文章を書くのが趣味です、なんてまだ言えない僕は

秋島歪理

文章を書くのが趣味ですなんてまだ言えない僕は

 言える?

 言えない?

 

 僕は言えない。

 オタク隠しと言うか、なんとなく気恥しいからというのも……ある。

 しかしそれは言えない理由そのものではない。


「休みとか、夜とか何してるの?」

「趣味とかあるの?」


 表現はともかく、『文章や物語を書くコト』、と答えたとする。


 この場合、返ってくる刃が、目に見えている気がする。


「へえ。どんなの書くんですかー?」


 な感じが、高確率で来るのではないか? 

 だって、他になんて言えばいいんだ。僕が訊いた方だとしても、やっぱそれは自然な流れでに次にきちゃうぞ。


 まして「かく?? ナニソレなんのコト」な人だったりすら、有り得るのだ。


 だいたい雑談において、この手の流れでの答えなら

「趣味は読書です」

「音楽鑑賞です」

「楽器ひきます」

「映画みることです」

 と色々とある。

 そしてやはりドレにだって、


「へえ、どんなの?」


 コイツは高確率で返ってくるだろう。思えば趣味を訊くのって、結構相手に踏み込んでるね。


 ま。それでも、端的なお返事が存在する趣味ならまだいい。

「ミステリ読みます」

「洋楽を聴きます」

「ギターを弾きます」

「映画は俳優で選んで見るタイプです」

 とか、範囲が収束していってだな。


 あの作家イイよね!

 あのバンドイイよね!

 へえ、エレキなん、アコギなん?

 あの映画の彼は名演だよね!


 ……とワイワイ進展するかもしれない。


 おしなべてそう上手くはいかなくて、会話がすれ違い続けてガッカリな感じで終わることだって多いけども。結構、どっちかがムリするけども。わりと、どちらかが余計に頑張ってたりするんだけど。

 けどそれでも、なんか友人に近づいてる感じあるよな!

 お互いを浮き彫りにしてるよ。消去法してるよ。話題がせばまってはいくからさ。どこかで合流するよ、きっと。その希望は高まっている。


 でも「小説書くの趣味です」あるいは「文章書くの趣味です」はどうかなぁ。


「どんなものを書くの?」


 と聞かれたらだなァ。

 まずこれを言わせた時点で、すでに相手に気を遣わせている。


 だって趣味を知らない、これから聞いてみようって距離感の人間だよ。その段階の相手が書いてる文章に、そうそう関心が持てるわけない。一般的にそうだろうと思う。少なくとも僕はそうだ。

(ぜひ読ませてほしい!)

 って気持ちで、心底から言ってくれてはないと思う。

 

 いやいや! そりゃね? 確かにわかんないよ!

 ひょっとしたら、同好の士かもしれない!

「あ、私も書くよ! あなたはどんなの書く? どっかに公開してる?」

 の可能性。あるにはある!


 もしくはあなたをすごく評価していて、要するになんかもう好かれてるかも、まで有りうる相手なら。

 きっと、真剣に聞き返している。何を書いているのか本当に知りたがってる。そして読んでくれて、なおかつ感想を定期的にくれて、続きをせがんでくれて、進捗をさりげなく聞いてくれたり、息詰まると気分転換に遊びに誘ってくれたり……。

 そんな、

〝物書きの思う合コンとか婚活とかの、理想の出会いとお付き合い〟

 みたいな展開だって、無いとはいえないよ。ホント、どっかに転がってねーかなソレ。しかし皆無ではないとはいえ……分が悪すぎるだろう、確率的に。


 ありえない事はない。ゼロでは無い。が、だからといって自分の身に起こってくれるわけじゃねーのだよねェ。ああ、イミフに悔しくなってきた。


 たとえ

「ふむ、どういうものを書くかって? こういう本ですよ!」

 とドンと書籍化された実物を出すことが出来る作家さんだったとして……いや、どうだろう。少なくともかなり盛り上がるだろうなぁ。きっと質問攻めにされるぜ。いいよなぁ。堂々と言える。

 ただ、この段階での盛り上がりは出版作家というものへの一種の珍しさであって、著作そのものへの興味では無い……と思う。まだそうじゃない。いきなりそこまでは直結しない。

 書籍化作家さんでも、ランダムエンカウントでそこまで漕ぎつけるのはきっと大変なのだねェ。きっと。想像だけど。


 いやあ、難しいじゃないかエッセイ。脳内でお人形遊びが終わらないじゃないか!


 さて、そういう小賢しい理屈っぽい思いもある。けど、結局のところ、僕は憶病なんだろう。だって文章ってのは何を書こうが、100%自分の責。全素材メイドイン作者脳内だ。逃げ場はどこにもない。文章で好かれようが嫌われようが、誰のせいにもできない。なんかヤなコトあって苛ついて書いちゃったー、とか疲れてアタマが働いてなかったーとか、挙句いろいろ調子が悪かったとか。

 そりゃ誰が悪いんだ?

『お前じゃい!』

 で終わり。後も先も無し。

 甘えが通じるのは、せめて書き手同士だ。一応、察しあえる。


 そして僕は書くコトに真摯だけど、きっと真剣ではない。

 だから書き手さんたちとは、交流をしていて、ひどく劣等感に襲われる。真剣になるかどうか自分でオンオフしちゃっている俺ごときが、て。そーいう感じ。でもやっぱり趣味ではあるだろう。自分の書いた文章読んで

(おっ、ココなかなかいいな。あ、やっぱこのくだりはいいな)

 とかニヤニヤできちゃうんだから。

 コレは性癖の意味での〝趣味〟に近いよね。要するは僕は、一種のヘンタイさんという気がするが。ふふ、いいか。まあいいだろ。書く人、色んなヘンタイさんいるから。

 自分は全くそうじゃない……だなんて、そうそう許されないんだ。やることやっちゃってるんだからさ。書くことをさ。

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