あなたにもできる一瞬だけアムロになれるモノマネもどき
ひとつ持っておくと安心なものってあるよね。電車乗らなくても、交通系IC持ち歩いちゃうよね。あとロキソニンとか。止瀉薬とか。乗り物酔いのお薬とか。
モノマネの一個二個とか。
いや、モノマネじゃなくてもいいんだ。ちょっと明るい芸が手元にひとつあると、生活はすごく楽になる。
で、こんなネットの片隅にエッセイを読みに来ちゃってるあなたはきっと。
「んなモンその場で腹踊りでも一丁、かませばいいじゃねえか! オレは出来らぁ!」
……ってタイプでは……きっと無いだろう。
うん、多分だよ。強いて言うなら文化系寄りが多いだろう。
これは明るい暗いではなく、そういうタイプだ、と推測してるのだよ。単に想像ね。裸踊りや腹踊りがつまらないと言っている訳じゃない。僕は笑えないけど。
僕は実生活で他人を笑わせたいなんてあまり思わない。そんな奴がモノマネなんてなんで、気にしだした?
一応、イキサツがある。
中学時代に、合唱の熱血押し付けな大ッ嫌いな教師がいた。どこにでもいるみたいだけど。その教師があるとき言った。
「日頃聞こえてくるどんな音でも、声でマネをしてみろ! これやってるだけで、歌が上手くなるぞ!」
おお、なるほど!
僕は感心した。説得力がある。それは確かにそうかもよなァ!
……他人に伝わっている自分の声は、マイクとスピーカーを使わないと自分で聞くことが出来ない。一方、生活で聞こえるあらゆる音は当然ほぼすべて外側から、自分の耳殻に入ってくる。
つまり、
〝聞こえる音〟と〝自分の声〟を似せていく、ということ……それは聞こえのミゾを埋める訓練の、理想形に思えた。
もちろん真似したその瞬間には合っていない。自分の声の方が、聞こえ方が低い。しかし、この訓練(習慣?)をつづけることでそのミゾの幅というのを。正確に把握できるのではないか?
そして、あらゆる音を口に出して似せることができるのなら。
つまりそれは好きなアーティストの歌声でもいいわけだよな。脳内に響く音と完全一致したら、あとは誤差の分だけ自分の声を調整なりアレンジすればいい。ほぼ同じ方法で発声してることになる。うん! 歌が上手くなるかもな! 歌は好きだ。上手くなりたい。なるほど。なるほどなー。
そう腑に落ちたその日から、俺の猛訓練がはじまらなかった。僕は必死にこの訓練に明け暮れなかった。もう徹底して鳥の声、風の音、あらゆる聞こえる音を、口に出して繰り返しマネしなかった。
ん? うん。しなかった。全然しなかったよ。そりゃそうだろ、できるかァ!
だってあなたがバス停で次のバス待ってたとしますよ。あっバスが通過しました。すると突然、横のヤツが
「ブロロロロロォゥー」
とかマネ始めたらどうします。
あるいはあなたが公園でくつろいでいる。野鳥のさえずりが、心地いいですね。すると突然、ベンチの隣のヤツが
「ピッキョピッキョピッキョピキョ」
とかマネ始めたらどうします。
そら出来るだけ距離をとるでしょうよ! ホラーだよ! 子供いたら手をとって、その場離れるでしょ。そんな鋼鉄のメンタル無いです。つーか事案になるって。
とはいえ……とはいえだ。
この理論のもっともらしさは、ミョーに心について回った。一人暮らし以降は、テレビやゲームのセリフとかボイスとかSEとか。声に出してみるようになった。お気に入りのセリフとかね。独りだし。
これくらいはなんとなくで、するよね?
