてくれるって聞いたからな。


 そういえば、家畜にはコウノトリがいっぱい運んでくるのだろうか。


「ちょっと調理場を借りるね」


 俺は獣人の少年を椅子に座らせると、すぐに調理場で簡単に食べられるものを用意する。


 あまり食べていないなら、胃に入っても刺激が強くないものが良いだろう。


 できたものをテーブルに置くと、キラキラした目で見ていた。


「ちゃちく、ちゃべていいの?」


「ああ、いいぞ」


 獣人の少年はよほどお腹が空いていたのか、すぐに食べようとしていた。


「あちっ!?」


「スープだから冷まさないといかんぞ?」


 俺はスプーンで一口掬うと、フーフーと冷まして口の中に入れる。


 とろけたような表情に変わり、頬を手で押さえていた。


「おいちい!」


「当たり前だ。俺がここに来て一番美味しいと思った料理だからな」


 俺が作ったのはこの世界に来て、一番初めに食べたバビットが作ったスープだ。


 レシピは以前聞いていたため、初めて作ったが俺でも上手にできた。


 いざ作ってみると、お肉と野菜も入って栄養面がしっかりしているのに、スープになっているから体が温まって食べやすい。


 それに硬いパンと違って、食べやすいのが特徴だ。


 そんな様子をバビットは笑ってみていた。


 やっぱりバビットから見ても、獣人の子どもは可愛いからな。


「それでその獣人・・の子はどうしたんだ?」


 バビットも突然獣人の子が来て驚いていたからな。


 それだけこの町で獣人を見かけることがない。


 いるのは人族かブギーやボギーといった小人族ぐらいだ。


「きゃちくなの!」


 口から野菜を飛ばしながら話している。ただ、バビットにはちゃんと聞こえていたのだろう。


 一瞬にして表情が変わった。


「家畜か?」


 その言葉に俺は頷く。


 バビットの強く握る手から、何を考えているのかすぐにわかった。


 きっと俺と同じ気持ちなんだろう。


 それだけ家畜と言われる存在が、あまり良くないものだと知れ渡っている。


「きゃちくいいよ? ちゃちくとにてるよ?」


 そんなことも知らない獣人の少年の笑顔に、俺は居ても立っても居られなかった。


 気づいた時には強く抱きしめていた。


「ちゃちく痛いよ……」


「ああ、そうだな」


「ちゃちく……あったかいね」


 この子は愛情も感じることなく、何も知らずに生きてきたのだろう。


 俺の体に体をスリスリとしていた。


 うん。


 俺は決心した。


「この子も一緒に――」


「住んでもいいですか?」

「住むぞ!」


 俺とバビットの声が重なった。


 どうやら考えは同じようだ。


「ちゅむの?」


 ただ、獣人の少年にはうまく伝わっていないような気がする。


 首をずっと傾げていたからな。


 そもそも家畜なら、どこかに住むという認識もないかもしれない。


「ああ、毎日遊んで美味しいご飯を食べようか!」


「あしょぶ! たべりゅ!」


 きっとこうやって言われたら嬉しいだろう。


 そう思って伝えてみたら理解したようだ。


 俺達に新しい家族が仲間入りした。

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