第三章 神聖国
第38話 入国
町から国境までの道のりはある程度の幅のある道が出来ていてわかりやすかった。
綺麗に舗装されているわけではないけれど、馬車等がよく通る道の為かそれなりの幅が平に慣らされている。
偶に馬車も通るが、道が広いので避けるのにも困らない。
地図上では国境までとても近く見えるが、私が歩いて向かうと2日程だとエリスが言っていた。
途中に小屋があり、中には何も無いが一応誰でもそこに泊まって良いようにはなっているらしい。しかし、女の子1人なのでくれぐれも注意するように言われた。
基本的には町も国境もすぐ近くなので、その小屋に馬車が泊まる事はほぼ無い上に旅慣れた熟練者は朝早くに出発して一日中歩くらしい。その為、小屋の利用者はあまり居ない。そして、わざわざこんな国境近くで犯罪に手を染めるような者も少ない為、小屋や国境沿いは比較的安全であるようだ。
国境には見張り塔と要塞が設置されており領土を守る為そこの領地の兵士と国から正規の兵が配置され、有事の際は封鎖等も出来るようになっている、とギルドの資料に載っていた。
多くの者は安全で整っている国境に設備されている宿や設営場所等で休む事が多いらしい。
そして、出入国の際には身分証が必要と書いてあった。
もちろん私は冒険者になったので身分証は問題ない。
途中にある小屋へは無事に辿り着いたが、本当に何も無いボロい小屋だった。屋根があるだけマシといった小屋だった為、わざわざそこに泊まる気にはならなかった。
疲れてもいないし、本当は寝る必要も食事を摂る必要もないので、夜の散歩がてら道中も進む事にした。
夜の散歩を楽しみつつ、目についた薬草を摘みながら進むと翌日の朝方に国境の門へと辿り着く事が出来た。マントや荷物のせいか、あまり目立つ事もなく問題なく国境を越えて神聖国へと入る。
国境を越えてから、半日も歩けば一番近い街へと辿り着いた。
神聖国に入ってから、なんとなく道が広くて綺麗になった気がする。
若干綺麗な道沿いに進むと途中から他の道も延びているし、馬車や馬の交通量が増えた。
街の入り口には大きな門があり、街へと入る所には人の姿もある。そして、歩いて通るひとの横を馬車や荷車を引いた馬が簡単な検査のみで通過していく。
私が通る時も手続きは簡単な物でギルドカードを見せるとすんなりと通してくれた。
この街からは他の場所への移動用の馬車もあると聞いていた通り、馬車の往来も多いし道もそれなりに整備されているようだ。
神聖国は教会の力が強い宗教国家だと聞いていたので質素な雰囲気を想像していたが、街は華やかで活気に溢れ賑やかな様子だった。
前の町とは違い、全体的に建物自体が二、三階まである家が多い上、しっかりとした石や煉瓦造りの小洒落た建物が多い。そして、さすが結構な大きい街だけあり、ぐるっと見渡すだけでは街全体の様子を把握する事は出来ない。
門の近くに大通りがあったのでそこを進んでいるが、周りの建物自体が高い上に見通しも悪いので、何も考えずに路地や裏道に入り込んだら迷いそうだ。
街の規模に合わせて人もお店も多いので街全体は活気に満ちている。
『主様、この大通りを真っ直ぐ行って右に曲がってしばらく行くと冒険者ギルドがあります』
初めての街にキョロキョロと辺りを見回す私にベルが声を掛けてくれた。
「ありがとう。…とりあえずギルドで納品して、少しこの街や国について調べてみようかな」
人も多くて賑やかなので、小さめの声でベルへと返事をしつつギルドへと向かう。
ベルの周りを初めて見る光達が飛んでいる。この国の精霊達なのだろうが、ベルも光達もなんだか楽しそうな様子で私もなんだか楽しい気持ちになる。
ギルドは人通りの多い道に面していたのですぐに見つける事ができた。大きな街だけありギルドも大きく迫力がある為、扉をくぐる前に思わず見上げてしまう。
ギルドの手前で立ち止まってしまった私の横を特に気にする様子もなく、色々な服装の冒険者らしき人達が通り過ぎて行く。
口を開けて見上げるなんて、田舎者っぽい行動をしてしまったことを少し恥ずかしく思いながら私もいそいそと大きな扉を潜る。
中に入ると見た目通り中もとても広かった。
