06 未就学児も入場有料!?
「あら、ムゥちゃんもダンジョンに行くの?」
尻尾の隠れるゆったりとしたスカートを履いて、帽子をかぶり出かける準備をしているとノートさんが玄関までやって来た。
「ムゥもほんとはおうちでノゥトとおかあさんとゆっくりしたいとおもってたんだけどねっ。パパがダンジョンいかないとごはんたべられないよーって
「どうしても離れられないんで仕方ないですね。僕も危ないとは思うんですけど」
「でもムゥがピンチだったら、パパがたすけてくれるでしょお? やくそく」
「ふふ。たいへんですね。気をつけていってらっしゃい」
「はい。行ってきます」「いってくるのー」
***
「それでクララさん、この子と一緒にダンジョンに潜りたいのんです」
「そんな小さい子と一緒にですか……」
ダンジョンに年齢による入場制限はない。ただし、それは想定されていないが故に制度として確立されていないだけだとクララは思っている。幼少期から地下迷宮に潜る冒険者もいないことはないが、それは極めて稀なケースだ。
「では登録料が一五〇〇〇エルンになります」
幼子がダンジョンに潜ることをクララから勧めることは絶対にないが、ここはギルド職員として規則通りに進めるしかない。
「えっ! ムゥもギルドに登録しなくちゃいけないんですか」
「はい。ダンジョンに入るには冒険者登録が必要という規則ですから」
「そこをなんとか……」
「なりません」
「な、なら、幼い分割引を……」
あいにく、そんな未就学児入場無料みたいなサービスはやっていない。
「なりません」
「お願いしますっ! 僕とクララさんの仲じゃないですか」
「なりません。ってどんな仲なんですか!?」
「……。クララさんのケチィ」
「なっ!? ギルドの規則ですからっ!!」
もうっ! ケチだなんて失礼しちゃうわ。
地方からやって来た新人の冒険者にとって一五〇〇〇エルンという金額は決して安くないことはわかっているつもりだ。
「はぁ。それならいつも通りロイさんひとりで地下迷宮へ行けばいいじゃないですか」
そう言うとロイさんはもごもごと言い淀んで、どうも歯切れが悪い。どうしても一緒に行かなくちゃいけない理由があるのかしら?
「パパ。どうした? もしかしておかねない?」
「お金はないよ……。ないどころかとんでもない借金があるよ……。どうにもならないもんねぇ。ちょっと下ろしてきます……」
——チャリーーン。
心なしかやつれて戻ってきたロイさんから登録料一五〇〇〇エルンをきっちり受け取る。
(うっ、そんな捨てられた仔犬のような目で見ないでぇー)
幼気な少年は目をうるうるとさせて、手渡したお金を未練がましく見つめている。
こっちも仕事なのだ。クララの一存で値引きをすることはできない。雇われた一介のギルド職員でしかないのだ。
「は、はい。それじゃあ、ステータス測定をしちゃいましょうかっ!」
――――――――――――――――――
ムゥ・アスタリスク ****
筋力|30
耐久|5
魔法|0
敏捷|3
スキル:【なし】
――――――――――――――――――
「あれ? 少し文字が滲んでしまいましたが、まあステータスに問題はないのでいいでしょう」
印刷の不具合か種族の欄が読み取れないけど、ダンジョンに潜るのにそんなに重要じゃないし、ダイジョーブ、ダイジョーブ。
「どう? ムゥ、つよい? わくわく」
うぅ。そんなに期待した目で見つめられると告げるのが躊躇われちゃうよぉ。
「ムゥさんの等級は……【Fランク】です」
「ごくっ……。パパ、えふらんくというのは?」
「Fランクというのは一番下のランクです!」
「ガァーーン!! ムゥはつよくなかった……」
「そんなに気にすることはないよ。僕のFランクだし、これから伸び代がたくさんあるってことなんだから」
「パパもさいてーのえふらんく? ムゥ、パパといっしょ!!」
「手続きも終わったし、ダンジョンに行こうか」
「いやぁ」
ムゥちゃんは椅子に座ったままだ。
「ぶきはぁ? ムゥもパパみたいなぶきほしい」
「ムゥに武器は早いんじゃないかな。危ないよ?」
「いやあぁぁーー。ぶきほしいぃぃ〜〜。かって、かってぇ〜〜」
こういう事態に対応するのもギルド職員の役目だろう。冒険者のサポートから子どもをあやすことまで幅広く柔軟に対応してみせる!
「それならこれなんかどうかな?」
ギルドで販売している子どもが訓練用に使う木剣を選んで見せる。ムゥちゃんも泣きながらチラッと確認しているみたいだ。
「これならムゥちゃんも怪我しないよ? ほら、持ってみて」
おそるおそる手に取ると素振りしたりポーズを取ったりしている。ああ……。可愛い!
もう涙は引いていた。
「フンフンッ。とってもいいものなのねっ! ハルカ、ありがとぉ。パパッ、これにする。かってくれないとダンジョンにいかないよ?」
「クララさん、ありがとうございます。これ、買います。いくらになりますか?」
「二五〇〇エルンになります。その、大丈夫ですか?」
「もう二五〇〇エルンくらい変わりません……。ダンジョンで頑張ってきますから」
そう言って力なく笑うロイさん。たいへんそうだ。
「よし、今度こそ食費と借金返済のためにダンジョンに行こう」
「いってらっしゃい。ご武運を」
クララは無事に生還できますようにとの願いを込めて言う。特にあの青年は危なかっしくて心配になる。
自分はカウンター越しに冒険者を見送ることしか出来ないけれど、無事に帰って来られるようにこの場所で最大限の
***
「お姉ちゃんってさあ……」
隣で作業している妹のウララが作業の手を止めることなく話しかけてくる。
「うん?」
こちらも紙面に目を落としたまま会話する。
「さっきの話が聞こえて来ちゃったんだけど、お姉ちゃんってけっこーケチだよね」
「なぁ!? あの場合、あれが正解でしょ?」
「あの場合はね。でも思い返してみると普段からケチのような……。この前、冷蔵庫にあったお姉ちゃんのプリン食べたらその分のお金を請求されたし、ご飯を食べに行ったら安いのを食べるし飲み物は水が多いでしょ。それから……」
「もう、やめてぇぇ〜〜」
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