第1話:そんな日々の汝にご招待

「はぁ〜あ…!!悠真ゆうまぁー、今日もフったらまた泣かれちまってさぁ〜。んで、その子の仲良しグループが、鬼の形相で詰め寄って来んの。モテ過ぎるのも困りもんっつうか。マジでツいてねぇー、ぁ〜、あと先生にさぁー、」


 …また捕まってしまった。なにかと言えば不満と言う名の自慢を打つけて来る、クラスメイトのじゅんだ。今の僕にはこの攻撃は身に堪える。


 どっと肩に疲れがのしかかって来る心地で、僕は乾いた笑いを力無く淳に向けながら、半ば彼の言葉の続きを遮るように開口して。


「ハハ…それくらい良いじゃないか。空回りして、バイト先でクビになり続ける僕より。…これじゃ稼げる物も稼げないよ。はぁ……また面接に行かなくちゃ……」


 帰宅部の淳はさておき、僕がこうして部活もせずに、アルバイトの為に日が暮れる前から、下校道に影を落としているのには訳がある。高校生の身でありながら、奨学金を利用しているからだ。


 落とせない学力と家計の基準を支える為に、寝る間も惜しんで勉強とアルバイトの両立に勤しむ日々なのだが──なにかと巧くいかない。努力の方法が間違っているのだろうか。次の職場にとっても〝より良い自分〟で居なければ、僕はまた失敗してしまう…。


 完璧でなければならないのに…──懸命に支える母親の為にも、少しでも自立して安心させたいというのに…そんな事を想起して、戒めの鎖を心に縛っては項垂れた。


 淳と分かれ道で別れた後、町の祭りで賑わう路地をぼんやりと歩く中、急に周りが不自然に静まり返った──はたと足を止めて辺りを見渡すと、時が止まったように人の動きが止まっていた。否、実際止まっている。アルバイトまでの時間を確認しようと一瞥した腕時計の秒針が動いていない。


「、んえっ!?」


 狼狽する僕を他所に、星に似た煌めく粉が乱反射する眩しい追い風が吹き、僕の背中を促すように押す。風が吹き込む路地裏の奥深くへと、その粉が舞い示すのは光の道標。


 風に身を委ねて辿り着いた先は、小汚い裏路地に似合わぬ洒落たレストラン。


「…こんな所に、レストランなんて、あったか…?」


 おずおず入ると中は閑散としており、僕の靴音だけが妙に響く。ウェイターも居ない、…厨房らしき部屋の入口もない。一つのだだっ広い部屋に、綺麗にセッティングされた客用のテーブルと椅子があるだけだ。


「あっあのぉ…!えと、座、座り……ますよ?」

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