あと2年?待ってなくてもいいかな。
風子
第1話 立ち話もなんなので。
「あ、、、兄上、、僕はもう無理です、、、あと2年も耐えられそうにありません、」
そう言うと弟は寝台の上で転げまわった。
「エリーは、、、寝間着で、寝間着で、寝間着で、、、ああ、どうしたらいいんですか?耐えられません。柔らかいんです。ほわっって、いい匂いがするんです。
なのに、あの人、寝間着で、笑って僕を抱きしめるんです、、、」
急に真顔で呼び出されたので、何か重大な事件でもあったかと心配したが、なんか、のろけ?
「いつもの通りに隣に座れ、っていうんですよーーー座るでしょ?で、ぎゅうっって、僕を抱きしめるんです。いつも通りに。」
「いつも通りならよかろう?何か、そんなに問題が?」
「ぼ、、、僕も健康な18歳の男の子なんです。そんな、寝間着で、そんな!!」
うあああああ!!!と。大変だな。うん。年頃の男の子だもんね。うん、うん。
「今までだって、おまえたちはそんな感じだっただろう?」
「・・・怪我を心配して駆けつけた時は、無事だった!っていっぱいでしたが、
その時、寝間着だったから、エリーの中では、もう、寝間着で対応OK!になったみたいで。僕が行っても着替えはもちろん、ガウンさえ羽織らないんです!
・・・足の、、足の傷が消えてきたと見せてくれたり、、、二の腕のあざが薄くなったと見せてくれたり、、、、地獄なんですが、、、」
「ぷっつ」
「わ、、、笑いごとではありません!!兄上!!
僕の理性は後2年なんて持ちません!!」
「高級娼館にでも行っておくか?」
「な!!!!なんてことを!そ、、そんな不誠実な事僕にはできません!!
マールに言いつけますよ!あなたは、、そんな、、いくら、離れているからって!!そんなところに出入りしていたのですかああああ!!!」
「一度も行ってない。僕はマール一筋だから。限界なのはお前の下半身だろう?」
「か、、、、なんてことを言うんですか?!気持ちの、もっと、こう、切ない、心の問題であって、そんな、、、下半身だなんて、、、」
弟は枕を抱きしめて転げまわっている。
「いいんじゃない?ある程度なら。昔は一緒に寝てたりしたでしょ?お前たち。なにを今さら。」
「ね、、、、寝てたって、変な言い回ししないでください。小さい頃でしょ?今は、エリーはなんというか、、、女の人になってるんですよ!!」
「お前ね、そんなこと言ってるから、ロリコン疑惑が生まれるんだよ。」
「ろ?」
「ああ、隣国の王女様と禁断の恋か、なんて話も出ていたな。あの姫、真面目にお前の事狙ってるよね?ふふっ。あそこで2曲踊っていたら、なかなかに面白い展開だっただろうけどな。いよいよ婚約破棄、なんて噂まで出てるぞ。」
「あ、、、あにうえ」
駄目だな。見目麗しい銀髪にアメジストの瞳のこの国の王配候補は、ポンコツに成り下がっている。涙目だし。
「2年、あと2年もこんな生活無理だああああ!あにうえええええ」
「うん。そうだね。あと2年もかけることないか。ぱぱっと片づけるか。いいタイミングかもな。ここのところのお前の挙動不審も使えるしな。婚礼を一年早めるように
進言しとくから、お前、家に帰ってこい。王女殿下にはちゃんとお前が伝えろよ。」
「え?・・・・はい。そんなこと、できるの?」
「かわいい弟のためだからなあ。ふっ。」
「兄上、、、顔がちょっと怖いよ、、、、」
「お茶の準備ができました」
と、マーガレットの呼ぶ声。
*****
弟は王配候補として、10歳から王城に住み込みで帝王学を王女と一緒に学んでいる。僕は時々、お茶によって近況とかを聞いている。
王女殿下が階段から突き落とされる事件から2か月がたったが、犯人はあっけなく自害し、実行犯の父親もすぐに拘束したが、黒幕まではたどり着けなかった。
まあ、手取り早く跡継ぎを産んでもらって、王位を狙っている誰かさんにはあきらめていただきましょう、と、やんわりと、誠実に国王を説得すると、婚礼を1年早めるお触れは割とすぐ出た。
弟が実家に戻ると、噂好きの社交場はあることないことで盛り上がった。
アルバートがロリコンで、成熟した王女を受け入れられないので、逃げられる前に婚姻を結ぼうとしているらしい、とか。まあ、王配教育はすぐには出来ないからね。
隣国の王女と爛れた関係らしい、とかね。度重なる暗殺未遂事件に、精神的に追い詰められたらしい、とか。みんな、尾びれ背びれが付いて大騒ぎになっているらしい。いいね。
何を思ったか、実家にアルバートの見合い写真が届くようになった。
さすがに王女殿下のところに縁談を持ち込む猛者はいないが、じきに動くやつがいる。もう少し待とう。
アルバートは自宅から城に執務に通っている。
王女殿下は表向きは通常営業だ。内心はかなり腐りかけていると、侍女のマーガレットからの定例報告にあった。
毎年恒例の、皇太后陛下の離宮での舞踏会が近づいた。
アルバートには、王女殿下をエスコートできない旨を、なるべく丁寧に、手紙で出しておくように指示。大きな獲物には、大きなエサがいる。アルは心底嫌がったが、拒否権はない。
やがて、チャールズ次期大公爵から自分の髪と瞳の色のドレスが届いたと報告があった。エリザベス王女殿下のみならず、マーガレットにまで色目を使う茶髪野郎は、こともあろうに茶色のドレスを仕立ててよこしたらしい。あまりの趣味の悪さに、マーガレットがぼやいていた。
当日はエスコートさせてほしい、という手紙が付いていたらしいので、承諾させた。
食いついてきたな。
当日はアルを近衛騎士に仕立て、王女の側に控えさせる。準備は万端。
チャールズ公からサプライズの花火の申出があったというので、ここでなんらかのアクションを起こしてくれるだろうと期待する。
エリザベス王女殿下はやけなのか、ちょっとお酒が進んでいるようだ。チャールズ公が呆けた顔でその横顔を見ている。帽子を目深にかぶった近衛が、眉間に深いしわを寄せている。まだだぞ。
花火の音を合図に、人々が窓際に流れる。人ごみに逆らって、チャールズ公が王女殿下を横抱きに走り出す。予測した通り休憩室に向かっている。思わず笑ってしまったのを、駆けてきたマーガレットに咎められる。少し先を近衛が追いかけている。
王族用に準備された休憩室には内側から鍵を掛けられているらしく、近衛が体当たりしているところだった。早すぎず、遅すぎず現行犯で押さえたい。
近衛が突き破った先で目にしたものは、股間を押さえて震える茶髪野郎。
ここで、マーガレットが叫ぶ。
「きゃあああああ!!早く!誰かあああ!!王女殿下がチャールズ様にいいい!!」
迫真の演技である。いいね。警備騎士が集まってきたころには茶髪野郎を後ろ手に縛りあげた。騒ぎに、国王陛下も駆けつけている。終わったな。
王命ですぐに会場からの人の出入りを禁止する。この場で主犯格はほぼ押さえ終わる。王弟、その後妻、その実家のハリー侯爵家ご一同様、およびその取り巻き連中。
婚約者に去られた傷心の王女殿下を、身も心もお慰めしようとしたのだろう。いい筋書きだが、駄作だ。
8年前、チャールズを王配候補にしようとしたもくろみを、早いうちに国王に阻止されてしまった王弟派は、あの手この手で王女殿下を亡き者にするか、王配候補を排除するかしようとしていた。ここにきて、婚約破棄の噂が真実味を帯びだして、、、、
そしてまんまと失敗した。
後の取り調べで、チャールズが王弟の息子ではないことがわかったりと、話題に事欠かないが、まあ、処刑されるだろう。
一気に国内の膿を出せて、エリザベス王女殿下の治世はしばらく安泰だろう。
妹君のシャーロット王女殿下が成人とともに大公に下ることが決まったので、その時にまたひともめあるかな。
速やかな事件の解決と、王女殿下の貞操の危機の回避を認められ、国王陛下に褒賞を頂けることになった。長かった。
「ありがたき幸せ。
では、辺境伯令嬢、マーガレット嬢との婚姻の承認を。」
気が変わるといけないので、その場で婚姻承諾照明書にサインを頂く。
*****
長かった。
僕がはじめてマールにあったのは、父上の学生時代の仲間だという、辺境伯の領地。
初めて訪れたそこで、弟のアルと変わらない子が大人に混じって剣の練習をしているのを見かけた。僕は剣には自信があったので、対戦することになっても、こんな小さい子に、と心配したほどだった。
「手加減しなよ。」
と、その子の兄たちが声を掛けているのは、当然僕に対してだと思っていた。
リーチが長いので、僕は優位だった。パーン、とその子の剣を弾き飛ばして、あっけなく終わる予定だった。ところが、すぐさま足を払われ、いつの間にか僕の首元に剣を突き付けられ、、、、完敗だった。油断だった。僕が学んだ剣術は実践からは程遠いものだと認識した。不思議と、晴れやかな気分だった。空が青いなあ、と、思った。
狩猟会と聞いていたので、軽い気持ちで出掛けたが、それは実践訓練を兼ねた野営とサバイバル生活だった。しかも、一週間。簡単なツエルトと一人一枚の毛布。ナイフ。弓矢。火打石。一人に一頭の馬。水。非常食用の干し肉。
父は若い頃何度か来ていたようで、出発前から楽しそうだ。領地を北に向かって移動していく。最終日は国境近くまで行く予定だという。
11月と言っても辺境の地は寒い。夜ならなお。僕は、さっきの子と組んで進むことになった。マール、というらしい。狩りをしながら進む。マールは、山鳥をとると、血抜きしていた。
「こうしないと、おいしくないんだよ」
「・・・・ん、、きみは小さいのにすごいね。馬に乗るのも上手だ。」
「・・・ありがとう、、、」
初日は僕は何も狩れなかった。馬から矢を射るのも、突然現れる野生生物も、何もかも初めてのものだった。風も冷たい。
僕がたくさん詰め込んできた知識は、ここではなんの役にも立たなかった。11月は寒いこととか、空が思ったより広いこととか、食べれる木の実とか、紅葉の美しさとか、、、
原則、自給自足なので、マールの獲った山鳥をさばいて、焚火を起こして焼いて食べる。もう、夕闇が迫っていた。息が白く見えるほど冷え込んできた。マールが沸かしたお湯で紅茶を入れてくれる。その温かさにほっとする。
山鳥が焼けるまでの間、ツエルトを張って、落ち葉を敷き詰めて毛布を一枚かぶせ、ベットを作る。手際の良さに感心する。大人たちは大きな焚火でもう宴会が始まっているようだった。
「ん」
とマールがよこしてくれた山鳥を受け取る。ほんのり塩味。お腹がすいていたので、遠慮なくかぶりつく。お腹がすいた、という感覚も、なんだか久しぶりのような気がして、小さく笑った。
「美味しいね」
「ん、、、」
僕たちは落ち葉のベットで一つ毛布にくるまって眠った。
体温が高いマールは抱きしめていると温かかった。人の体温て、温かいんだなあ、と、感心していたら眠ってしまった。
次の日も朝早くから野営の撤収と急ぎ足の朝食と、これは紅茶と硬いパンと干し肉、をとって、出発した。
ウサギを3羽獲った。皮の剥ぎ方を聞いて、やってみたが、吐きそうだった。
肉は晩御飯になった。
3日目は狐を獲った。皮を剥いだ。狐の肉はたべないらしく、穴を掘って埋めた。
4日目にはきれいな湖の近くに着いた。ここには領主の別荘があるらしく、先回りしていた家人が料理をふるまってくれた。肉や皮を置いていく。皮をなめしたり、肉を加工したりしてくれるらしい。
湖の反対側まで回り、この日も野営。身体もだんだん慣れてきた。マールもよく話すようになって、王都の話をしてくれるようせがまれる。夜、星が湖に映って、こんなに美しいものを見たのは初めてだと思う。真っ暗な夜、ってすごい。自分が本当にちっぽけに思える。
同じ毛布にくるまるマールが居なかったら、泣いていたかもしれない。
「ほら、見て!流れ星が届きそうよ!」
マールと星空を眺めながら、なんとなく、自分が人間になってきた気がした。
小さい頃から、公爵家嫡男として教育を受けてきた。実母は早くに亡くなってしまったが、継母もいい人だと知っている。3つ違いの弟は慕ってくれる。感情豊かな、すぐに泣くいい子だ。教養、社交、礼儀作法、剣術に領地経営、たくさんのものを詰め込んできた。息が出来なくなるほど。予定された人生をたんたんと進んでいるような。
実際、分刻みのような毎日に、感情を表現する場はあまりなかった。大人に囲まれて、、、早く大人になっていくんだろうと思っていた。
なぜ急に父が、辺境伯の狩猟会に行こうと誘ってきたのか、しかも、忙しい中1か月近く休みを取って、、、
「フィル、早く!お願いをしよう!流れ星にお願いするとかなうんだって!本当よ!
こんなにもたくさん流れる星に、お願いし放題だね!!」
マールが笑って、くっついたまま僕を見上げる。
ほんとに、お願いし放題だ、と僕も笑った。
何かがゆっくりと溶けていく。マールのきれいな瞳に星が映っている。
空に湖にマールの瞳に、、、星が煌めいて、泣きそうだ。
あっという間に最終日の朝になった。
野営地は国境近くの山麓だった。
白い息を吐きながら、毛布にくるまってマールと昇ってくる朝日を眺めた。雪を被った山頂を銀色に染めて、光が届く。
「フィルの髪は、冬の朝のようだね。キラキラしてきれいだ。」
マールは一本に無造作に縛った黒髪を揺らして僕を見上げた。
「マールの瞳は、新緑のようだね。見ていると、温かい気持ちになるよ。」
「ありがとう。」
うれしそうに、マールが笑う。
マールが居てくれてよかった。
最終日は一気に山麓を下り、館まで早掛けするらしい。
どこまでも、戦前提なところがすごいと感心。
名残惜しいが、マールに後れを取らないように駆ける。
馬を休ませながらも、夕刻には館に着いた。
僕はマールの兄たちによくついてきたな、とほめられ、頭をもみくしゃにされ、風呂に連れていかれた。
「あ、マールは?」
「ああ、ちび助はさっき母親につかまってたよ。真っ黒だからごしごし洗われてるよ」
と、兄たちは大笑いしていた。久々のお湯は気持ちがよかった。
湯から上がり、晩さん会のために正装に着替える。
久々に髪もなでつける。当たり前だった服装が、少し窮屈に感じる。
会場に入ると、もう大人たちは酒盛りを始めていた。
「おお、来たか、酒はどうだ?」
と悪乗りする父をかわす。辺境伯に挨拶をして、マールを探すが、まだ会場に来ていないらしかった。
「マール?ああ、ほら、来たよ!」
マールの次兄が指さしたほうを見てみると、若草色のドレスを着た黒髪の女の子がこちらに歩いてくるところだった。
「フィル!遅くなっちゃった!ご飯はもう食べた?あっちのテーブルで一緒に食べよう、ね?」
「マール!ご挨拶は?」
と、母親に言われて、女の子はあわててスカートをつまんでお辞儀をする。
「ふふっ、フィリップ次期侯爵様、お食事ご一緒いたしましょう?」
僕は、、、、真っ赤だったと思う。顔も耳も。
若草色の瞳が僕に微笑んでいる。
「ま、、、、マール?」
「はい、辺境伯の娘、マーガレットです。」
マーガレットは当たり前のように僕の腕を取って、テーブルに連れていく。
マールの兄たちは真っ赤になった僕を見て、にやにや笑っている。
「か、、、」
「か?」
「かわいい、、、、」
「ありがとう、フィル!フィルも絵本に出てくる貴公子みたいよ!!」
僕が恋に落ちた瞬間だった。
それからの僕の行動は早かった。
父に頼んで、正式にマーガレットに婚約の申し込みをした。
マールをかわいがっていた辺境伯は渋ったようだが、彼女の母と兄たちが説得してくれたらしい。
マールからは時々手紙が届く。
僕は屋敷の中庭の東屋でそっと開く。
春を見せてあげたい、とか、飼っている犬が子犬を産んだとか、ダンスの練習が始まったとか、、、、夏になったら湖の近くの別荘に避暑に行こうとか、、、
毎日は相変わらず忙しかったが、マールからの手紙を読むときは、時間がゆっくりだった。ほんわりとお腹の底が温かくなる。
眼を上げると、庭園のバラも、よく手入れされた木々も綺麗に色づいている。
