混じり物
「化学調味料は効果がない」何かにつけて祖母はそう言っていた。
前時代的な考え方だ。工場で生成された調味料が体に悪いなら、お砂糖だって食べてはいけないはずだ。
論理的に物を考えることのできない老人はすぐ筋の通っていないことをわめき散らかす。
祖母が特に目の敵にしているのがアジシオだ。
「そんなんは塩じゃない! 混じりもんだ!」私がアジシオを使って料理をしていると、祖母は目ざとくそれを見つけて瓶ごとゴミ箱に放り込む。
そして、どんなに遅い時間であっても、どんなに寒い日であっても、私がちゃんとした塩を買いに行くまで許してくれなかった。
そんな、厄介者の祖母が亡くなった。
どんなに鬱陶しくても家族が亡くなるのはそれなりに悲しいものだ。
涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら告別式から帰宅した私は、祖母のいない家へと帰る。
数年前にがんを患って以来、もう何年も一人で過ごしてきたはずの自宅はなぜかひどくがらんとしたように感じる。
「そうだ、塩撒かないと」
今朝家を出る前、あらかじめ玄関の外に用意しておいたアジシオを肩にふりかける。
「……結局、おばあちゃんの言うこと全然聞いてあげられなかったな」
今夜は久しぶりに、祖母との日々を思い出しながら眠りにつこう。
***
「遥、遥……」
その夜、私は祖母の呼ぶ声で目を覚ました。
「おばあちゃん、会いに来てくれたんだね……」
幽霊だけど、不思議と怖くはない。だって、ここまで私を育て上げてくれたおばあちゃんが、真っ先に夢枕に立ってくれたのだから。
「混じりもんじゃあ効果がないとあれほど言っただろ! お前のせいで半分しか成仏できなかった!」
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