第21話 NPC、ポーションをつくる
教会に向かうと昨日教会の場所を教えた少女がいた。
彼女もきっとお祈りにきたのだろう。
「こんにちは!」
俺が挨拶をすると、少女はどこか顔を赤くしていた。
勇者である彼女はゆったりと生活したい人なんだろうか。
「この間は助かったのう」
声が聞こえた方に目を向けると、そこにはお婆さんがいた。
「俺の方こそお金について教えてもらって助かりました」
以前パンを買いに行った時に、この世界のお金について教えてくれたお婆さんだ。
そのお礼に家まで荷物を持って行ったが、確かに教会から家までは近い方だった。
あの時はバタバタして教会の存在に気づかなかったからな。
「お婆さんもお祈りをしていたんですか?」
「ええ、ナコがお祈りしたいと言っていてね」
どうやら勇者の少女はナコという名前らしい。
「あっ、俺の名前は――」
「ヴァイトよね?」
「なんで知っているんですか?」
「この町でお前さんのことを知らないやつの方が少ないぞ?」
俺はいつの間にか人気者になっていたようだ。
特に目立った行動はしていないはずだ。
「ヴァイトさんは何かで有名なんですか?」
「社畜じゃ!」
「しゃ……ちく?」
ナコは必死に社畜の意味も探しているのだろう。
みんなは社畜と言っているが、俺にしたら社畜ではないからな。
毎日楽しくやりたいことをやっているだけだ。
社畜って寝る時間もなく、死にそうになっている人のイメージだ。
俺はちゃんと8時間ぐらいは寝ているし、元気にピンピンしている。
死にそうな経験をしているから、そこまでは頑張る気もない。
いや、すでに死んでいたな。
「しゃちくがなにかわからないですが、頑張ってくださいね!」
ナコは考えるのを諦めたようだ。
「ありがとう!」
「あっ……いえ」
応援してくれたから、お礼を伝えるとまた顔を赤くしていた。
俺はまた何かしたのだろうか。
「ユリスさん早くポーションを作りに行きましょう!」
恥ずかしくなったナコはお婆さんの手を握って帰ろうとしていた。
「ポーションって何ですか?」
「ポーションって――」
「ナコ、それ以上は言うんじゃ――」
お婆さんはナコに被せるように話したが、俺の耳にはしっかりと聞こえていた。
「ぜひ、俺にも作り方を教えてもらっても良いですか?」
【デイリークエスト】
職業 薬師
ポーションを1つ作る 0/1
報酬 ステータスポイント3
今回は頼み込んだ影響でデイリークエストが出たのだろうか。
詳しいきっかけはわからないが、新しい才能をみつけた。
俺の言葉にお婆さんのユリスはため息を吐いていた。
「このままだと私がバビットに怒られてしまう……」
「お婆さんはバビットさんのことを知っているんですか?」
「なっ!?」
どうやら俺が目立っていたわけではなくて、バビットと繋がりがあるのだろう。
バビットって飲食店をやっているから、商店街の人や商業街に来る人達と仲が良いからな。
今のは俺が先に聞いたんじゃなくて、勝手にユリスが呟いていただけだからね。
「仕方ないからヴァイトも付いてくるのじゃ」
「うっし!」
俺は新しい職業体験ができることになった。
そもそも俺はポーションがどこで売っているのか、何をするものなのかもわかってはいない。ただ、ユリスの家に着いた時に改めて庭を見て気づいた。
「ポーションって薬のことか」
「それもわからずに付いてきたのか?」
「だって新しく職業体験ができますし……」
「はあー」
ユリスは大きなため息を吐いていた。
そんなに俺が職場体験をしたら、ダメなんだろうか。
「ヴァイトさんは少し変わった方なんですね」
ナコから見たら俺は変わった人物に見えるのだろう。
俺から見たらナコの方が変わった勇者だからな。
勇者の中でも珍しくボーッとしているイメージだ。
その辺にいる勇者なんて〝ヒャハァー!〟って叫んで走ったり、町の中で剣や杖を見て、ニヤニヤしている奴らばかりいる。
「とりあえず薬草の採取はナコに任せたぞ」
俺はナコに付いて庭にある薬草を採りに行った。
「まずは回復ポーションですが、薬草と魔力水で作るので薬草は根本から10cm以上上で切ってください。葉と茎では効力が違うので、その辺は試さないといけないですね。魔力水に関しては水に魔力を含ませて作るので簡単です」
ポーションって簡単に作れると思ったが、材料を集める段階で気をつけることが多かった。
武器や防具は工程を一つ行うだけで良かった。だが、ポーション作りは薬草を切ったり、魔力水を用意してもデイリークエストはクリアにならない。
ちゃんとポーションを作る必要があるのだろう。
材料を準備すると、ユリスが簡単に作り方を教えてくれた。
「覚えることが多いですね」
ああ、ユリスとナコは簡単と言っていたが、俺には覚えることが多くあった。
簡単にいえば、薬草の採取、水に魔力を込める、薬草の粉砕、薬草と魔力水の結合、濾過による複数回の絞り込みの五段階で完成する。
実際にやってみても、ナコが隣で教えてくれるからできるが、俺一人ではできそうな気がしない。
「ヴァイトは体ばかり動かしているから、知力が低いんじゃな」
サラッと悪口を言っているが、俺は言い返すことができなかった。
実際にステータスと能力が密接に関わっていたら、俺はバカということだ。だって、知力と言われているINTが10ってめちゃくちゃ低いからな。
「知力ってINTでしたっけ?」
「そうじゃ。基本的にINTは魔法使いがメインになる。ただ、記憶力にも関わってくるのじゃ。鑑定士とかはINTが大事になるからのう」
意外にもINTは生産職にとって大事なステータスだということがわかった。
そして、また聞いたこともない職種を耳にした。
「
「あわわ……」
ユリスもまたやらかしたという顔をしていた。
「ちなみに鑑定士はこの町にはいないから、弟子になることはできないぞ」
どうやら鑑定士にはそう簡単にはなれない職業らしい。
この際ユリスからたくさんの職種を聞き出して、今後もできそうな職業体験をしても良い気がした。
俺はその後もナコに協力してもらいながら、回復ポーションを作ることができた。
ちなみにユリスからはポーションもランクがあり、俺が作ったポーションはFランクで毒効果付きだと言われた。
回復ポーションなのに……毒状態になってしまうポーションができてしまった。
やっぱりINTも大事なようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます