第三章 嵐を呼ぶ!4期生襲来!なお当然常識人ではない!
4期生初配信をみんなで見よう!① #超新星現る
「まもり、やほ〜」
「おじゃまするね」
「おつかれさま!!」
「あら、いらっしゃい」
伝説となったIAPフェスティバルから1週間。
あたし達あまとうは4人揃って、まもりの家に居た。
「もうあれから1週間経つんだなぁ」
「ほんとに激動だったね」
「私とまもりはそんなに大変じゃなかったけど!」
「先週の主役は2人だったもの。それでいいのよ」
お互いの苦労を労いながら、宅配ピザとウーバーイーツを広げて、ジンジャーエールで乾杯する。
…………ごめん嘘。ジンジャーエールと同じ色の酒。すなわちハイボールです。
時子が酒を飲みたいと言って譲らず、あたし達が折れた形。
まあ、それくらい時子が我を出すようになったってことで、嬉しくはあるかな。
「あの配信、反響すごかったね!」
「切り抜きたくさんあがってたわね」
「みんなわたしのこと素敵って言ってくれて、嬉しかったよ〜」
「あたしの元信者たちが時子に鬼スパチャしてたのは流石に肝冷えたけど……」
「あれすごかったね。アイコンを同じにした人たちが『聖女降臨のお手伝い感謝です!!お布施です!!』ってスパチャして帰っていくの」
「あれこそ本物のガチ恋じゃないかしら」
「もはやガチ恋じゃなくて宗教だよアレは……」
「大丈夫。彼らはもう手懐けたから」
「つよい」
IAPフェスティバルはあたしの初配信を遥かに超える、過去最高の同接数を記録した。
そのお陰でトレンドは上位独占、数日間は切り抜き動画や関連動画が再生数上位に入り続けた。
再生数上位の動画のタイトルはこんな感じである。
『【コント集団】IAP、やはりIAP【ボケの大渋滞】』
『若旦那によるセンスが光る選手紹介まとめ』
『【てぇてぇ】奏&うらら、末っ子組が親友と呼び合うまでの軌跡』
『【今日も今日とて色仕掛け】ハニートラップに失敗するエロ川愛璃さん【ざまぁ】』
『【速報】富士宮時子、覚醒【天才現る】』
『【天才の本気】時子のガチ演技まとめ【蹂躙】』
『江戸川愛璃、何かを憑依させてしまう』
『【化物】バーサーカーと化した愛璃【ガチ演技バトル】』
……とまぁ、半分くらいは例の演技対決だ。
なんか1本あたしを馬鹿にする内容が入っていたが、全てのコメントに「あたしを見て♡」って返信したから大丈夫だろう。何故かみんな「こわい」って言ってきたけど。なんでかなー?
もちろん演技対決に対する反響も大きく、時子とあたしにお芝居(VTuberである都合上基本ボイスドラマとかだけど)のオファーが来たり、インタビューの依頼が来たりとてんやわんや。
それに加えて、あたしの場合はほぼほぼ過去が露呈したため(ゆーつーぶにも『江戸川愛璃=歌川花桜莉の証拠集』とか考察動画多数)、それの事後処理にも終われてしまったというわけだ。
ちなみに、時子の配信に出現した例の信者軍団だが、今もネット掲示板に生息していたアイドル末期のあたしの信者たちが久しぶりに息を吹き返し、全力で貢いだということらしい。
あのあと配信で「あのアイドルはもういないよ!諦めろ!今は江戸川愛璃を愛そうね!!」と注意喚起してみたら、事態はすぐに収まった。
けど、彼らは『歌川花桜莉信者だったけど、江戸川愛璃にはどうやってもガチ恋できない』らしい。まとめて隕石に潰されろ。
「はぁぁぁぁ………今週あんまり寝れてないなぁ。何かいいアイテム無いかなぁ」
あたしがピザを食べながらため息を付くと、まもりが何やら立ち上がった。
「どうしたの?」
「愛璃ちゃんに使えそうなグッズがあって……」
そう言ってまもりは、めっちゃデカい段ボールを持ってきた。
「でっか。何入ってんのこれ……」
その中を覗いてみると……。
アイマスク、ぬいぐるみ、まくら、ぬいぐるみ、クッション、ぬいぐるみ、ぬいぐるみ、ぬいぐるみ……
「若旦那から貰ったのよね」
「ぬいぐるみしかないじゃん!!」
「快眠グッズ詰め合わせだって」
「どこがよ!?ただのファンシーフェスティバルだよ!!」
「この間ネズミーランドに行ってきたお土産だって」
「じゃあ若奥様のチョイスだね……どうりで同じキャラばっかり……」
そう言いつつも、あたしは1つのぬいぐるみを貰う。
そして、みんなに1つずつ同じものを渡す。
「え?」
「わたしにも?」
「いいよね、まもり?」
「ええ、もちろん」