けっこう楽しいのだコレが。そしてなかなか難しい。
「おっ、今のかなりシンクロしたんじゃ?」
って声が出せるとちょっと嬉しい。そして副産物なのだが。結果として……僕はとある政治家のマネがまぁまぁできるようになった。ほぼ偶然、声質が合った。
モノマネは『みんなが知っている人!』なの、とても大事だ。そして政治家だとフツーな事を言わせるだけで勝手に面白くなるので……すごいラク。吉野家で牛丼お持ち帰りのオーダーさせるだけでなんか笑ってもらえる。みそ汁と~お新香はいくらだっけ~とか言うだけでギャグになる。
思えばこれが黄金時代だった。その政治家が表舞台から去ってしまった……一切メディアに出なくなったのだ。もう汎用性がない。それに、新しく発掘するにしても、話題の渦中すぎる政治家だとそれはそれで困る。支持不支持や、不謹慎と隣り合わせ。
……政治家は危険だ。そこで俺は新たなターゲットを模索した。流浪の日々。
そしてまた、偶然の産物。私の女とテレビを見ていた。CMで『アムロ、行きまーす!』と流れたので僕はマネをした。
「アムロ、イキマース」
「あはは、今の結構似てた。まあまあ似てた」
「えっマジで?」
希望で胸が膨らんだ。アムロなら誰も怒らない。しかもメジャーだし。
「アムロ、イキマース!」
「あれ、微妙。ちょっと遠くなった」
ちくしょう。
「アムロ、イキマース!」
「ちょっと落ち着いて。また遠くなった」
「アムロ、イキマース!」
「あーあ。全然ダメだね。かなり別人になった」
やはり俺ではムリなのか?
とはいえ段々遠くなるのは当たり前で、元の声を聞きながらやっていないからだ。思い切って長セリフにしてみる。抑揚がない部分を選んでみた。
「カイサン、ボクはアナタのすべてが好きだというワケデハアリマセン。でもここまで一緒にやってきた仲間じゃないですクァ……」
「そういうシーンあんの? でも完全に壊れたね。最初の面影も無い。もうどんどん離れてるっていうか、完全に別人っていうか、むしろアヒルボイスだよ。あと意味わかんない」
やっぱりダメか……。そこで俺は
〝アムロ、イキマース〟
この一節に、集中することに決めた。もう似せたいというより、アムロだと伝わればそれでいい!
結果! 私の女は笑った。
「うんうん、たしかに一瞬アムロ。ニュアンスがね。言っとくけどニュアンスがだよ。似てるかはともかく、確かに今のはアムロだとは伝わる」
と評価されるところまでこぎつけた。やったぜ。
「でも調子に乗ってムダ撃ちしすぎるとまた遠ざかってくと思うよ!」
って釘をさされたけども。
コレ、ちょっと練習すれば簡単にできるのでコツだけご紹介したいと思う。
……なんだ。文芸に身を遊ばせるなら、モノマネ芸のパチモンぐらいもできなくてどうする。万事、芸ゴトだぞ。
ハイまずね、もう完全初期の少年のアムロにしようね!
大人になったアムロはガチ練習抜きでは不可能と思う。付け焼刃はムリ。
さていくぞ。
『ア』だが、口を開きすぎてはいけない。口の中にこもらせる。強すぎてもいけない。しかも、アでもない。エとアの中間だ。
さらにちょっと不明瞭な感じ。小島よしおの「ウェーイ!」だか「ウィ~」あるじゃん。あそこから、真ん中あたりを短く切り取ってみて。
「アとエの中間」で、むしろ『エ』に寄せる。
『ム』だが……もうこれは最初「モ」でいい。
ひとまず、モで言ってしまおう。そこから「ム」の度合いを、あとで徐々に上げていく。そこは加減だ。表現力の見せ所だぜ?
