02 要解凍

「神代さん!もしよかったら一緒に部活動選ばない?」



「ん、別にいいけどー」



「やった!お昼一緒食べながら午後の事話そー」



「おっけー」



「クルミ、午後開いてたらどっかいかねぇか?」



「先約があるので」



「あららフラれちゃった?」



「ふふっ、また今度誘ってください」



 学校設備の紹介、自己紹介、教科書販売を一通り済ませると容易く時刻は十二時を回る、この学校初めての昼休みにして僕の人生最初の昼休みでもあった。


 そして初対面の生徒達が繋がりを作る時間。

 僕も端で昼食を済ませる気はサラサラない勿論自分から行動する。


 手始めに席周辺の男子生徒に話しかけてみる所から始めよう。既に行動力のある何人かの生徒は神代やクルミに話しかけているし繋がりを作るには自分から話しかけるのが最善だろう。



いぬい君と塩竿しおざお君だったよね?」



「楠シオン君......だよな?」

「.........何か用でも?」



 僕の前方にて机を対面にして座っていた男子生徒二人。


 坊主頭の側面にラインを二本刈り上げて入れているのが乾君。

 黒縁の眼鏡にくせっ毛を伸ばしっぱにしているのが塩竿君だ。


 自己紹介で喋っていた名字で呼んでみるとしっかり振り返って反応が返ってくる。掴みは微妙だろうか、だが焦ることは無い。

 彼等の手元に映るスマホゲームと入学したての会話テンプレートで何とか話せるようにはなるだろう。



「それって『ソール&ルナ』だよね?」



「知ってるのか』?!」

「く、楠君もや......やってるの?」



「フレコ教えてくれれば、即参加出来るよ」



「おっけーじゃ、ここ座って」

「い、今そこの人学食行ってるらしいので、多分大丈夫だと思います」



「ありがとう、二人共」




『ソール&ルナ』



 太陽ソール陣営はUMAクリーチャールナ陣営は人間。それぞれの陣営で三対三若しくは五対五のプレイヤーに別れ、個性豊かなキャラクター達を用いて自陣営の勝利条件を先に満たした方が勝ちの一人称型PVPゲームだ。

 課金要素はキャラクタースキンや武器スキンしか無く、運営が競技用に調整しているのもあってキャラや武器バランス、逆転要素が上手く噛み合うように設計されている。ファンネルでも旧式のゲームを好む人達も数多くいるが、ソール&ルナは中でも特段人気のゲームだった。

 スマホを買って戯れに触っていたのが吉と出て内心喜ぶ。


 フレコを交換してすぐフレンド申請が届き、OKの文字をタップする。

 相当課金しているのかカッコイイスキンに身を包んだキャラクターが二人ロビーに現れる、初期スキンの僕が哀れに見えた。


「何戦かやった後、昼にしよう」


「さんせー」

「ぼ、僕もそれが良いと思います」



 乾君の言葉を皮切りに戦闘開始ボタンが押された。


 僕達は人間陣営に属している、僕の使用キャラクターは『リップス』

 特質した身体能力は無いが【能力】としては『与えた、与えられたダメージを治癒する行為を否定する』という強力な特殊能力を持っている。また使用可能武器が近接武器しかないため、必然的にキャラコンや卓越した視野と立ち回りを求められる玄人向けのキャラだ。



「――あっやば、タゲられた」



「逃げれそ?」



「わんちゃんーー......無かったごめん」



「わかった、あとは任せて」



 最後乾君のジェイスルが倒されて戦場に残る人間陣営は僕だけとなった、しかも相手はフルメンバーというほぼ詰みの状態。

 相手の構築はかなり考え抜かれて作られており隙がない、言わゆるガチで勝ちに来ている編成だった。



「クラン周回に巻き込まれるとはなー」



「こ、ここ、この前の全体ランキング載ってた相当強いとこだよ」



 なるほどそれは運が無い、全員通話のフルパはさぞ楽しいだろうが野良が混じったパーティにとっては反則である。

 いくら三人で喋っていても、ガチガチの構成で勝ちに来ているフルパには勝てない。



 あぁ、悪癖なんだろうなと思う。

 こういう理不尽に抗いたくなるんだ。



「じゃ、こっから勝とう」



 このゲームの競技性の高さはキャラクターの当たり判定にも反映されている。

 リップスの場合、後方ジャンプ攻撃の僅か数フレームだけ身体の当たり判定が物凄く細くなる。

 打撃無敵も飛び道具無敵も無いリップスはこの避け行動を多用するしか延命の方法が無い。



「は、えっまじ?」



「なななんで当たってないの?!」



 『目押し』と言って答え合わせしても信じて貰えないだろうなと思う。ただ相手の前隙を見てからビタで合わせているだけなんだけど。

 別に無敵合わせした方が楽、でも相手の回復不可が手軽に出来て且つスリリングな気持ちで扱えるのはコイツしかいない。


 まぁつまりズルはしていない、OK?



「嘘、だろ?」



「.......(゚Д゚)」



 敵陣営を全滅させた事で勝利条件を満たし、僕らのチームが勝利した。

 デカデカと画面を覆うWINの文字が、これと無い満足感をもたらせてくれた。



「 WIN......じゃないでしょ?!」



「やや、ややばいよッ?!!ヤバすぎるよホントにッッ?!」



 ここまで驚かれると返って気持ち良い。ややや星人になった塩竿君の肩をポンポンと叩き、くしゃっと笑ってみせる。



「ま、こんなもんだよ」



「いや楠......いやシオン!お前すげぇよマジで」

「どうやったの?避け行動ノーミスってホントAIでしか見たこと無いよっ」



「目押し」


「「???」」



 頭に宇宙が広がったとしか言い様が無い二人の顔を見て僕は思わず笑う、すると釣られて二人も笑い出してしまった。



「じゃ、昼食べよっか」


「賛成ー」

「僕も、さ、賛成です」



 ゲームと昼ご飯を経てすっかり仲良くなった僕達はその日の帰り道まで一緒に軽口を言い合える仲になるまで成長した。


 午後の部活動紹介でもどこに行こうか色々話せてものすごく楽しかった。


 帰宅した後に二人が運営するクラン『ドックリール』への加入申請が届いた。

 その日は感極まってしまい、思わずはしゃぎ過ぎて同居人にブチ怒られた。


 青春の二文字に手をかけた

 それだけで満足して眠りにつける。









『アナタのアカウントは凍結されました』



『私達はソール&ルナ公平で楽しく安全である事が何よりも大切だと考えます。

 この度、アナタのアカウントがソール&ルナ利用規約及びガイドラインに反していることが確認されたためゲームマスターの審判によってとなりました。

 尚所属クランにも同様に三ヶ月のクラン戦出場停止処分、クランマネー1000万ゴールドの剥奪、クランマスター、サブマスター共にのアカウント停止処分を課します』





『ご理解御協力の程お願い致します』

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