化人

蛇蝎

プロローグ

「なぁ。ええん?」

「なにが」

「だって…」

薄暗い部屋の中で2人の唇が重なった。

しっかりと目で捉えることはできないが、確実にお互いの唇が触れ合っている。

(ほんまにええんか…)

愛していることに変わりはないはずなのに、彼の中ではまだ迷いが生まれていた。

(これからどうなってくかとか…大丈夫なんか…)

グルグルと脳内で繰り返される自問自答。だが、もはやそれを考え続けることすらままならなくなる。

(ま、ええか。もうどうでもええ…)

重なり合った唇が卑猥な音を立てる。暑さがねっとりと纏わりつく部屋にその音が響いた。

この状況で細かいことを考える余地などなかった。

なんとかなる。そう思うしかなかったのだ。

あのとき、こいつに興味なんて持ってなかったら。あのとき、好きなんて思わなければ。そもそもこいつに出会わなければよかったのか。

じわじわと迫り来る快楽の中で、思考を巡らせることなど彼にはできない。いや、むしろそんなことする必要などない。

彼の目の前で恍惚な表情を浮かべているソイツの本当の姿、秘密を知ってしまった彼は一度踏み出した足を引き戻すことなんてできないのだ。

「なぁ、もう好きなようにしたらええよ」

「ほんまぁ?楽しくなってきたなぁ」

に身を任せることを決意した。

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