第29話

『貴方は他とは違う形で力を付けたのですね。普通は我々、妖狐を人間が見つけることは非常に難しいのですが、素晴らしい程に魔素と調和できています』


「ありがとうございます」


『改めて我が子を助けてくれたこと、お礼申し上げます。まずは治療を進めます··········これで大丈夫でしょう』


 親狐から魔素が流れ小狐の中に入り込む。さっきまで昏睡していた小狐がゆっくり目を開けた。


「キューン」


 小狐は正座している俺の太ももの上に乗っかりくつろぎ始めた・・・



『あらあら、随分とアルスを気にいったようですね。 どうでしょう、アルス達の旅に我が子を連れて行っては貰えないでしょうか?』


 正直、この展開を予想してなかった訳では無い。ないのだが・・・危険もある旅に連れて行っていいのか悩むアルス。


「·····危険を冒す場面もあるかと思います、それでもよろしければ是非、一緒に旅をしたいと思います」


『貴方は正直な方ですね、よりこの子を任せたくなりました。 名前をつけて下さいな、アルスは魔力が無い様ですから私が従魔契約の手伝いを致します』



 ちょ、ちょっと待ってくれ! 従魔契約!? こんな神々しい存在の子供と???

 ま、まじか〜・・・まあ俺が死んだら母親のところに戻るだろうし。


「名前は決めてあります、クマラ。お前の名前はクマラだ」


 足の上でくつろいでる小狐に頭を撫でながら名前を付けると、母狐の方から暖かい魔素が放出し、アルスとクマラを包み込む。


『··········これで契約完了です、意思疎通も可能になってると思います』


「·····クマラ?」


『·····、あ··········アルス! 僕だよクマラ!聞こえてる?』


「あぁ、聞こえてるぞ! これからよろしくなクマラ!!」


「何故か俺にも聞こえているのだが·····エレノアはどうだ?」


「え、えぇ。私も聞こえています」


『恐らくアルスと一緒にいることで魔素が反応したのでしょう』


 おぉー、それは助かるな、連携が取りやすくなる!




 ◆ ◆ ◆




『それにしても龍人族にハイエルフですか、凄いパーティですね』


「はい、自慢の仲間達です、たった今からクマラもその仲間入りです」


『アルスとの旅たのしみ!』


 く、可愛すぎるぞクマラ!!

 もう少し大きくなったらモフモフしまくってやるからな!


『この大森林エリアにはまだまだ希少種が沢山います、是非楽しんでいってくださいね』


「ほんとですか!? やったなダイアス、強い魔物と戦えるかもしれないぞ?」


「滾ってきたぞ!」


「はぁ、ダイアス少しは自重して下さい」


 いやいやエレノアさんや、あなたも大概だからな? 口角上がってるのバレてるからな??



「それではそろそろ行きます、ありがとうございました! この出会いに感謝を」


『お母さん行ってくるねー!』


『我が子をお願いしますね、アルス達の旅に幸があることを祈っています』




 その後は数々の希少種と会話したり戦ったりを繰り返していた。 希少種と言ってもゴブリンやオーガ等の亜種などが多かった。


 大森林エリアは木々が生い茂っている所ばかりだったが、その場所だけ生えていなかった。 円を描くように綺麗に整地された所の中央に、額にツノを生やした人型の魔物が立っていた。



「人?··········いや、額にツノが生えてるってことは、鬼人族なのか?」


 アルスは声をかけようと歩を進めた。


「「「ッ!?」」」


 座って目を閉じている鬼人だが、アルス達は〝間合い〟に入ってしまった。 間合いに入っただけで、ビシビシ伝わってくる鬼人の戦闘力の高さ。 クマラも全身を震わせていた。


「··········来客か、久方ぶりよのう」


「クマラは俺の近くにいてくれ、ダイアス、エレノアで攻め続けろ。俺は援護に回る! エレノアは遺跡で手に入れた双剣を使え、今までの戦闘でだいぶ慣れてきてるから大丈夫なはずだ。ダイアスは刀を使わず全力でやれ」


 エレノアも遠距離攻撃はできるが練度はアルスの方が上、ダイアスはもちろん接近戦特化なので、アルスは援護に徹する選択をした。


「3人とも良い闘気じゃ、どうか死なないでくれよ?」


 あまりの強者を前に対話を試みる余裕などアルス達には無かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る