人が多いはずなのに中が広いため圧迫感を感じない。大きな掲示板のある広々としたフロアにはテーブルや椅子、ソファなども設置され冒険者らしき人々が思い思いに過ごしている。
カウンター正面には受付が設置され、左奥に納品の受付もある。右奥には下へと降りる階段もあり、どうやら訓練所まで設備されているようだ。
何やら上へと上がる階段もあり、どこかお洒落な洋風の役所的な雰囲気だ。
親切な館内図などは無いけれど、雑な字で案内標字が書いてあるので、いちいち受付で場所を聞く必要は無さそうだ。
そんな受付も広くて職員の数も多いので混雑している様子もない。
この建物の近隣には食事やお酒を提供するお店がいくつかあったためか、このギルドには飲食店は付いていなさそうだ。
国が変わるとギルドもまた違った感じなんだな…
前にいた町とは全く雰囲気の違うギルドの様子に端によってしばらくぼうっと全体を確認する。…まだ着いたばかりだが、街全体の雰囲気もギルドも前の町と全く違う。何より違いを感じるのは建物の飾りに精霊のような彫刻が多い事だろう。
さすが精霊を崇める宗教国家だけあって、ここに来るまでも街の色々な部分に精霊をイメージさせるものが多かった。そして、それが一層街を華やかに見せている。
『主様、これは私たちの姿を元に作られているらしいですよ』
ベルはそう言いながらギルドの柱に掘られた様々な精霊の彫刻を指してみせる。
ギルド内にも街と同じ様に精霊関係の装飾が多く、ベルは私に説明しつつも興味深そうに精霊の彫刻を見てまわっている。
フロアの端の方へ寄って物珍しげに彫刻類を見てまわるベルとギルド内にいる冒険者達を見渡せば、前の町よりも冒険者の質は高そうに感じた。
更に見渡して後で向かう予定の納品場所を見ていると、強そうな人が手ぶらで納品受付の人に声を掛けている。
これは…別の搬入口があるのか、マジックバック的な物を持っているのかどっちだろうか。
『主様どうかしましたか?』
私がじっと納品受付の様子を見ているとベルが戻ってきた。
「あ、うん。他の人は納品する時どうしてるのかなって思って…」
『…そうですね、ここは他にも出入り口があるようで、大物はそちら側に持っていくみたいですよ』
「へぇ…そうなんだ。マジックバック的な物を持っているわけではないんだね」
『それを使っている者もいます。ただ、あまり持ってる人間は見かけませんが…』
そう言いつつギルド内をぐるりと見渡したベルはフロアでくつろぐグループを指差す。
『あ、あそこの白髪の人間が持ってる袋はそうですね』
教えてくれたのは、少し高そうな装備を身につけたグループにいるインテリ風の魔法使いっぽいおじさんだ。
なるほど、確かに今このギルドにいる人間の中では強い部類の人達だ。
『あ、あのマントの人も持ってます』
ベルに教えて貰いそちらを向くと背格好は成人男性っぽいマントで全身を隠した男がいる。
なんか怪しい…
自分もマントをすっぽりと被っているし、他にもマントで姿が見えない人もいるはずなのだが、あの男だけなぜか不審に感じてしまう。
何故かなと思いつつ考えてみて気がついた。他にマントを被っている人達はチラチラと顔や手、中の服などは見えているのだ。
しかし、あのマントの男は一切中の様子が見えない…
『あ、あのマジックバックを持ったマントの人間、なにやら魔法を使ってますね』
ベルにそう言われてしっかり見ると確かに身体全体を薄い膜の様な物が覆ってるのが見えた。
…なるほど、だから何も見えなかったんだ。
それにしても、そんな魔法があるなんて…。
新しい魔法を見る事が出来てワクワクする。私も使いたいので男の魔法をじっと解析しているとその男がこちらを向いた。
私は前回の失敗を踏まえておかしな人と目が合わないように深めにフードを被っている。
相手のマントからも私の顔は見えていないはずだ。
…だから目は合わないはずなのだが…
…なのに、お互い顔は見えない筈なのに何故か目が合っているような気がする…。
あれ…?
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