第4話 試験開始

 王立グラツィオーソ学園

 王都にあるこの国唯一の魔曲師育成機関。

 この学校を卒業しなければ魔曲師を名乗ることはできない。

 学校には一般の人から王族まであらゆる身分の人が入学できる。

 ここまで聞いて、身分の差による差別があるのではないかと思ったけど、国の法律によりこの学校の生徒はただの生徒としてのみ扱われそこに身分の差は存在しないらしい。

 もちろん簡単に入学することができる学校ではない。

 しかし、魔曲師自体が平民が目指せる職業の中ではなかなかに稼げる職であるうえ、上位身分の人にとってもこの学校を卒業したというのは社交界においてかなりのアドバンテージになるようで、志願者の数も相当多いという。

 なんとその倍率はおよそ4倍。とんでもない!

 そして、今日はその試験の当日。

 ボクたちは試験を受けるために昨日のうちに王都へとやってきた。

 今はボクとアリアは歩いて試験会場へと向かっている。

 ちなみに師匠は昨日ボクたちを宿泊先に案内した後すぐに帰ってしまった。

 師匠はボクとアリアなら試験は余裕で合格できるといっていたけど・・・自信ないなぁ。

 一応今日まで師匠に魔力をコントロールする方法や試験で必要になる知識などを一通り教えてもらったけど・・・

「いよいよですね。ちょっと緊張してきました」

 隣を歩いていたアリアが深呼吸をしてからそういった。

「アリアなら大丈夫だよ。ボクのほうこそ魔法を習い始めてまだ日が浅いからどうなるかわからないよ」

 ボクの言葉にアリアが笑顔で口を開いた。

「カナデは筋がいいと師匠が言っていたので大丈夫ですよ」

 そうだといいんだけど。

 それにしても王都というだけあってこの町はすごく大きい。

 石造りの家が立ち並んでいて、町の中心には大きなお城がそびえたっている。

 これぞファンタジーって感じの光景だなぁ。

 たしかあのお城の周りに上位身分の人の家があるんだっけ、どんな感じなんだろう。

 卒業式はお城行われるみたいだからいつか行くことになるのかな。

 王立グラツィオーソ学園はその上位身分の人が暮らす区域といまボクたちがいる一般身分の人が暮らす区域の境目のあたりに存在している。

 ところで昨日から気になっていたんだけど、町中には音楽が流れている。

 まるでファンタジーゲームにでも流れていそうな音楽だ。

 この音楽も魔法の一つなのか、町に着いた時から体が軽くなったような気がする。

 いろいろな魔法があるんだなぁ。ボクもいつか魔法でいろいろなことができるようになるんだろうか。

 そんなことを考えながら歩いていたら、アリアが前を指さして言った。

「あ!あそこじゃないですか?」

 その先には見上げるほどに大きな石造りの門があった。

 さらには学園を取り囲むように石壁がある。

 学校の壁の一部は城壁としても存在しているみたいだからだろうけどそれにしたっておっきいな。

 門には受付のような場所があり、その近くには大勢の人がいる。

 おそらくあの人たちも受験者なんだろう。

「行きましょう!カナデ!」

 アリアが駆け出した。

「ちょっ!待ってよアリア!」

 ボクはアリアを追って駆け出した。


「はい、以上で登録はおしまいです。ご検討をお祈りしています!」

 受付はすぐに終わった。

 後見人である師匠の名前を見たときに受付が少し騒がしくなっていたけど何だったんだろう。

 もしかして師匠って結構名前が知られている人だったりして。

 でもアリアも知らないようだからな。今度聞いてみよう。

 門の先は石造りの校舎が見える大きな広場だった。

 前方と左右には閉じている扉がある。

 すでに大勢の受験者が集まっている。

 中には見るからに身分が高そうな服を着た人や反対に街中でもよく見かけたようなか格好の人もいる。

 ほんとうにいろいろな人が受験するんだなぁ。

 しばらくすると前のほうに先生と思しき人がやってきた。

「時間になったので、これより本稿の入学試験を開始します。試験の内容は前半は筆記試験、後半は魔法の実技試験です。前半後半の両方の試験の上位120名が合格となります」

 多くの受験者がごくりと喉を鳴らすのが聞こえた。

 120か、ここには500人近くはいるだろうからほとんど落ちるんだ。

「では、これから受験者は筆記試験の会場へと移動してください」

 その言葉と同時に閉じていた右側の扉が開いた。

 その先が筆記試験の会場なんだろう。

 ボクは気を引き締めなおす。

 いよいよ本格的に試験スタートだ。

「お互い頑張ろうね、アリア」

「はい!カナデも頑張ってください!」

 ボクたちは筆記試験の会場に向かった。

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