第5話 【八神side】

「八神君かっこいいよね。いつも頼んでるけど今井さんも好きなの?」


「そうだね。…かっこいいよね」



帰りが少し遅くなり、たまたま1人で通りかかった他のクラスから今井さんの声が聞こえてきた。


…そして聞こえてきた、いや聞こえてしまった。


『そうだね。かっこいいよね』

『そうだね。かっこいいよね』

『そうだね。かっこいいよね』




まさか、今井さんからそんな言葉が聞けるなんて。


想像の中でしか聞けないと思っていた言葉。


なぜ録音していなかったのか、後々本当に後悔した。


思わず立ち止まっていた教室の前で、聞き間違いか、人違い(今井さんを間違える筈は無いが万が一という事も無くはない)かと思い、そっと覗いてみるとそこには間違いなく今井さんが。


手元を見ると数枚の僕の写真。


『いつもたのんでるけど……好きなの』


もう1人の女子が、さっき確かにそう言っていた。


妄想でも幻聴でもない、現実だ。


気づかなかっただけで、今井さんも僕の事を想っていてくれたのだろうか。


…これは、…俗にいう両思いなのではないか??


思わぬ事態に混乱しているとうっかり2人に気付かれてしまった。


2人は少し気まずそうにして顔を見合わせるとさりげなく写真を隠してペコリと頭を下げて慌てて去っていってしまった。


僕はこの時、声を掛けるタイミングを逃してしまった事を後悔する事になる。




…自分の写真が出回っている事は知っていた。


だが、自分も誰にもバレずに撮った今井さんの写真(米粒程の大きさ)を大切に携帯と家のパソコンに保存してある。(誰にもバレずに撮りたくてもいつも周りに他人が居て無理だった)


つまり、僕と今井さんは同じ気持ちだったということか?


逸る気持ちを抑えつつ友達(男)に今井さんの名前は伏せつつ相談をしてみた。


イヤそうにだいたいの女子は僕の事を好きだと言われたが、だいたいでは困る。


今井さんの気持ちを知りたいのだ。


とりあえず、嫌いでは無い筈だと言われたので距離を詰めて様子を見る事にしてみた。



それまでは自然な感じで声を掛けようと思ってもなかなか難しかったし(鉄壁のガードのせい)、無理をして今井さんにドン引きされるのだけは避けたかった。


しかし、両思いなら話は別だ。今なら大丈夫なのではないか。…いや、焦りは禁物だ。


今井さんが1人かつ僕も1人の時にさりげなく声をかけるようにすることから始めてみた。


挨拶もしたし、ドキドキしながら名前も呼んでみた。


距離もいつもより少し近くに寄ってみた。


今井さん、可愛いな。


いや、心の距離は全く近付いた気はしないが、今までになく接近している。


幸せ過ぎてついうっかり周りの事を忘れてグイグイ行きそうで危い。



友達(男)曰く、『お前に迫られて嬉しく無い女子はほぼいない』と言っていたが、…なんとなく、今井さんが嬉しいと思っているようには感じなかった…。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る