『ロ』なのだが、ちょっとふつうに、ろ、って何度も言ってみてくれ。『道路』、っていうぐらいにキッチリ発音してみてくれ。舌が上あごと下の前歯に順に触れて、転がるのがわかる。これではいけない。上あごも前歯の裏も、舌先が触れないかカスるぐらいにしよう。「ルォ」ってなると思う。要するに舌っ足らずにする。まずこれでいこう。
『、』は最初はしっかり間隔を置こう。区切ろう。エクスクラメーションマークとイメージしていい。なんせ前の音が、短く言うとはいえ「ルォ」だからな。あとでテキトーに、いい具合に詰めればいい。
『イ』だが。あのーもうこれね、すこし「ヒ」に近くする。さらに「fi 」ぐらいまでいく。しっかり歯をあわせて「い!」と力強く言ってはいけないよ。
まずは「fi 」ね。カタカナで「フィ」だと長くて、正確ではない。空気ちょっと漏れる「fi 」だ。
『キ』はしっかり言う。機、とか、木、と言うぐらいのつもりで短くしっかり、キ。刻み込むぐらい。
『マ』だが……ここが重要だ。アムロっぽい「行きまーす!」にするには、ちょっと「メとムの中間」という。……もう説明してる僕ですら表現に苦悶する音でやってこそ、それらしくなる。「ムァ」に近いのだが、やっぱちょっと「メ」も混じるブレンドという。
ひとまずここも、最も強調しよう。
なのでひとまず「ムァ」だ。
『ー』。ここはムァと後の音をつなぐのだが、〝ぽさ〟を出す上でまた重要なところだ。「ムァー」ではある。のだが、まずはながくのばそう。”ー”が二つ分ぐらい伸ばす。
さあ仕上げだ。
『ス』だぞ。これもうね、「th」。英語のth。“thrill”の、ス。やはり舌っ足らず。th+「ス」な同時発音な感じ。
よしやってみようぜ。準備はいいかな。地声はこう……できる限りで似せてくれればいい。これモノマネ紛いだから。地声変える、達人のやつじゃないから。だからまずは、なるべくでいいのだ、ホンモノの高等技術は。
いくぞ。せーの!
「エモルォ! fiキムァーーーthス!!」
……どう?
いけそうでしょう? 調整すれば、すごいアムロぽさ出そうだろう。ここから徐々に精度を上げていくのだが、声はどうしようもないとしても、多くの人はちょっと繰り返すだけでいけると思う。
「ああ、たしかにそれアムロっぽいわ! ぽさだけはアムロぽいね!」
レベルまでは絶対に行ける。保証する。
他人をクスっとさせるには、十分なものになるはずだ。
で、ぜひぜひ頼む。コメントで結果と感想を教えてくれ。こんな変なことに付き合ってるヒマとか……そもそも出来具合を聞いて笑ってくれる友人や家族が……誰にでもいるわけでは、ないのかもしれないが……。
自分で聞こえる限りでも、ぽいかどうかはかなり分かるはず。
ちなみに……僕がなぜこういうのを一つ持っておきたいか。
悪いクセのせいだ。気を付けるのだが、理屈がときに先行してしまう。仕事で理攻めで相手をやりこめてしまうと、すっごく恨まれる。メンツつぶしちゃう。
たま~に出る飲みの席では、こういう人間らしさと言うかバカみたいな一面を見せておく。すると自然にしていても
「コイツ、いまは仕事モードだから、こうなんかな」
とか
「根は楽しくやりたい奴で、仕事ロボではないんだよな」
とか、勝手に都合よく解釈してくれるみたいだ。意見衝突してもね、あやまって済む。
「また今度飲みましょうね」
と心にも無い事を言っても不自然じゃなくなる。相手との決定的な亀裂にならない。すっごく助かる。いわば俺は自分の身を守りたいの。これは僕のサバイバル術なのだ!
本当は飲み雑談のほうがムリしててシンドイのだよォ。
でも。さてさてどっちが本音なのかな。自分でも分からないとこある。ちょっとでも面白がってくれればその時は、楽しいは楽しい。
いやともかく! マジで騙されたと思ってちょっと練習してみて。
誰でもぽくなるから。
「エモルォ! fiキムァーーーthス!!」
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