自分の周りがこんなにもいろいろな色に彩られていたことに気が付く。
僕たちは夏は湖近くの別荘で過ごし、初冬は狩猟会で過ごした。
婚約してからも、一つ毛布で二人でくるまって眠った。
晩さん会にはマールに紫に銀糸の刺繡が入ったドレスをプレゼントした。
「僕と踊っていただけますか?」
僕たちは宴会で盛り上がる大人たちから少し離れて、ダンスを踊った。くるくる、と。
そして、マールが10歳、僕が13歳になった年に、、、婚約は王命で突然解消された。
8歳になったエリザベス王女殿下に王弟の嫡男であるチャールズ様を王配候補に推す不穏な動きがあった。もちろん、いとこ同士の婚姻はこの国では可能だ。ただ、、、もともと王弟の後妻に入ったハリー家の御令嬢に不義の疑惑があり、なおかつ、このハリー家が反体制勢力を焚きつけて、この婚約を認めさせようと画策した。
王家は素早く反応した。王弟に継承権を返還させ、現王派である公爵家の次男、アルバートを王配として発表した。驚くほどの早業だった。
国王に呼び出されていた父が、帰ってくると、僕ら兄弟はすぐに呼ばれた。
疲れ切った顔をした父は、言いにくそうに話しだした。
「アルバートが、エリザベス王女殿下の王配として正式に発表される。近日中だ。
アルバートはすぐに教育が始まるので、王城に上がることになるだろう。
心しておいてくれ。
そして、、、、」
父は申し訳なさそうに僕を見た。
「フィリップとマーガレット嬢の婚約は、、解消される。
公爵家から、王配と、辺境伯からの婚姻では、その、、力のバランスがおかしくなるのでな、、、
マーガレット嬢は王女殿下の侍女として城にあがることになった。護衛を兼ねていることと、年齢的に王女殿下に近いことで。ただ、辺境伯が現王派であることを伏せるために、家名はあかされない。・・・・力足らずで、、すまない、、、」
アルバートは王城にあがった。
僕のもとには、差出人の名前のない手紙が一通届いた。
押し花になったエーデルワイスが入っていた。
『美しい思い出』
祖母から、マーガレット嬢を養女にする提案があったが、やんわりと断った。
もちろん、そうすることが二人が結婚するための最短の方法であることは承知していたが、、、、
僕は急いだ。学院を2年でスキップした。
15歳で宰相補佐として執務を始め、王城に執務室を持つまでになる。
その間も、美しい思い出、にならないように、マールに会いに行った。まあ、弟の様子伺い、として。もちろん、教育の情報は把握していたので、ダンスの練習の時は必ず僕がマールの手を取った。
マールが可愛いのがばれないように、黒の侍女服を着せ、飽き足らず、黒ぶち眼鏡もかけさせた。変な虫が付かないように細心の注意を払う。
そして、マールが16歳の時、僕はアメジストのネックレスをプレゼントした。
酷い独占欲だと思う。我ながら。
僕たちはそれからは、毎日のように僕の執務室で会った。わずかばかりの時間だったけれど。
長かった。
8年もかかってしまった。
「僕と踊っていただけますか?」
マールの手を取って踊りだす。何万回目かの愛の言葉を耳元で囁く。
あと2年?待ってなくてもいいかな。 風子 @kazeko
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