第24話 NPC、勇者に関わる
冒険者ギルドに行くまでに、とりあえず勇者として今まで何をしていたのか順を追って聞くことにした。
「ってことは冒険者ギルドに登録したら、すぐに魔物討伐に向かったってことですか?」
「そういうことだね」
「中々、無謀なことをしますね」
勇者達はジェイドやエリックが言ったように、冒険者ギルドに登録だけして町の外に出たらしい。
その時に使いたい武器を武器店で購入して、外で魔物の討伐をしていた。
勇者達にはレベルという概念があり、魔物を倒してレベルを上げると強くなるらしい。
本当に勇者ってゲームにいる主人公のような存在だ。しかも、戦闘職の才能もどこか異質で、基本的に剣士ならジェイド、魔法使いならエリックに話しかけるだけで、その才能を開花できるらしい。
それはそれでジェイド達がすごいのか、勇者がすごいのかわからない。
ちなみに初めて俺に話しかけた勇者は、特に何も出なかったと言われた。
うん、俺はただのバイトニストだから仕方ない。
才能を見極めることもできなければ、まだまだ職業体験をしている身だ。
冒険者ギルドに着くと、冒険者は中にはおらず、職員が依頼の受け付けだけしていた。
「ヴァイトくんこんにちは!」
「こんにちは!」
俺が挨拶をしていたら、後ろにいたバカの勇者がクスクスと笑っていた。
「あいつの名前バイトらしいぞ」
「ちょ、あんた静かにしなさいよ!」
「いてっ!?」
そんな彼を女性勇者が叩いている。
彼女はどういう影響で、今の状況になっているのか気づいているようだ。
「ヴァイトって名前なんですね。僕の友達が失礼しました。ああ、僕の名前はアルヴェル・ライジング・ネビュラソード・インフェルノ・マキノだ」
「アルヴェル・ライジング・ネビュラソード・インフェルノ・マキノさんですね」
代わりに話しかけてくれた勇者が謝ってくれた。
彼の名前はとにかく長かった。
きっとINTが低かったら、全く覚えられなかっただろう。
「あいつ頭良いんだな。俺は全く覚えられなかったぞ」
「あんたはバカだからに決まってるじゃないの!」
「なっ!?」
二人はお付き合いをしているのだろうか。
さっきから夫婦漫才のようなことをずっとしている。
それに名前を聞いて覚えたことで、頭上に彼の名前が浮かんでくるようになった。
INTのステータスの影響で、明らかに何かが変化したのは確かだった。
「ヴァイトくん、この勇者達は大丈夫なのかしら?」
「あー、俺もさっき声をかけられたから、わからないですね」
俺の言葉に勇者達は俺と職員を交互に見ていた。
だってどんな人達かはわからないからな。
ただ、言えるのは名前が長いやつ、頭が弱いやつ、夫婦漫才のツッコミぐらいだ。
「まぁ、どうしたら良いのか困っているような感じではあるのかな?」
「反省しているなら良いけどね」
俺達はジーッと勇者達をみつめたら、すぐに頭を下げていた。
ちゃんと反省はしているような気がする。
勇者全員が悪いわけではないが、少しずつ関係性を解決するには、地道な努力が必要になりそうだ。
「やっぱり僕達がちゃんと話を聞かなかったのが原因なのかな?」
「確かにそれができていれば、ここまで大変にはならなかったかもしれないですね」
勇者達の会話からジェイドやエリックと話して、才能を見つけてもらったのは俺と同じだった。ただ、俺は訓練場に行って一緒にデイリークエストを終えてから、定期的に様子を見てもらっている。
普通の人達と勇者が違う点は、これぐらいだろう。
俺の知っている勇者はナコぐらいだが、彼女はユリスと仲も良さそうだった。
「アドバイスってそんなに大事なんですか?」
ひょっとしたら師弟関係の重要性も聞いてはいないのだろう。
「この世界は師弟関係が重要になってくる。どっちにも利点があるし、持っている才能を開花させるまで面倒を見てくれるのが師匠だ」
これは俺もこの世界に来た時に、すぐに教えてもらったことだ。
「剣士になるために毎日1000回剣を振れば良いんじゃないんですか?」
「それは一般的に剣士になるのに必要な基本的なことよ」
ん?
俺のデイリークエストって10回剣を振れば良いだけだぞ。
勇者達は1000回必要なのか?
それとも才能の基準が何か違うのだろうか。
「魔物を倒して見習い剣士のレベルも上がっているけど、これは意味がないのかな……」
えっ……剣士って剣士から始まるんじゃないのか?
見習い剣士ってなんだ?
INTが上がっても、俺の頭の中は混乱している。
「見習い剣士ってまだ見習いよ? 剣士になるまで師匠にアドバイスをもらって、やっと一人前の剣士になるものよ」
「ってことはこのままずっと魔物を倒していても、見習い剣士には変わりないってことか」
「それに一人前の戦闘職になったら、師匠から武器のプレゼントをされるわよ?」
「へっ……?」
勇者達は自分達で武器を買ったと言っていた。
その影響で食事も削ってお腹を空かしているぐらいだ。
武器をもらえると聞いて驚かないはずがない。
「やっぱりチュートリアルのスキップが良くなかったっていうことか」
「俺も話を聞かなかったからな」
「私もです」
勇者達は根本的な原因がわかったのだろう。
それにしてもチュートリアルとはなんだろうか。
「チュートリ――」
「やっぱり家に居たら暇だから……おっ、ヴァイトじゃないか」
「なんか今日は面倒な人達を連れているみたいだけどね」
勇者にチュートリアルについて確認しようと思ったら、ジェイドとエリックが冒険者ギルドにやってきた。
エリックって優しい見た目をしているが、思ったよりもチクチク攻撃するタイプのようだ。
「あのー、僕にもう一度剣を教えてもらえませんか?」
「私にも魔法を教えてください」
そんな二人に勇者は駆け寄った。
ジェイドとエリックは難しそうな顔をして俺を見てきた。
目で俺にこいつらは大丈夫なやつらなのかと聞いているようだ。
さっきから助けを求める子犬のように、勇者達は俺を見てくるからな。
もう勇者とか関係なく、可哀想な人達にしか見えない。
「教えたら良いんじゃないですか?」
俺の言葉に勇者達は目を輝かせていた。
実際に見えてはいないが、ブンブンと大きな尻尾を振っているように見えてくる。
「じゃあ、訓練場に行こうか」
「はい!」
二人の勇者はジェイドとエリックと共に訓練場に向かっていく。
あれ?
頭の弱いやつは行かなくてもよいのか?
「おい、俺はどうしたら良いんだ?」
「一緒について行ったらどう?」
さっきから会話に入っていなかったが、一人だけその場に残されていた。
「俺は見習い
こんなところに新しい職業体験ができるやつがいるとは思わなかった。
拳闘士とは一度も会ったこともないからな。
「よし、一緒に探そうか!」
「うぇ!?」
俺はその後も頭の弱い勇者を連れ回して、拳闘士を探すことになった。
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