「これは、あまとうの絆の証ってことで」
「うん!!」
「そうだね」
「そうしましょう」
そうやって、かけがえのない仲間たちとの思い出が1つ増えていく。
◇
時は流れて午後9時。
あたし達は、モニターの前に集結した。
「いよいよデビューだねぇ」
「どんな子が来るんだろ!」
「大丈夫かな大丈夫かな……」
「そろそろ始まるわよ」
今日のメインイベント、4期生デビュー。
待機画面の向こうにいる2人には、直接会ったことはない。
けれど、その気持ちは。
初配信前の何とも言い難い感情は、痛いほど分かる。
…………まぁ、その感情に任せた結果笑い者と化した人間が、ここに居るんですけどね。
はーっはっは!!………はぁ。
「なんで愛璃がため息吐いてんの!」
「この場で時子ちゃん以上に緊張していい人間はいないわよ」
「大丈夫……大丈夫だよ……」
画面の前でめちゃめちゃ緊張している時子。
何を隠そう、今日デビューする子のうち片方は時子のスカウトである。
元々の知り合いだ、そりゃ自分のことのように緊張するだろう。
そんな時子に、あたしは優しく微笑みかける。
「心配しないで。あたしも全力かけてサポートするから」
「…………うん!ありがとう愛璃ちゃん。本当に心強いよ」
そして、遂に画面にアバターが表示される……!
「おー!」
「一気に2人もきた!!」
「同時初配信ってこと!?」
「めっちゃかわいいよ2人とも……」
同時に公開された、2人のアバター。
右には、ピンクの髪をボブにした女の子。
黒のヘアバンドが可愛さを引き立て、垂れ目からは色気も感じられる。それでいて口元のホクロ!エロい!!
服装はピンクのカーディガンに、制服を意識した、アイドルが舞台で着ていそうなセットアップ。非常に、ひじょーに、あざとい!!
左には、ライトグリーンの癖っ毛をウルフ気味に伸ばしている女の子。
前髪を留めるヘアピンが元気さを示し、チャーミングな八重歯と一緒に幼い雰囲気を醸し出している。若いって感じがする!
服装はラフな緑のパーカー。バチバチのピアス、萌え袖、生意気な眼。世界を舐めてそうですっごく好み。あたしの性癖ストライクだ!!
「やばい2人ともかわいい」
「最近の愛璃ちゃん、私達のせいで女の子にもえっちな目線向けるようになったわよね」
「断じてえっちな目線ではない。同性としての共感と憧憬だ」
そして、マイクがオンになり、2人の第一声が入る。
『世界のみなさんこんにちは、
愛媛から遂にここまでやってきました!
これからみんなに夢を届けます!!
よろしくお願いします〜!!』
まずは、右側のピンクの女の子。
ハツラツとした声量に、清純の塊みたいな声色、希望に満ち溢れた言葉。
すっごい眩しい。キラキラしてる。すごい。
「うん……!いいよよく出来てるよ、グミちゃん……!うんうん最高素敵……!」
限界お母さん化している隣の青髪を見るに、この子が時子のスカウト先なのだろう。
良かったね、時子。
「そして一緒に、この子もデビューします!」
そして、左のグリーンの女の子が口を開く。
『ちわーっす。
視聴者のみんな、かわいいからってボクの魅力にころっと落ちちゃだめだぞー。
まぁ視聴者のみんなはざぁこ♡だから、惚れるのも仕方ないかもねぇ〜。ぷぷぷ』
…………何!?メスガキキャラですって!?
特徴的な鼻にかかった声が、その印象をより強くしている。
ボクっ娘メスガキキャラって、スタートの時点でどんだけキャラ濃いのさ。いやあたしが言えることじゃないけど。
「…………ちょっとちょっと。この声聞き覚えしかないんだけど。私毎日のように聞いてるんだけど」
しかし隣で体を震わせているまもりに気づき、一体何があったんだと声をかけようとすると―――
すぐに答え合わせがあった。
『ちなみに、ボクの前世はボクモン実況してた『ドラゴンたま』だよー。
IAPのまもりちゃんともよくネットで対戦してたんだ。まぁ、ボクが毎回ボコボコにしてるけどね〜。いひひ』
「あんの、メスガキがよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
どうやら、彼女の正体はまもりの仇敵。
―――毎回配信でスナイプしてくる例のドラゴン娘、ってことらしい。
どんまい、まもり…………。
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