【本編】第一章 メンヘラ発動しちゃったせいでガチ恋勢が消えたんだけど……

産声がセ◯クスの懇願だったVTuber #伝説の始まり

Vtuber。

3次元の世界から自らを2次元へと投射し、3次元にいる視聴者へと発信する存在。

彼ら或いは彼女たちは、2次元を挟むことにより、通常の配信者にはない魅力を生み出している。

それを示す最たる例が―――ガチ恋率の高さ。




初配信2分前。

企業の事務所から大々的に宣伝されているVTuberなら、コメント欄は期待と考察で盛り上がり、同接も万単位はザラだ。

あたしの所属することになった事務所、「インターネット☆エンジェル☆プロジェクト」、通称IAPも中堅以上の立ち位置を有しているのだから、世間の注目度も相当のもの。


しかし今目の前に映る配信の待機画面、その同接数は―――正直あまり多くはなかった。



「プロモーション、失敗したかなぁ……」



今回あたしと共に数人の同期がデビューすることになっているが、その誰もがプロモーションに本気を出していた。

絵画少女のアピールで、界隈がざわつくクオリティの18禁イラストを描いた女。

文学少女のアピールで、10万字に渡る夢小説を書き上げ、無料で公開した女。

秀才少女のアピールで、毎日東大の2次試験解説資料をアップし続けた女。



それらに比べて、あたしの行ったプロモーションは、素人に毛が生えた程度。

最低限のビジュ公開や設定説明くらいでは、彼女たちへの注目度には遠く及ばない。



しかし、あたしには大きな武器がある。

百戦錬磨の恋愛で磨き上げた―――話術。コミュ力。男を落とすスキル。

注目度がないのなら、これらの技術でのし上がっていけばいい。

プロモーション力がないのなら、配信が始まってから逆転すればいい。



ガチ恋勢を多数産み出すため。

彼らにチヤホヤされて承認欲求を満たすため。

そして、あたしの不足した愛を埋めるため。



あたしの物語を、また始めよう。

あたしらしい物語を、ついに始めよう。

現実世界の、歌川火織うたがわかおりとしての物語ではなく。

VTuber、江戸川愛璃えどがわあいりとしての物語を。



配信が開始となる。

期待と不安の声でコメント欄が埋め尽くされる。

立ち絵を表示し、息を整え、あたしはこの世界に産声をあげた!!




「あたしは男が大大大好き!!

 四六時中恋愛しか考えてない!!

 お前らガチ恋して!!

 配信であたしと疑似えっちしよっ!!!」












……2日後。



「えー、どうもこんにちは江戸川愛璃です。初めての通常配信を行います」



コメント

・伝説の再来

・あれ?この人逮捕されてたんじゃなかったっけ

・産声が性行為の懇願だったVTuberはこちらですか?

・事務所の初配信同接数の記録を大幅に塗り替えた女

・視聴者全員を逆ナンした女

・自らネットのおもちゃに成り下がった女

・立てば性欲座ればビ◯チ、歩く姿もセンシティブ

・ママ〜あの黒髪清楚ぶったド淫乱ピンク女ってだれ〜?

・子どもは見ちゃいけません!

・大人も見ちゃ駄目なレベルだろ……



「もう!好き勝手言うねお前ら!流石のあたしも傷つくんだが!!」



コメント

・自分で点けた火に文句言うなよ

・我々はエロ川さん自身がガチ恋を希望したお客様なんですが

・ガチ恋してほしいならそれ相応の態度ってものがあるよね?

・ほらほらどうした論破してみろよ

・経験豊富(笑)

・男を落とす美しき小悪魔(笑)

・モテモテ清楚系ビ◯チ(笑)



「…………はぁ」



罵詈雑言と皮肉とネタで埋め尽くされるコメント欄。

一昨日までは「かわいい」「すき」で埋め尽くされる想定だったのに。



「今日の雑談のメインは、一昨日の初配信を振り返るってヤツです。正直自分でもここまでバズり散らかすとは思ってませんでした。その点は嬉しい限りですはい。

 でも……なんであたしにガチ恋してないのよ!?超絶美人なビジュアルにどんな相手もワンナイトに持ち込める話術なんだよ!?コロッと恋に落ちてよ!!」



コメント

・登録者20万人突破してて草

・こんな淫乱ピンクを見たい人間が20万人もいるのか……

・動物園の感覚です

・一旦胸に手を当てて考えようか?

・淫語連発、奇行暴露、挙句の果てにメンヘラ発動。こんな女にガチ恋する視聴者がいるとお思いで?

・ガチ恋狙うなら捨てられた男思い出して泣くなよ……

・ガチ恋狙うならマッチングアプリで男漁ってた話すんなよ……

・どしたん?話聞こうか?



「え、あたしのこと分かってくれそうな視聴者さんいる……。ふたりきりで話聞いてくれないかなぁ……♡」



コメント

・そういうとこだよ

・大概だなエロ川くん

・チョロ過ぎて草

・これ、視聴者側にガチ恋する系VTuberですか?

・すっごい貢ぎ癖ありそう



「うっ……あたしの少ないバイト代を毟り取っていったヒモ男の記憶が……ぐはぁっ」



コメント

・だからそういうとこやねん

・話進まなくて草

・初見です。この人、地雷原か何かですか?

・おもしれー女です

・重しれー女です

・激重メンヘラな自称軽い女です



こほん。

…………どうして、こうなったんだろう。



何度整理してみても、よく分からない。

初配信の初っ端で「ガチ恋してこい」と言ったのは、はっきり覚えてる。

けど、そこでえっちだのセ◯クスだのって口走ったからか、あたしの中の変なスイッチが入っちゃって……およそ5時間、休憩もなしに話し続けた。

その内容は最低限の自己紹介と配信予定、グッズ販売などの告知を除き、9割9分、恋愛の話。

過去の恋愛を掘り出して話して号泣して、捨てられた男に呪詛を吐き、それでもモテることを高らかに自慢していたり、視聴者のコメントとプロレスじみたことをしていたら、いつの間にかトレンド上位になり。

騒ぎを聞きつけた流入視聴者も加わり、コメントで恋愛相談を募集したりなんかして祭りへと発展。

終了した深夜2時時点で、同接数は事務所どころか業界全体でも歴代トップクラス。トレンドは当然1位。



翌日も、数多の切り抜き師による動画がランキングを席巻した。


『メンヘラ淫乱ピンク(アバター真っ黒)、とんでもない産声で現世に降臨してしまう』

『期待の(愛が)重量級新人、江戸川愛璃さんの初配信切り抜き』

『【悲報】エロ川愛璃さん、初配信にて経験人数を暴露』

『童貞視聴者にマウントを取るクズ男ホイホイ新人VTuber』

『他人の恋愛相談で号泣して嘔吐する小悪魔系(笑)VTuber』

『1時間前は清楚系を謳っていたVTuberが、ヤリ◯ンであることを認めるまでの一部始終』



…………終わってますわ。



今考えても結構酷い有り様だったが、プチ炎上くらいで騒ぎは収まり、界隈はかなり好意的に捉えてくれているみたい。大好き。

でもその界隈のファンたちには「おもしれー女」だの「特級呪物」だの言われ、ガチ恋勢は壊滅した模様。泣ける。



だが、私は諦めない。

ガチ恋勢に崇め奉られ、思いっきりチヤホヤされる為に、あたしはVTuberの覇道を突き進むぞ!!



「ふっふっふ……。あたしがガチ恋ファンから得た満額スパチャで満たされて幸せになる日も近い……」



コメント

・大丈夫?ガチ恋勢は壊滅したんだよ?

・いい加減現実見ようよ

・白馬の王子様とかいねぇぞ

・まずそのメンヘラ治したら?

・金で満たされるのがまず間違ってる

・いちいち重いんだよお前……








「はぁ〜!?死ね!!!死ね!!!!!!◯す!!!◯す!!!あたしの手で◯す!!!!!絶対に◯す!!!お前ら全員いっぺんまとめて◯してやる!!!!!!」








うん、けっこう時間かかりそうだね…………

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