え、勇者って私の事好きなんですか?

青太郎

第一章 現代

第1話 プロローグ

学校の帰り道、裏通りの方から聞き覚えのある声が聞こえた。


いつもは通らない道だが、今日は何故かこちらの道を通りたくなった。


何気なくそちらの道の方へ行ってみると、そこには、なんと驚きの光景が。


人通りのない裏道に光る魔法陣。


その横には、クラスメートの男子が2人。八神君(イケメン)とたぶん親友だと思われる地味系男子(よく見ればイケメン)鈴木君がいた。


これは…まさに少し前に流行ったファンタジー定番の召喚風景ではないのだろうか。


ずっと見てみたいと思っていた光景をまさか本当にこの目で見られるなんて。


私は思わず小さくガッツポーズをとった後、ウキウキとした気持ちで物かげからソッと彼らを見守った。


彼らの前には、いかにもといった様子で光る魔法陣。


ん、なんか見覚えのある。


…遠い昔すぎてハッキリとはわからないけれど、なんだか懐かしい気配がする。


まぁいいか。


気を取り直して彼らを再び観察する。


はて、なぜ魔法陣は彼らの下ではなく前にあるのだろう…。


…自らお入りくださいってことか?


いや、そんな親切設計の魔法陣は聞いた事ないのだが…。


…最新…とか…?


更に…魔法陣は少しずつ範囲を広げている気がする。


指標がズレたのかな?


なんだか、少し思っていたのとは違う召喚風景だが…まぁ、そういう事もあるだろう。



何やら魔法陣から語りかけるような声が私の頭の中にまで聞こえてきた。


可愛い女の子の声でこの世界を救って的な事を言っている。


こんな可愛い声ならきっと本物も可愛いだろう。


どうもこれは勇者召喚系っぽいな。


この主人公要素満載の2人には、ぜひ声の主を助けるために早く魔法陣へと入って欲しい。


いや、きっとこの2人ならすぐに迷わず入ってくれるはずだ。


…そう思っていたのだけど…


一向に入る様子はない…。


どうも2人は入りたく無さそうな様子で軽く揉めている。


魔法陣を前にして、どうやら地味系男子の鈴木がイケメン男子の八神に魔法陣へ入るようにと説得しているようだ(鈴木グッジョブ)。


だが、八神はそれに納得出来ず、拒否している。


いっその事2人で行けば良いのに。


仕方ないから鈴木が行くのか?と思うけど彼も拒否しているようだ。


私的には正統派な八神が行ってほしい。



お互いが主張を繰り返し言い合いに発展しつつある。


あ、ついに鈴木が実力行使に出た。…が、逆に鈴木が魔法陣へと入れられてしまった。


しかも、どうも入った途端に足が中に引きずり込まれて出られなくなったようだ。


この間ずっと、可愛い声が魔法陣から呼びかけ続けている。


足が徐々に魔法陣の中へと入っていく鈴木。



必死に手を伸ばすが八神にはあと少し届かない。


八神はきっと助けようと手を伸ばすのだろう。


…ギリギリ届かない距離で八神は鈴木を見守っている…。


まだ、見守っている…


見守っている…


見守っている…



…あれ、助けないの?



このままいくと八神だけが残ってしまう。


しばらく様子をみるが、鈴木が何を言っても八神に助ける様子はみられない。


すでに鈴木の足は太ももまで入っている。


少し悩んだ後に私は決断した。


しょうがないな…



私は今の自分を確認し、不自然なところがないかチェックする。


よし。



「…あれ?八神君?こんな所で何してるの?」


不本意だけど、とっても不本意だけど…私は腹を決めて姿を表すことにした。


すでに鈴木の身体は腰まで埋まっている。


私の登場により、鈴木、八神の両名がちょっと驚いたようだ。


しかし、そんな2人を気にせず、わたしはわたしの仕事をしなければ。


「あ、鈴木君!…大変!

八神君何やってるの?早く鈴木君を助けてあげないと!!」


突然の出現に驚いた顔でこちらを見ていた八神にタタタっと近付き、腕に手を添える様に見せてさりげなく鈴木の方へと押し出す。


驚いた様子の八神は力が入っていなかったのか、鈴木の方へと簡単に押し出される。


同じように驚いた顔をしていた鈴木がハッと我にかえる。


そして、私の思惑通り鈴木が八神の足をガシっとつかんだ。





よし、任務完了。





慎重に様子を観察しつつ行動していた私は足を掴まれて焦った様子の八神からさりげなく距離をとる。


「え、ちょっ、斗真!離して!僕まで巻き込まれるだろ!」


結構酷いセリフを吐きつつ焦る八神。


「くそ!!もともとはお前が原因だろ!こうなったら絶対離さねぇ!!」


少しヤケクソ気味な鈴木。


私は念のため驚きを装いつつ後ろへと後退り、距離を空ける。


徐々に魔法陣のサイズも広がり八神も足が埋まる。


様子を見つつなんとか八神の手の届かない位置まで戻ることが出来、ほっとする私。



後は2人が消えるのを待つだけだ。



「離せって!ちょっと!斗真!!…もう、こうなったら!」


焦った様子の八神がくるりとこちらを向き鈴木ではなく私へと手を伸ばそうとする。


あきらかに私を巻き込もうとするつもりの行動だ。


しかし、私はすでに手の届かない場所に避難している。抜かりはない。


「え、今井さん?…今井さん、手を!!」


八神は私を真っ直ぐに見つめて手を伸ばす。


いやいや。無理でしょ、普通。


掴んだら私まで行っちゃうじゃん。


「私、だれか人を呼んで来るね!」




とりあえず、悪気は無いですよ~って感じで更に距離をあけようとした瞬間、魔法陣から光が溢れ出す。



眩しくて眼を閉じる瞬間、魔法陣が大きく広がった気がした。


光の渦に私も引き込まれる感覚がある。


いやいや、最終的にこんなに広がるならさっきのくだりは要らなかったんじゃ…?



あきらかに私は関係ない部外者だと思うがそんな訴えが相手に届く筈もなく、私も光の中の魔法陣へと引きずり込まれる事となった。


そして騒がしかった路地は静寂を取り戻したのだった。


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