第57話 NPC、新しい町でも鬼ごっこをする

 隣町までは――。


 想像以上に近かった。


 以前半日の距離と聞いていたが、一時間もかからない程度で着いた。


 俺はチェリーを下ろして、早速町の中に入ろうとしたら門番に止められた。


「お前達この町に何のようだ?」


「卵をもらいにきました」


「卵? 何を言ってるんだ?」


 どうやら卵を配っていることを門番は知らないようだ。


 それになぜか俺よりもチェリーに警戒心が強い気がする。


 ひょっとして、ここでも勇者達が何かやらかしたのだろうか。


「まぁ、変な行動はしないように頼むぞ。ここ数回、町で事件が起きて封鎖していたんだ」


「事件ですか?」


「ああ。町の中のものが紛失したり、壊れたりしたんだ」


「えーっと……ツボが割れたり、タルが壊されたり、不法侵入されたり……」


「なっ!? ひょっとしてお前達が犯人か――」


「犯人だったらそんなこと言わないですよ」


「ああ、それもそうか。すまない」


 門番は俺達に頭を下げた。


 どうやら勇者達はここでも悪事を働いていたのだろうか。


 あれだけダメだと言っていたのに、またやっていたとは……。


 ため息が出てしまう。


「僕達の町も同じような被害に遭ったばかりですからね」


「そうか……。まぁ、この町では安全に過ごしてくれよ」


 そう言われて俺達は町の中に入った。


 どこか静まり返った町の雰囲気に、少し違和感を感じる。


 ただ、俺が住んでいる町とは構造が違うためか、店が入り混じっているようだ。 


 飲食店の隣に野菜屋や武器屋があったりなど、所属ギルド毎に分けられてない。


 それにしても、お店を営業しているのに、誰も呼び込みをしていない。


 それに町の中を歩く人たちは、何かに警戒しているようだ。


 まるで何かを守るように歩いている。


 そんな中、どこからか声が聞こえた。


「すみません、誰かその人を捕まえてください」


 叫ぶ女性の前にはイカつい見た目をした男が走っている。


 男はそのまま俺達の目の前を通り過ぎていく。


 俺はすぐに倒れている女性に駆け寄る。


「捕まえる人ってあの人か?」


「はい! 大事な卵を盗んで行ったんです」


 ひょっとしたら今配っていると言われる卵だろうか。


 一人一つまでしかもらえないのに、卵を盗むなんて許せないな。


 俺はすぐに男を追いかけた。


「お兄ちゃんならすぐに捕まえてきますよ」


「あの人は極悪人で逃げ足の速いハッヤイーナです。流石に……」


 そのまますぐに追いかけたが、いつもやっている鬼ごっこよりは遅かった。


 俺は男を捕まえると、そのまま肩に担いで、女性のところに戻ってきた。


 暴れてめんどくさいため、しっかりと縄師のスキルでグルグル巻きにしてある。


「あの人を捕まえて――」


「緊急クエスト? いや、クリア済み?」


 俺が戻ってくると、チェリーは何かを考えていた。


「何かあったのか?」


 HUDシステムを触って何かを確認しているようだ。


「転職クエストの時のようなものが出たんですが、気のせいだったのかな?」


「ユーマもたまに触っていたけど、何かあると出てくるらしいぞ」


 以前、レックスの家を掃除する時に依頼クエストというものを手伝ったことがある。


 きっとそういうのに似たのが出てきたのかもしれない。


 今倒れている彼女を助けて欲しいとかね。


「ユーマって誰ですか?」


「チェリーと同じ勇者だぞ」


「ってことはプレイヤーか」


 チェリーは再び何かを考えていた。


「それより捕まえてきたけど、この人はどうしたら良いんだ?」


 俺は彼女に確認しようとしたら、驚いた顔をしていた。


 そんなに驚くようなことなんだろうか。


「ハッヤイーナを捕まえたんですか!?」


「ああ」


 俺は肩に担いでいた男を下ろす。


 その様子を見ていた周囲の人達は声を上げた。


「うおおおおお、あのハッヤイーナを捕まえたぞ!」


「ああ、これでこの町は平和になるぞ!」


 何やら静まりかえっていた町の様子が嘘みたいだ。


 それにこの声に気づいたのか、近くにいた門番が駆けつけてきた。


「お前らやっぱり何かしたんだな!」


「門番さん! ついにハッヤイーナが捕まりました」


「なに!?」


 これは何が起きているのだろうか。


 気づいた時には俺とチェリーが町の住人に囲まれていた。


「お兄ちゃん何かやらかしたの?」


「いや、俺にもよくわからんわ」


 戸惑っていると、女性が衝撃的な事実を語り出した。

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