第25話 NPC、頼みが断れない
「おいおい、なぜ俺を抱える!?」
「だって足が遅いじゃないですか」
俺は頭が弱い勇者を抱えて移動する。
もちろん肩に乗せた状態だ。
以前、ナコを抱きかかえた時、気持ち悪いと言われたからな。
これなら問題はないだろう。
まず、情報をたくさん持っていそうなバビットの元へ向かう。
店に戻るとすでに起きており、何か頭を抱えていた。
「バビットさん大丈夫ですか?」
「ああ、昨日飲みすぎ……そいつは誰だ?」
バビットは肩にいる人を言っているのだろう。
「あー、頭が弱い勇者――」
「俺はユーマ・シーカだ」
「うましか?」
馬と鹿ってそのまま読むとバカだったはず。
名前と人間性って似るものだろうか。
「それはバカじゃないか! 俺はユーマだ」
どうやら俺の聞き間違いのようだ。
俺はユーマを下ろすと、ギロリとバビットが睨む。
「おい、俺の大事なヴァイトに何かしたんじゃないだろうな?」
「ヒイイィィィ!?」
あまりの迫力にユーマは俺の後ろに隠れた。
確かに見た目だけなら、料理人より冒険者とかの方が合っている。ただ、バビットでビビっていたら、冒険者ギルドで会う可能性が高い解体師に会ったら漏らすだろう。
「新しい職場体験を教えてもらおうと思ってね」
「おいおい、ヴァイトよ? 今は働かなくても良いんだぞ?」
「なんかユーマが拳闘士の才能があるらしいんだけど、師匠が誰かわからなくて」
「拳闘士ならレックスの……あっ……」
「バビットさん知っているんじゃないですか!?」
やはりバビットは色々な人を知っているのに黙っていたようだ。
ユリスもその一人だってこの間分かったばかりだからな。
「そのレックスはどこにいるんだ?」
「はぁん!?」
「ヒイィ!?」
ユーマがバビットに聞いたが、俺の時と違って警戒心が強かった。
まぁ、勇者の情報ってここに来るお客さん達がよく話していることだからな。ただ、レックスがどこにいるかの情報は必要だ。
「バビットさん教えてください!」
「お前……」
「最悪ユーマはその辺に捨てておけば良いので!」
「おいおい、俺はゴミじゃないぞ」
「あっ、馬鹿だったね」
「ぬああああああ!」
ユーマはその場でジタバタとしている。
どこかいじりがいのあるユーマをついついおちょくってしまう。
学校に通っていたら、きっとこんな友達もできていたのだろう。
そんな俺達を見てバビットはどこか微笑んでいた。
「ははは、仕方ねえな。家を教えるがあいつを連れ出すのは大変だぞ?」
レックスはたまにしか家の外に出ない男らしい。
冒険者なのに出不精なんだろうか。
それでも俺のデイリークエストは、一回教えてもらえれば良いから問題ない。
大変なのはユーマの方だろう。
俺達は早速バビットに聞いた家に向かうことにした。
「おい、またそのスタイルで行くのか?」
「こっちの方が速いからね」
俺はユーマを肩に抱えると、勢いよく店を出た。
「ヴァイトにもやっと友達ができたのか」
そんな俺達をバビットは微笑みながら見ていた。
「ここで良いのか……?」
「バ……ユーマとは違うから合っているはず」
「おまっ!? またバカって言おうとしただろ」
俺はとりあえずにこりと微笑んだ。
別に言ってはないからな。
勝手に口が動いただけだ。
「ほらほら、中に入らないとレックスさんに会えないぞ」
「くっ……」
俺はユーマを押しながら、家の目の前にやってきた。
扉一枚挟んだ状態でもすぐに異常がわかるほどだ。
「ああ、冷や汗が出てきた……」
「勇者なのに?」
「うっせー!」
「ここはくっせーじゃなくて?」
教えてもらったレックスの家は、外から見てもわかるほどゴミ屋敷になっていた。
外の庭にもゴミが溢れ出ているし、扉を開けなくてもにおいが外にまで漏れ出ている。
「よし、行くぞ!」
ユーマは扉を手にかける。
――ドン!
「朝から騒がしいのは誰だ!」
扉が勝手に開いた。
その影響でユーマは扉に押し出されて、庭にあるゴミ山に飛んでいく。
俺が開けなくてよかったと心の底から思った。
それよりもにおいが強烈で鼻が曲がりそうだ。
「拳闘士について教えてほしいです」
俺はすぐに家に来た目的を伝える。
デイリークエストだけ出現すれば問題ないからな。
「はぁー」
「うっ……」
レックスのため息すら鼻に刺激臭を感じる。
見た目どこか頬が赤く染まり、ふらふらしているようだ。
「おい、おっさん! 酒を飲んでいるんだろ!」
「朝から酒を飲んで何が悪いんだ!」
どうやらレックスは酔っ払いのようだ。
短い髪の毛もボサボサで、みすぼらしい格好をしている。
本当に拳闘士なのかと疑問に思うほどだ。
「酔っ払っていないで、拳闘士の師匠になってくれ!」
「はぁん? 誰がお前達に教えるか。教えて欲しければ弟子ぽいことをするんだな」
【依頼クエスト】
依頼者:レックス
内容:家の掃除
報酬:レックスの好感度上昇、特別指導
突然目の前に半透明の板が出てきて驚いた。
それは俺だけではなく、ユーマも同じような反応をしていた。
デイリークエストやステータスだけしか見えていなかったが、勇者と行動しているからだろうか。
そんなことを考えながら、どうするか戸惑っているとユーマは俺の方を見てきた。
「ヴァイト、頼む! 掃除を一緒に手伝ってくれ!」
俺にはユーマの半透明な板が見えていた。しかし、ユーマには俺のやつは見えなかったのだろう。
俺に手伝って欲しいと頼んできた。
「嫌だよ。やる意味がないじゃん」
きっとユーマに教えている途中で一緒に参加すれば、デイリークエストは出てくるだろう。
今までの経験上、弓使いと斥候の時はそうだった。
声をかけて少し話を聞くだけで、デイリークエストが出てきたからな。
「なぁなぁ、友達の頼みだろ? 俺一人じゃどうしようもないじゃん」
確かにこのゴミの山だと一人じゃ片付けきれないだろう。
それに友達と言われたら悪い気はしない。
「俺ってユーマと友達だったんか?」
「なっ、そんな寂しいこと言うなよ! 俺と濃厚な体の接触をしたじゃないか!」
うん……。
これはユーマと友達になるのをやめた方が良さそうだ。
それに他にもやることはあるからな。
俺はその場から離れようとしたら、ユーマが必死に俺の服を掴んできた。
「ヴァイト頼むよー!」
ユーマぐらいなら簡単に投げられそうだが、どこか犬みたいな顔で止められたら断りづらい。
我が家で飼っていたゴールデンレトリバーのチビに似ている。
「なぁ、俺のために手伝ってくれよ! 今度お店に食べにいくからさ」
バビットの店の宣伝のためなら仕方ないな。
「絶対食べに来いよ」
「おう!」
俺はユーマと共にレックスの家を掃除する依頼を受けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます