四題め 創作の踏み出し

 のっけから余談だが、現在北上中である。

 払暁前の真っ黒な世界を空港目指して突っ走る列車の車内。隣には着膨れた同行者が寝ている。午前中には北の大地に上陸だ。楽しみ。



 それはさておき、創作雑談。今回のテーマはこんな感じ。


 新しい物語をつくるとき何から手を付けるのか。


 文筆にせよ作画にせよ、はたまた映像にせよゲームにせよ、およそ創作と名のつく趣向を持つひとびとが最初にとっかかる問題はこれである。いや、大きな主語は柄じゃないから、この言い方は止め。

 筆者の場合はここから悩む。うん。こっちが正解。


 稀に、夢枕で物語のほぼ全容が降りてきて寝起きにそのまま一気に書いた、なんてこともあったが、基本そういうことはない。筆者の著作のようなだらだらとした展開(主に長編)の物語でも、けっこう七転八倒してるのだ。


 さまざまな方の言説や各種指南書によれば、例えばライトノベルであればキャラ命、本格ミステリーであればなによりもトリック、ホラーであればクライマックス、みたいな提案がなされていたりする。もちろん異論もある。

 筆者の書くSFなどは短編が主ということもあるので、なんかひとつ特別な(もしくはありえない)ことをやらかそう、というところから始まることが多い。

 例を挙げれば、『レリックコレクター』などは、とりあえず地球をばらばらにしてみよう、からスタートした。もっともあの作品はKACというお題コンテストがキッカケだったので、アイディア以前に「本」というお題があったからやり易かった。いわゆる二題噺というわけだ。

 一方で、筆者がしばしば手掛ける現代ドラマのいうジャンルだと、ストーリーテーマとキャラクターのどちらもが重要だったりする。ストーリーを決めて、それに合ったキャラを配置するやり方もあれば、キャラがストーリーを生み出して牽引するやり方もある。そしてどちらにも面白い前例は数多あるのだ。

 で、どうするか。


 事例でいこう。

 処女長編である代表作『駅弁大学のヰタ・セクスアリス』の場合、書き出しは「勢い」だった。

 もともと長編の予定などなく、タイトルさえ別物だったとっかかりの動機は友人のコロナ隔離だった。令和四年の年始早々に陽性判定を受け、ホテルに隔離されると言う友人に、

「暇つぶしになるエロい小説でも連載してやるよ」

 といった軽い調子のものだったのだ。本編第二章「ファインモーション」から書き始めたそれがまさかの三十七万字にまで達するのだから、世の中わからない。

 いずれにせよ駅ヰタに関しては、はじめにエロありき、だったことからも、あきらかにテーマ主導の作品だったと言えよう。テーマ遵守ではじまったのだが思ってた以上にキャラ(この場合、天津原涼子ファインモーション)が走りだし、そこから周辺人物の深堀りに興味が移って、気がついたら長編青春群像劇。図式にするとこんな感じだ。


 テーマ → キャラクター → ストーリー


 一方現在連載中の最新作『ボクの名は』に目を移すと、こちらははじめからテーマをボーイ・ミーツ・ガールと固定して、ストーリーのアウトラインも決めていた。そのあとにストーリーに見合ったキャラクターを創造し、話数を重ねながら肉付けして解像度を上げていく。

 駅ヰタでの図式に当て嵌めるならこうなる。


 テーマ・ストーリー → キャラクター


 ヒロインの導師グルという重要な役柄を仰せつかったさかえさんなど、物語最序盤に用意されたコンビニでの逸話に触発され、急遽出番を与えられた後付けのキャラだったりする。


 こうして考えると、現代ドラマというジャンルでのストーリー主導VSキャラ主導勝負はどっちもありが結論のようだ。少なくとも筆者の場合。



 と、ここまで書いたところで、向かいの窓の向こうが蒼くなってきた。

 夜明けの先に空港が待っている。

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